第四話 目覚め
意識のどこか遠い所で、何かが弾けた音がした。
乾いた、少し攻撃的なパチリという音·····。
様々な音が脳内に滑り込む─────
カチャカチャ、ガチャリ、ズズズ、グスリ、ヒャハハハ·····
その時、ゾッ、という強烈な不快感が体の芯に響いた。
「おい!···お目覚めだぜぇ」
ガツンという衝撃のすぐ後、鼻の奥にツンとした苦痛が、吹き飛ばされた頭の中で跳ね回る。
殴られた鼻から血が垂れる····
全てを理解して絶望した理性が、突然起こされた倦怠感と俺を連れていく─────
────逃げ場のない、現実へ·····。
「気分はどうだい?ボウズ···えぇ、どうだ?」
大柄な欧米人の兵士が、俺の縛られた左手の指を思いっきり踏み付ける─────
「ぐぅぁ·····」
鋭く走った痛みに飛び出した呻きを封じ込めて、周囲を素早く見渡す·····。
7人の兵士達が、ステンレス製のコップで水を飲みながら焚き木を囲んでいる。
肩に下げた小銃を磨いたり、倒木に腰掛けたりと、各々がくつろいでいる。
周りより高い場所なのか、周囲にある筈の森が見えない。
···どうやら急な崖の上にいる様だ。
周りが見えないという事は、周りからも見えないという事だ。
だから警戒せずに焚き木を焚いているのだろう。
兵の1人が、マチェット····大型のナイフを手に取り、近づいてきた。
歪んだ笑みを浮かべた男がマチェットを手の中で転がして·····
俺の頭を狙って振りかぶった──────
····たが、そのナイフは振り下ろされずに、俺の左手に手渡された。
「は?」
男はニヤニヤと笑いながら元の位置に戻って干し肉を齧り始めた。
訳が分からないながらも、とりあえず縄を切ろうとナイフを回転させた瞬間、頭の後ろで土を踏む音がした。
「おぉっと、動くなよ···動いたら、ドンだ。」
銃をリロードした、カチャリという音が静かな夜の森に響く───。
後ろで銃を構えるのは分かるが、何故ナイフを渡したんだ?
·····俺に何をさせたいのかが全く読めない。
その全くつかなかった予想も、リーダーの兵が運んできた袋を見て氷解した。
兵が短刀で大きな麻袋を開いて、中身を引きずり出す。
····出てきたのは、1人の少年だった。
色が黒いので、どうやら現地民の子供を攫ってきたのだろう。
少年は、首を掴む兵に泣き喚きながら抵抗していたが、やがて銃を突きつけられて静かになった。
「おい、お前」
少年が黙ったタイミングで、俺に銃を突きつけている男が口を開いた·····
「そのガキを殺せ」
空気が揺れる····八人の兵士達が皆一斉に、顔を歪めて笑った──────