表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

眠ってばかりで婚約破棄されました。

作者: ぐうのすけ
掲載日:2021/12/05

 私はロック王国の王城で目覚めた。


 私が目を覚ましたのをメイドさんが確認すると、メイドさんが急いで部屋を出ました。


 おかしいです。


 あいさつもせず走って出ていくなんて、まるで私が起きるのを待っていたような……。


 それに私が起きるとメイドさんが私の部屋の中で座っているのもおかしいです。


 嫌な予感がするので身だしなみを整えておきましょう。


 鏡で髪を整えます。


 黒髪のセミロングと黒い瞳の特徴の無い顔を眺めると、地味な自分の顔が写ります。


 黒目黒髪は良くある色なので私は地味です。


 それに背も小さいのでさらに地味です。




 バン!


 力強くドアが開かれると王子が言った。


「婚約破棄だ!今すぐ出ていけ!」


 ラット王子は長男でこのまま行けば王位を継承する。

 金色の髪と青い瞳で背も高く笑っていれば見た目だけはいい。

 ノワールの2才年上で18才だ。

 

「ラット王子、少し落ち着きましょう。紅茶でも飲みながら落ち着いて」

「うるさい!眠ってばかりのお前とは結婚出来ない!今すぐ出て行けと言った!」


 ラット王子は配慮が足りない所があります。


 私もラット王子は好きではないので、出ていきましょう。


 もう毎日怒鳴られるのも、紅茶を頭からかけられるのもうんざりです。


 最近は命の危険すら感じます。


 あ、でも私は眠りの聖女の力を持っているのでそれだけは伝えておきましょう。


「おい!言われたらすぐ動くか返事をしろ!のろまが!」


「ごめんなさい。出ていきますが、私は【眠りの聖女】の力を持っています。私の力は必要ありませんよね?」


 ラット王子は馬鹿にするように鼻で笑った。

「ふん、何を言っている?冗談か?それとも追い出されたくない為の見栄なのか分からんがいいから出ていけ。眠りの聖女などという嘘で皆を脅すな!」


 さすがにその態度はカチンと来ます。


 感情を殺して対応しますか。


「はい分かりました今までどうもありがとうございます」

 私は社交辞令の淡々としたお礼を言って、トランクに荷物を入れて3分で部屋を出て、すぐに王城を抜け出そうとした。


「おい待て!」


「え?」


 早く出て行けと言われたので早く出ていこうとしたら『待て!』と言われました。


 ラット王子は一貫性がありません。


 いえ、いつもの事でしたね。


 感情を殺して表に出さないように対応しましょう。


「なんでしょう?」


 王子は口角を釣り上げた。

「今からお前に新しい婚約者を見せてやる」


 見たくありませんが、何か言えば話が長くなります。


 最悪殺される可能性もありますから、余計な事は言わないようにします。


「分かりました」


 王子が合図すると、お部屋に見覚えのある方が入ってきました。

 アメジストの原石のような黒紫の髪を腰まで伸ばしたその女性は王子にすり寄った。


「ラット様あ、次は違う宝石が欲しいですう」


「マギナ、待っていろ、これが終わってからだ」


 急に会ってすぐに挨拶もせず宝石をおねだりする性格は変わりませんね。


 マギナはノワールと一緒の孤児院で育ち、孤児院の職員にはうまく甘えて可愛がられ、裏では子供を支配していた。

 ノワールの2才年上のマギナはノワールを召使のように使っていたのだ。


 ラット王子には目をうるうるさせて甘えていますが、私を見ると口角を釣り上げて見下すように笑いました。


 同じ孤児院時代は、私のパンを取られ、お手伝いを押し付けられたのを思い出します。


 私がラット王子の婚約者になった時、マギナは私を射殺すような目で見ていました。


「見たか!お前と違い、将来の王妃にふさわしい」


「マギナは頑張ってラット王子の役に立つですう。寝てばかりいないで働くですう」


「見た通りだ。お前と違い、俺の婚約者にふさわしい」


 マギナが働くとは思えませんが、それに私がよく眠るのは【眠りの聖女】の力の副作用で決してサボっているわけではありません。


「見た通りですね。分かりました。出ていきます。今までどうもありがとうございました」


「早く出ていけ!」


「ラット様あ、ノワールが着ているナイトウエアは回収するですう。それに持ち物は王家が与えた物ですう」


