表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全テをハ壊スル者  作者: 南十字
一章 力無き弱者
12/89

十二話 裁きの光

 修道士の前で宙に浮きながら一人でにページがめくれる分厚い本。

 修道士は、その本に手を突っ込む。


「女神様とは、この世で最も清い存在。それ故に最も偉大で最も強い。この剣は、女神様の欠片(かけら)


 本の中からゆっくりと現れたのは、所々光輝く、真っ直ぐな短剣だった。

 武器にと言うには小さすぎるそれを、修道士は逆手にかまえ、左手に光の鎖を握る。


「女神様の力、恐縮ながらお借りします」


 修道士はそう呟き肉薄してくる。

 走る修道士の周囲に、光の矢尻が複数出現する。

 光の矢尻は修道士と共に少年に迫る。

 少年が短剣を避ければ、避けた方向に矢尻が飛んでくる。

 短剣を弾こうとすれば、矢尻が先に着弾してタイミングをずらされる。

 短剣と矢尻に翻弄される少年、更にそこに光の鎖まで加わるのだから、もうどうしようもない。

 隙のない強力な攻撃に、少年の肉体は悲鳴を上げる。

 刻まれた傷は激痛を呼び、動きが悪化する。そしてまた攻撃を喰らう。終わらないループに、少年の精神までもが擦り減る。


(このままじゃヤバい!)


