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第六話 Bullet


気がつけば、人格は2つになっていた。

能力が使えない普通の人間としての人格と、能力が使えて、戦いの時のみ出てくる人格·····



殺して───殺して───ただ殺して·····


数多の兵を葬り、畏れられて·····

いつしかその人格は異名を持った。



〝Elegant Bullet〟····と。








△△△




歯ブラシの小さな破片を思いっきり地面に投げる─────


硬い床にぶつかるはずの破片はありえない急カーブを描いて上空へ浮き上がった。



今や、肉体の制御は完全に奪われていた·····


頭が割れる様な痛みと、薄れゆく意識の淵で、古雅こが 優楽ゆうが は叶うはずのない願いを唱えた─────


誰も、殺したくない·····と。







■■■



宙を自在に舞う破片を、強化ガラスの檻の隙間に通す。


破片は、何事か喚きながらカメラに向かって手を振る医師の耳の穴に入って見えなくなった。



まず上·····そして緩やかに下·····後は渦を描いて真っ直ぐ·····



脳へ──────



破片に脳を掻き回された医師が、ドサリと床に倒れる。


「おい····どうした!何が起きてる!?」



扉を蹴破って入ってきた警備員の男が、すでに事切れた医師を揺する。



「おいお前!何か見て──────」


医師がさっき倒れた時に溜めておいた反動を利用して、医師の死体を警備員にぶつける。


警備員の腰に着いた鍵束を吹き飛ぶ向きと反対に力をかけて外して分解する。



分厚いガラスのドアに付いた鍵穴に鍵を一つづつ刺して試す·····

2つ目で、ガチャり···と、重々しい音を立てて扉が開いた─────



第一段階は上手くいったな·····。

我ながら上出来だ。


警備員が開けっ放しにしていた2つ目の扉を通って廊下に出る。

医師から剥ぎ取った白衣を羽織って、白塗りの長い廊下を進んでいく。


どちらが出口か分からない以上、行き当たりばったりでいくしかない。


·····俺にぴったりの作戦だ。


長い廊下を小走りで進む。


端にあったガラスの扉を豪快に割ると、広々としたエントランスに出た。


人間が四人·····一人は清掃員の女、二人目は警備員の男、三人目は受付の男、五人目は監視カメラの前で居眠りをしている男·····。


素早く視線を動かして、今いる空間の四隅を確認する。


監視カメラがある·····ここで殺すのはあまり良くない。


方針は決まった·····

乾いた唇を舐めて口を開く·····


「ひ、1人患者が逃げ出した!俺は本部に連絡をするから早く部屋にッ!」


「!?部屋番号は?」

「確か8号室だ!」


監視カメラに写った医師の死体と、気絶した警備員を見た男が驚愕の声を上げるのを遥か後方で聞きながら、エントランスの入口を駆け抜ける。



暖かな風が頬を撫でる─────

久しぶりの草の匂いと日光を感じながら景色を見た俺は驚いた。



「海·····!?」


ここは小島だ。

施設から出たのはいいものの、現在地が分からなければ日本を帰りようがない。


いまさっき出てきた建物から、けたたましいサイレンが鳴り響く·····


めんどくさいことになったな·····。

潮風を受けた口から、思わず苦笑が溢れる。


ボートを探すか·····。

施設の人間が使っているボートがあれば良し、なければ定期船が来るまで待つしかない。


砂浜を右に向かって走っていると、コンクリートで舗装された小さな港が見えた。


すぐ近くに、物置小屋らしき物があるばかりで、船は見当たらない·····。


無かったか·····。


どうやら施設の人間は定期的に来る船に乗って行き来しているようだ。


近くに落ちていた石で物置小屋の鍵を壊して、扉を開ける。


中には、長いロープ、懐中電灯、網·····底の方には壊れた釣竿等が埃をかぶっていた。


ロープと懐中電灯を手に取って林に入る。

林の奥へ歩きながら試したが、懐中電灯は電池が無くなっていた様で、明かりがつかなかった。



「さて、どうするか·····」


二つの大きな電池を手の平で転がしてぶつけ合いながら呟いた─────


この島にいつ次の船が来るか分からないので、港を見張るのは決定事項だ。

この島はちょっとした山になっている様で、奥に行けば行くほど木々が多く生えている。


施設の人間に注意しながら森に潜伏して船を待つ·····ひとまずはこんな所か。


施設の警備員程度に捕まるほど緩みきったつもりはないし、これだけ人の手が入っていない森なら食料はいくらでも見つかる·····。


少なくとも1ヶ月以内に来るはずだし、俺が脱走したという情報が報告されれば今すぐにでも来るだろう。


足音を立てずに木と木の隙間を通って山頂を目指す。


低い山という事もあり、ものの数分で頂上が見えた。

小さな電波塔らしきものが立っている以外には特筆すべき点はないただの森だ。


手頃な木に登って港を確認する。


よく見えるな·····。


登る途中で捻ってきたヤマボウシを三つ口に放る·····これで今日一日は耐えれる。


エネルギーも取ったし、一眠りするか·····。



外に出て自由になった喜びとこれからの楽しみを描いて笑顔になった俺は、木の上で足を組んで眠りについた。





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