第七話 雑魚は波に踊り
潜伏開始から5日、船が来た────
「来たか···」
木を削って作ったウッドナイフを袖に固定して立ち上がる。
寝泊まりした痕跡をかき消してから港に向けて歩き出す。
道中、フェリー目掛けて駆け出す職員達の姿が遠くに見え隠れしていた。
俺と同じ島にいたくないのは分からなくもない。
誰だって自分の命は大事だ。
まぁ·····結局は運次第だが。
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港に近づいた───
港に錨を下ろしているのはフェリーで、豪華客船ほど飾り立ててはいないが、割と新式の大型船だった。
さて、どう乗り込むか·····。
懐から取り出した乾電池を手で転がしながら思考を巡らした時、船が騒がしいことに気が付いた。
見ると、タラップから次々と、武装した集団が小走りで陸に降り立った。
成程、これはもしかするともしかするかもしれんぞ·····。
武装した者の中には、何やら大きなキャリーを抱えた奴がちらほら見える。
運びの慎重さからすると、大型の爆弾か、地雷の類いの可能性が高い。
「おいおい····マジかよ」
こりゃ、めんどくさい事になったぜ。
浮き足立つ心を落ち着かせて計画を立てる。
職員が全員船に乗り込むまで、かなりの時間がある。
その間に、誰にもバレずに船に侵入しなければならない。
さもないと·····。
「島ごと吹き飛ばすつもりだな·····」
元締めは分からないが上の組織は、収容している患者(?)は見殺しにするつもりだ。
俺一人殺すためにここまでするとは····。
ここの研究所が用済みだったのでこの際に消しておくつもりかもしれんが。
毎日質問ばっかで何もしてこなかったもんな·····あの施設。
怪しげな手術をされなくて良かったと考えるべきか、逃げる隙が無かったのを悔やむべきか。
さて、気を引き締めよう。
ゆっくりとその場を離れ、船をぐるりと円を描くように遠くから回り込む。
なるべく距離を取りながら、浜辺に出た。
砂を背中に被りながら、ほふく前進で海を目指す。
兵達が遠くに見えるが、全員が向こうを向いているので、見つからずに波打ち際にたどり着いた。
近くで浮き沈みする大きめの流木に隠れて泳ぐ。
ゆっくり、ゆっくりと、船を目指して·····。
ゴツン、と船に流木がぶつかった。
藻がまとわりついている大きなスクリューが波の下に見える。
·····船の後方部に着いたようだ。
「上々、上々」
頬を緩ませながら、船の角に両手をかけて登ろうとする。
「まぁ無理か·····」
青く塗装された出っ張りのない船を、海水に濡れた手で登るのは無理があったようで、バレットは小さな飛沫を上げて海に落ちた。
やはりロープを使うしかないか。
倉庫に長いロープが入っていたのは幸運だったな。
懐から取り出したロープを、上に見える手すりに投げて絡める。
手に握ったロープをどんどん繰り出して、投げた方の端を手に取る。
あとは説明する必要あるまい。
とにかく俺は、船尾から船内に無事侵入する事ができた。
それも誰にも出会うことなくだ。
今日の俺はつくづく運がいいようだ。
船上に上がった俺は、近くに立てかけられた救命ボートに身を隠した。