 少年の心は焦りに焦っていた。

 だが、その焦りのせいで思考が単調になり、中々打開策が見つからないまま過ぎてゆく。


「この程度ですか」


 修道士はつまらなそうに言い放ち、短剣で心臓をめがけて突きを放つ。


「悪魔は心臓を潰さないとですね」


 修道士は勝ちを確信し、嘲る様な笑みを浮かべる。

 だが、その笑みはすぐに驚愕の表情へと変わった。

 少年が想定の位置よりも少し後ろに居たのだ。

 それにより傷が浅くなり、致命傷を避けている。

 少年は固まっている修道士の腕を掴む。


「なんだか知らねえが、ミスってくれてありがとよ」


 少年はもう片方の空いた手で拳を作り、修道士を本気で殴る。

 修道士は吹き飛ばされるが、よろけながらも転びはしなかった。

 修道士の右手から大量の血液が溢れる。

 少年は拳で殴りつけるのと同時に、掴んだ手を破壊していたのだった。

 少年は地面に落ちた短剣を拾う。

 修道士はそれを痛みに耐えた表情で睨んでいた。


「貴方如きが、その聖なる短剣を握るな!」


 修道士は激昂する。


「じゃあ手離すなよ」


 少年は短剣を手で弄りながら、修道士を挑発する。

 修道士は挑発に乗って真っ直ぐ突っ走ってくる。

 少年に飛び蹴りを放つ修道士だが、少年はすぐに短剣を投げ捨ててそれを受け止める。

 少年に足を掴まれてしまった為、修道士は体勢を崩し、倒れてしまう。

 その隙を見逃すはずも無く、少年は修道士の足を破壊し、すぐさま頭を掴んで地面に叩きつける。何度も叩きつける。

 修道士は光の矢尻を生み出して抵抗しようとするが、頭を掴まれている為、視界が塞がれて矢尻は的外れの方向へと飛んでゆく。


「どうだ?今どんな気持ちだ?」


 少年はぐったりとしている修道士にそう問いかける。

 しかし、返答は無く、ただ呻いているだけだった。


「そうかそうか。言葉も出ない程悔しいのか」


 少年はにこやかに笑いながらそう言う。


「じゃあ死ね」


 だが、急に無表情になって言い、破壊しようと手に魔力を込める。


「!?」


 だが、後方から放たれた、魂から恐怖する様な殺気によって止められた。

 少年はすぐさま後ろを向き、警戒する。



 何も見えない新月の暗闇に、蒼い炎の球がポッと現れる。

 炎はゆらゆらと揺らめいている。

 更に、もう一つ炎が現れて、二つの炎が宙に揺らめく。

 炎はごく小さな範囲を照らす。

 コツ、コツ、と足音が響く。

 炎に照らされ現れたのは一人の少女。

 特徴的な服を身に纏い、頭には狐の耳が生えている。

 尻尾をゆっくりと振り、少年を冷たい目で見つめる。


「こんばんは」


 凛とした声が響く。

 少女は無防備な状態で歩いている。


「ッ…」


 少年は未だ放たれている重圧に冷や汗を流す。

 少女から放たれるのは、まるで怪物の様な絶対的な圧。

 巨大で強靭で威厳のある殺気は、少年の魂を縮みあがらせる。

 少年の危機感は、赤いランプを灯しており、今にも逃げ出してしまいたいと悲鳴をあげている。

 だが、今逃げたら殺されると言う事が本能的にわかってしまい、逃げるに逃げれない。


「その方は?」


 少女が抑揚の無い声で倒れる修道士の事を聞く。


「コイツは俺がやったんだよ…!」


 少年は虚勢を張る様に本当の事を伝える。

 少女は少し考えた後、口を開く。


「何故?」


 少女は必要な事だけを淡々と問いかける。


「俺を悪魔だとか言って襲ってきたからだよ」


「成程。じゃあ、なんで魂が二つあるの?」


 少年は、少女の意味不明な質問に首を傾げる。

 だが、急に胸に激痛が走る。

 心臓が破裂する様な痛みに、少年はのたうち回る。

 少女は少年に近寄り、腰に差した刀を抜き放つ。

 霞む視界の中、少女が刀を振り上げるのが見えた…

 少年の意識は、闇へと消えてゆく。



――――――――――――――――



 少年を逃した後、ネールナルは後処理に追われていた。

 亡くなった兵士や信者、未だ暴れる信者の残党、血で塗れた裁判所。

 城内を東奔西走し、気がつけば日もすっかり落ちてしまっていた。

 新月の暗闇で、ここぞとばかりに瞬く星々を眺めていると、何やら街が騒がしい。

 ネールナルがそちらに目をやると、光の魔法が放たれていた。

 まるで星の様にも見えるそれは、何かに目掛けて放たれていた。

 ネールナルは嫌な予感に駆られ、すぐに街へと繰り出した。

 先の争いで傷が痛むが、それよりも民が大切だと己を奮い立たせ、魔法を使って全速力で走る。

 大通りに出ると、騒ぎの現場がネールナルの目に入る。

 倒れる人とその近くにへたり込む人、そして、何かを振り上げる人が居た。

 遠くからではよくわからないが、あまり良く無い事が起きているのは定かだろう。

 近づけば近づく程、悪い情報が目に飛び込んでくる。

 血に塗れた石畳、頭の無い死体、悲鳴を上げる民。

 どうやら、騒ぎの中心に少年が居るらしく、ネールナルは激しい不安に駆られる。


「少年!?何故戻ってきたんだ!」


 遠くから叫ぶと、刀を振り上げた少女がこちらに視線をやる。

 その瞬間、ネールナルの体中から汗が吹き出す。

 近づいてはならない。本能が警鐘を鳴らす。

 ネールナルはその場で立ち竦む。指の一本も動かせない。

 少女は少年に向き直り、その刀を少年に振り下ろす。

 少年は両断され、前のめりに倒れる。傷口から溢れる血が、地面を赤く染めた…

 筈だった。

 気がつけば少年は無傷で立ち上がり、その身体に黒いオーラを纏わせる。


「!?確かに斬ったよな?」


 少女は少女らしからぬ口調で動揺を露わにする。

 ネールナルも、今起きた事象を全く理解できていない。


『我は全テをハ壊スル者』


 少年の口から、おどろおどろしい声色で言葉が出る。

 その言葉には憎悪と怒りが詰まっていた。


「コレはまじいな…」


 少女はそう呟くと、浮かばしていた蒼い炎の球を刀に纏わせ、その身にも蒼炎を纏わせる。

 少女は少年に肉薄し、刀を振り下ろす。

 少年は刀を破壊しようとするが、破壊のオーラが蒼炎によって燃やされてしまう。


『!?』


 動揺した少年を蒼炎を纏った刀が襲う。

 綺麗な袈裟斬り。普通であれば致命傷になる。

 だが、何故か傷は浅く、致命傷には至らなかった。



 少女はその事に驚きはしたが、すぐに切り替えて追撃に向かう。

 少年が破壊のオーラを放つが、少女は蒼炎の球をぶつけて相殺し、少年に斬りかかろうとする。

 しかしその時、少年の右腕から膨大な量の破壊のオーラが溢れる。

 下段から逆袈裟の軌道で少年を襲う刀と、少年のオーラを纏った拳が衝突する。

 激しい衝撃波にネールナルは顔を手で覆って耐える。

 衝撃波が治まり、ネールナルが顔を上げるとそこには、拳を握って残心する少年と、右腕の無い少女が立っていた。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