「む、その通りだ。それは王家が与えたものだ。お情けで奴隷服を与えよう。皆でノワールの私物を全て没収しろ」


 王子とマギナが立ち去る前にマギナが私に舌を出した。




 私はすべての物を没収され、厚手の布を2枚に折って縫い合わせただけのワンピースのような奴隷服を着せられ、裸足のまま城を追い出された。






 ああ、太陽がまぶしいです。


 もうお昼近い。


「ランちゃんに挨拶してからこの国を出ましょう」


 私はランちゃんが居る料理屋に向かいます。





「失礼します。ランちゃんは居ますか?」


 マスターが笑顔で手を振る。

「おう!ノワール!!!なんだその恰好は!」


 マスターが裸足に奴隷服を着た私を見て驚きます。


「ノワールがいるっすか?」


 ランが顔を出す。

 手には肉が握られている。


 竜族のランは私の3才下で13才の女性だが、ノワールより背が大きく力持ちだ。

 竜族の特徴である頭から2本の黒い角が生えている。

 ピンク色の髪をあごの下で切り、赤い瞳に大きなクリっとした目をこちらに向けた。

 

 竜族の王子とノワールとのお手紙を運びつつ、ここでバイト生活をしている。

 


 ランが私を見てお肉を落としました。

 私の格好によっぽど驚いたんでしょう。


「その奴隷服は何すか!すぐに私の服を着て足を洗うっす」


「そうだぜ!早く着替えてこい!」





 私は足を洗い、ランのワンピースとサンダルを借りました。


「何があったっすか!」

「大丈夫か!腹は減ってないか!?」


「お腹が空きました。それに喉も渇きました。今まであった事は話すと少し長くなります」


「ちょっと待ってな。軽く炒め物とスープを作って来るぜ。ラン、すぐに飲物を用意してくれ」


「分かったっすよ」


 私が座って待つとすぐに水が出て来て、コーヒーと炒めた香ばしい匂いがしてくる。


 いい匂い。


 まどろむように私は待ちました。





 ◇




 皆がお店の裏の休憩室に座るとマスターが切り出す。


「それで?何があったんだ?」


「実は、ラット王子に婚約を破棄されて城を追い出されました。ラット王子は私の代わりにマギナという女性と婚約します」


「ラット王子か。そういやあ、最近魔法使いの女と仲良くしてるって噂があるな」


「そうだったんですね」


「ラット王子は婚約破棄するまで何も言わなかったのか?」


「はい、なにも」


「ラット王子とマギナの噂は最近有名っすよ」


「そうなんですね。それなら、国を出た方が良さそうですね」


「そうだな。後で因縁をつけられたら厄介だ」

 

 それもありますが、誠実さの無い方と一緒に居たくありません。

 それに、私は必要ないとラット王子に確認は取りましたが、あの方はその時によって言う事が変わります。

 聖女の力を欲して急に私を拘束してくる可能性もありますし、一生幽閉される可能性もあります。


「国を出るならドラゴン王国に来ないっすか?王子がただで住まわせてくれるっすよ?」


「行ってみたいです」


「決まりっすね。食事が終わったら竜になって背中に乗せていくっす」


「ラン、相談があるんだが」


「何すか?」


「ノワールを送った後でいいんだが、ドラゴン王国に移住したい」


「どうしてですか?この店は料理がおいしくて結構流行ってますよ」


「そりゃあ、この国に聖女のノワールが居なくなって、ラットの嫁になるやつは怪しい魔法使いだ。更に竜族の居るドラゴン王国とこの国は外交関係が冷えていくだろ?それに今の王は寝たきりでもう長くない。次はラット王子が王になるが、あの王子が統治したら景気は悪くなる。この国が良くなる要素が無いぜ」


「マスター、鋭いっすね。いいっすよ。マスターの料理なら竜族も気に入るはずっす。あっちについたら王子と話してみるっす」


「助かるぜ」


「私は聖女ですが力は微妙ですよ。役に立たないわけではないですが、効果を感じられるか微妙です」


「いや、分かりやすい効果だろ?」


「そうっすね。分からないのはラット王子だけっすよ」


 ちょっと眠くなってきました。


「ノワール、コーヒーを飲むっす」


「ありがとうございます」


 コーヒーを飲むと少し目が覚めます。


「ドラゴン王国に着いたらもっと眠れるっすよ」


「夢のようです」


「ノワール、もっとコーヒーを飲むっす。いや、もう眠って大丈夫っすよ」


 眠りの聖女の力は、副作用として多くの眠りを必要とする。


「ありがとう、ございます。眠ります」


 私は眠りに落ちた。



 


