第二話 追憶の中で
「こりゃぁまた─────」
強化ガラスに反射して写る自分の顔を見て薄笑いを浮かべる
「随分とシケたツラしてんじゃァねぇかぁ」
△△△
『多いな·····』
足元の白骨を足で静かに退ける
ここは南米····昔の地図ならチリとアルゼンチンの狭間と言った所か。
甲雅 優楽は油断なく周りの木々を見渡してジャングルの地図を頭の中で描いた。
この世界には、能力者がいる─────
かくいう自分もその一人だ。
《軌道操作》····弾丸の軌道を操る事が出来る。
最も、世間は信じていない。
俺も自分が能力者じゃなければ信じなかっただろう····。
ポツリ····と雨粒が一つ、迷彩色の帽子に跳ねる。
『降り出したな·····』
ライフルの銃口を下向きに傾けて、雨宿りできる場所を探す。
崖沿いの大木の根本に見つけた窪みに身を縮めて一息つく。
今さっきまでの小雨は、あっという間に豪雨に変わった。
熱帯では日常のゲリラ豪雨だ。
背中のリュックから携帯食糧を取り出して齧る。
一眠りするか·····この雨なら誰も動かないだろう。
6年前·····某隣人国は、某大国に宣戦布告をした。
表向きの理由は、度重なる政治的不和と貿易によるの摩擦とされるが、実態は違う。
能力者────special ability person
·····通称SAPを、某大国が軍隊化しているという情報を、隣人国の上層部が手に入れた事が発端だ。
·····という話が都市伝説として巷に流れていた。
当然皆は半信半疑だが、能力者が実在する事実を知る俺にしてみれば、中々に信憑性が高いと思う。
勿論、戦争の原因はそれだけでは無いはずだが·····。
某大国と某隣人国の亀裂はどんどん広がり、やがては世界を巻き込んだ戦争に突入した。
隣の樹木の肌を滝のように流れる雨水を眺めながら微睡む
世界の国々は3種類に分かれた。
某大国に味方する国、某隣人国に味方する国、傍観を決め込む国·····。
日本は、某大国に味方した。
当然といえば当然だが、俺個人は某隣人国に味方する事にした。
理由は特に無い。
両親は既に他界しているし、家族もいない。
捨てるものは無いし、昔から武術が好きだったので、身につけた技を実戦で使いたいという気持ちも強かった。
大戦争といえど、戦争は戦争で、どっちに付こうと大して意味は無い。
だが日本は某隣人国と敵対しているので、いつまでも国内でまごまごしていると空襲を受けかねない。
迷いは無かった。
不思議と某大国につく気はなかった····。
隣人国行きの飛行機が止まらない内に日本を発ち、軍の扉を叩いた。
敵対国の人間なので、色々聞かれたり試されたりしたが、まぁ何とかなって今に至る。
雨足が弱まってきた·····。
直に晴れる····移動を少し早めよう。
次の基地まではかなり近い筈だ。
窪みを元に埋め戻して、歩き出す
「····ん?」
崖の上の方から、黒い影が落ちてくる。
影はどんどんと大きくなり、さっき座っていた大木のすぐ横に、グシャッと嫌な音を立てて地面にぶつかった。
近くの木に背中を付けて、向こうの様子を窺う。
·····落ちてきたのは、人間だ。
あらぬ方向にひしゃげて、血だらけになった男の隊服に付いた、土に塗れた軍の黄色い星のマークが見えた。
死んでるのは味方·····どうやら戦闘開始の様だ。