 ◇





「……、すよ。ノワール、起きるっす」


 目が覚めると、竜に変身したランの背中に居た。


 背中にはふかふかの毛布が敷かれ、操作魔法で落ちないように私をずっと支えてくれたんですね。


 周りを見ると王城の上にいた。


「ラン、疲れさせてしまいましたね」


「平気っすよ」


 私が下りるとランが人型に戻る。


「さあ、中に入るっす。文通していた王子に会いに行くっす」


「王子ーーー!!ラグナ王子ーー!!ノワールを連れて来たっすよーー!!」


「そんなに叫ばなくても大丈夫ですよ」


「いや、早く呼ばないとラグナ王子のお待ちかねっすから」


 だんだんだんだん!

 足音が聞こえる。




 バスローブ姿のラグナ王子が現れた。

 髪は濡れたままで裸足。

 そしてバスローブの胸元を見ると痩せて見えても筋肉質な事が分かる。

 黒髪から2本の黒い角が伸び、赤い瞳は輝いているように見える。

 ノワールより頭1.5個分背が高い。


「ラグナ王子、さすがに慌てすぎっすよ」


「うむ、それはいいとして、ノワール、ドラゴン王国にようこそ。2年ぶりだな」


 握手してきますが距離が近いです。


 2年前より更にかっこよくなっています


 でも……今ランの言葉をごまかしましたね。


「ラグナ王子はお茶目な方なんでしょうか?もっとしっかりした方だと思っていましたが?」


「う~ん、普段はびしっとしてるんすけど、ノワールの前ではこんな感じになるかもしれないっすね」


「の、ノワール、よく眠れたか?」


「ちょっと眠気はありますが、起きていられますよ」


「それはいけないな。すぐに寝室に案内しよう」


 ラグナはノワールの手を取ってエスコートする。


 動きはかっこいい。


 だが裸足でバスローブ、そして髪はぬれねずみだ。






 私は急にお姫様抱っこされてベッドに横にされました。


「わ!」


「怖かったか?」


「いえ、その、ラグナに、男の人に抱かれてびっくりしました」


「すまなかった。もっと大事にする。今日はゆっくり休んでくれ」


 ラグナは私に布団をかけて部屋を出て行った。


 びっくりしました。


 ラグナのバスローブがはだけて脱げそうになっていました。


 それに、ラグナの筋肉の感触がまだ残ってます。


 でも、眠くなってきました。


 眠りの聖女の力は聖女の祝福と、眠りの呪い両方をノワールに与えた。


 まどろみから深い眠りに落ちていく。





 ◇





【ラグナ視点】


 ノワールを寝室に運び部屋から出ると大きく息を吐いた。


「ノワールと話をして緊張した」


「あんなに焦っているラグナ王子は初めて見たっすよ」


「ずっと何年も好きで結ばれないと思った相手がここにいる。緊張もする」


「少し休むっすか?それとも連れて来た経緯を話すっすか?」


「すぐに話をしてくれ」


「バスローブから着替えないんすか?」


「問題無い。体は丈夫だ」


「そう言う問題じゃないんすけどね。良いならいいっすよ」

 ランはノワールの話をすぐ聞きたがるラグナにドン引きしていた。


 きりっと凛々しい表情に戻り、ランの話を聞きながら会議室へと向かう。


 ランの話が終わり会議室でペンと紙を取り出すと頷きながら真剣に話を聞いた。






「……それでここまで連れてくることが出来たのか。ランには感謝しかない。よく救ってくれた」


「たまたま仲がよくて、運んできただけっすけどね」


 ラットに対して怒りがこみ上げる。


 あれほどの女性を婚約破棄するとは、信じられん。


 いや、好みは人それぞれかもしれん。


 しかし、やり方が気に入らん。


 婚約破棄をするならもっと丁寧に対応し、その上で次の想い人に告白すればいいだけの話。


 だが、ノワールをゴミのように扱い、しかも裏切るように次の女性をキープしていた。


 ラットはクズだな。


 ロック王国への援助も必要あるまい。


 今まで王に無理を言ってノワールの居るロック王国に援助してきたが、もう必要あるまい。

 父には今まで迷惑をかけたが、こちらから父に頭を下げ、援助を取り消しにいくとするか。


 ラグナはペンでメモを取る。


 だが、悪い事ばかりでもない。


 好きだったノワールが今ここにいる。


 ランに感謝だ。


 お礼が必要だな。



 竜族は義理堅いが、その中でもラグナは特に義理堅い部分があった。


 このままノワールと結婚したい。


 ノワールは幸い聖女の力を持っている。


 ノワールが居るだけで国が栄える為、竜族の私と人間族のノワールの結婚を周りは反対しないだろう。


 問題はノワールの気持ちか。


 いや、まずこの城を居心地のいい空間に変えて、ノワールに永住してもらうのが先か。


 気づくとランがじっとこちらを見ている。


「む、すまんな。考え込んでしまった。確かにラットはクズだ。話を続けよう」


「そうなんすよ。それでノワールをここに永住させるためにどうすればいいかなんとなく考えて来たっす」


「気が利くな。ランには世話になっている」


「えへへ、それほどでもあるっすね。それで考えたのはノワール用の最高の部屋とベッドを用意したいっす」


「確かに、眠りの聖女に睡眠は大事だ。他にもあるか?」


「う~ん、後は着心地のいい服っすかね」


「他には、24時間体制でメイドを待機させ、更に城の中に24時間飲食できる場所を作りたい」


「24時間食事するのは私も使えるっすか?」


「当然だ。皆が使える。予算的にも問題無く進められる」


「是非ともノワールにはここに住んでもらいたいっす。あ、それとロック王国の飲食店のマスターがこの国に移住したいって言ってたっす。もしかしたら他にもここに来たい人が出てくるかもしれないっすよ」


「うむ、調整しておこう」

 

 ラグナはやる事を紙にまとめた。

 忘れないように紙に書くというより、考えをまとめ、新しいアイデアを出すためにペンを走らせる。


「ラグナ様」


「どうした?」


「ノワールをどうして好きになったんすか?もちろんノワールは優しくて美人で好きになるのは分かるんすけど、きっかけがあれば知りたいっす」


「ランには話をしていなかったな。いや、誰にも話していなかった。数年前、私が竜の力を封印されていた時期があった。その時に会って好きになった」


 ドラゴン王国の王族は子供の頃に竜の力を封印をする伝統がある。


 竜の力を封印されつつ竜の力を開放する訓練を積む。

 そうする事でさらに竜の力を高めることが出来るのだ。

 体力トレーニングで体につける重りと同じことだ。


 更に竜の力を制限された状態で旅をする事で、知恵をつける伝統もある。


「旅の途中でロック王国の王都の近くで魔物に襲われ、返り討ちにしたが傷を負った。幼い竜に変身して飛んでロック王国に向かい傷と空腹で倒れかけた時に出会ったのがノワールだ」


「運命的な出会いっすね」


「そうだな、その後ノワールは私を抱っこしたまま一緒に眠り、食事を与えてもらい、体を洗ってもらった。特に眠りの聖女の【治癒】の力で私はノワールに命を助けられた」


「感動的な話っす……でも、体を洗ってもらう時に、竜の状態で一緒にお風呂に入ったっすか?ノワールは王子の正体を知っていたんすかね?」


 ラグナの目が泳いだ。


「その話は内緒で頼む」


 あ、危なかった。

 幼竜状態で一緒に風呂に入っていたのがノワールにバレれば変態扱いされかねん。


「わ、分かったっす」


「その時からノワールに恋をして、何度か王子として会いに行ったが、許嫁が居て叶わない恋だと思っていた。こうしてランが連れて来てくれて今の状態がある」


「もっと褒めてくれてもいいっすよ」


 ランが胸を張る。


「お礼はロック王国からマスターが来たらただでマスターの作った食事が食べたいっす。それに、私がラグナ王子とノワールを一緒に連れて行けば、自然とノワールを誘えるっすよ」


「それは私からお願いしたいくらいだ」


「ウインウインっす」


「ウインウインだ」


 2人は大声で笑う。


 後ろには公務の確認待ちの者が溜まっていた。


「そろそろ仕事に戻る」


「そうっすね。待たせたら悪いっす。それと、着替えてきた方がいいっすよ」


 お互い仕事に戻って行った。


 ラグナ王子はラット王子よりも遥かに人に気を遣える性格であった。

 だがそれはあくまでラット王子に比べて気を遣えるだけであり、必ず見落とす部分が出てくる。


 ラグナは最強の力を持つと言われる竜族の中にあって若くして頭角を現し、戦闘能力が高く、数日飲まず食わずで公務を行うことも出来る。

 そうなれば当然他の者の苦しみが分かりにくくなる。


 ドラゴン王国の民の多くは人間族で、力を持った少数の竜族だけでは国が成り立たない事をラグナは知っていた。

 ラグナはランのように国を思い、人を思い、そして思ったことをそのまま善意で言う者を好んで文官や兵に登用した。





 ◇





 私が目を覚ますと、部屋の空気が変わっていました。


 近くに精霊を感じます。


 私の眠りの聖女の能力は眠っている間に精霊を呼び寄せる事です。


 ノワールが眠る事で精霊が増え、【豊穣】【治癒力アップ】【魔物避け】の効果が出る。

 ノワールが来たことで、ドラゴン王国は食料の生産力は上がり、治癒費は削減され、魔物が出にくくなる。

 ロック王国はノワールを失い精霊の加護ががじわじわと少なく無くなっていく。


「う~~~ん!良く寝ました」


 背伸びをして部屋を出ると、メイドに声をかけられる。


「ノワール様、お飲み物やお食事をお持ちしましょうか?それともお風呂に入りますか?」


「飲食が出来る場所に案内して欲しいです。でも、お金がありません」


「お金は必要ありません。すべての施設は無料で家事も私達がすべてやります。ノワール様が居るだけでこの地は豊かになります。どうかずっとここに永住して欲しいです。あ、食堂に案内します」


「ありがとうございます」


 眠りの聖女の力を信じてくれています。


 ラット王子には一切信じてもらえませんでした。

 それどころか眠っている時にバケツで水をかけられて無理に起こされたこともあります。


「お飲み物は紅茶・コーヒー・果実水・水・ワインから選ぶことが出来ます。どれにしますか?」


「水と果実水をお願いします」


 メイドがすぐに水と果実水を持ってくる。


「お待たせしました。お食事はパン系・パスタ系・ステーキ系がありますがどれにしましょう?」


「パスタにします」


「海鮮パスタ・クリームパスタ・ミートパスタがあります。どれにしましょう?ミックスすることも出来ますよ」


 凄いです。まるでお店のよう。


「海鮮パスタをお願いします」


「10分ほどお時間を頂きますね」


 もうお店のようです。


 メイドさんが厨房に入っていき、すぐに飲物が運ばれてきます。


 果実水に口をつけると、フルーツの新鮮な甘みが口の中に広がります。


 それに、凄く冷やされています。


 ロック王国だと、ぬるい飲み物が出てくるのは普通ですが、少し感動しました。


「気に入ってくれてよかった」


 急に横からラグナ王子に声をかけられてびっくりしました。


「はい、冷えていて飲むと気持ちいい甘みが口に広がります」


「ノワール、ここにずっと住んで欲しい」


「私は助かりますが、迷惑では?」


「そんなことは無い。ノワールの眠りの聖女の力でここにいてもらえるだけで助かる。【豊穣】の力でこの地の周りの大地は豊かになり、森の恵みや作物の収量は大幅に上がるだろう。更に【治癒力アップ】の力で城に住む者の体調がよくなり、ノワールにずっと住んで欲しいという声がすでに届いている。治癒の為の費用が大幅に削減でき、更に皆笑顔でいる事で幸福の伝染をもたらすだろう。もちろん私もノワールの顔を毎日見られて幸せになる。そして【魔物避け】の力でこの地の魔物は減り、建物の修繕費も大幅に減り、豊かになる。ノワールは天使のような、いや、存在そのものが天使と言っていいだろう。国が豊かになれば私の内政の手間も減り、自由時間が増え、ノワールと話が出来るようになる。一生幸せにする。ずっとここにいて欲しい」


 ラグナは急に何かが乗り移ったように饒舌になりました。


 しかも、告白されているようにも聞こえます。


 きっと気のせいですね。


 私は地味ですから。


「邪魔でなければしばらくここに厄介になります」


「邪魔ではない。むしろ幸せだ。ずっとここにいて欲しい。24時間体制でメイドを配置し、更にこの食堂も24時間使い放題だ。更にノワール専用の部屋と最高のベッドと布団を用意しよう」


 きょ、距離が近いです。


 なんだか良い匂いもします。


「しばらく厄介になりますね」


「ずっとここにいて欲しい。もちろん定期的にノワールの住みやすいように環境を変えよう。ずっとここにいて欲しいのだ。趣味や他に必要なものがあれば取り寄せよう。何かあれば今言って欲しい。地下のサウナや露天風呂も24時間使い放題だ。掃除や洗濯の手間も必要ない。ずっとここにいて欲しい」


 ラグナ王子が少しずつ近づいてきます。


 必死なようにも感じます。


 きっと『ずっとここに住みます』と言わないと話が終わらない気がします。


「分かりました。他の所に行く予定は今の所ありません」


 ラグナがほっとした顔をした。


「お話をするなら席に着きましょう」


「そ、そうだな。座らせてもらう」

 

 ラグナは私の隣に座りました。


「距離が近いです」


「すまなかった」と言って5センチだけ離れて話を続ける。


「ランからここに来るまでの経緯は聞いたが、もし嫌でなければラットと婚約した経緯を知りたい。もちろん話をしたくない事は何も話さなくて大丈夫だ」


「そうですね、私は平民でしたが、物心の付いた時には眠りの聖女の力を持っていました。家族が亡くなり孤児院で暮らしていると、王からラットと婚約して欲しいと頼まれました。ラットの事はあまり好きにはなれませんでしたが、王にはお世話になったので断れませんでした。今は解放されて気が楽です」


「そ、そうかそうか!ラットは好きではないか、うん、それはいい。いいぞ。ロック王国への未練はあるか?」


「もう両親は居ませんから、何の未練もありません。いえ、ランちゃんが働いていた料理屋のマスターには世話になったので、出来ればここに連れて来たいのです。お願いできませんか?」


「うむ、もう移住してもらう事は決まっている。そうか、国にも未練はないか」


 ラグナは分かりやすいほど上機嫌になった。


「はい、ドラゴン王国は住みやすいですよ。まだ来たばかりですけど」


「うんうん、そうだろう。ここではノワールを使いつぶすようなことにはならないしさせない。それに皆がノワールに感謝するだろう。眠りの聖女の特性で永い眠りが必要な事は分かっている。それに眠っている間に精霊が集まってくるのだ。好きなだけ眠って欲しい。それと、起きたら、その、私の話し相手になって貰えないだろうか?」


「私でよければお話をしましょう」


「うむ、これからよろしく頼む」


 ラグナ王子は手を出してきました。


 手を出すと大きな両手で私の手を優しく手を握りました。


 う~ん、ラグナ王子の言い方がプロポーズのように聞こえます。


 起きたばかりで私は寝ぼけているのかもしれません。


「ラグナ王子も一緒に食べませんか?」


「う、うむ、一緒に、一緒に食べよう」


 私とラグナ王子は一緒に食事をしましたが、ラグナ王子はよく私を見ているような気がします。


 私に見入っているように感じてしまいますが、きっと気のせいです。

 きっと気を遣ってくれてるんですね。


 ノワールは分かっていない。

 そんなことは無いのである。

 ラグナ王子はノワールを常に意識し、緊張しながら食事を摂っていた。


 いつもと明らかに違うラグナ王子の動きを周りはすぐに察してにこやかに見守った。





 ◇





 その後ラグナ王子の指揮の下、すべてが同時進行で進み、部屋は改装され、ベッドとお布団、更に着る物も私の好みに合わせた物が用意されました。


 中には高級な物もあるかもしれませんが、あくまで私の好みをラグナ王子は優先し、私の好きな空間になりました。


 私の事を知ろうとしてくれているのが伝わってきます。


 ラグナ王子とお話ししていると嬉しくなって舞い上がってしまいました。


 ラット王子がロック王国の王様になり、ロック王国から大量の移民者がドラゴン王国に集まってきます。


 ドラゴン王国での生活はまるでメイド付きのホテルのように快適です。


 いえ、それ以上かもしれません。


 たくさん眠ってたくさんの精霊を集めてお礼をしましょう。


 私は思う存分眠り、精霊を集めました。






 私が眠りから目覚めると、私とランちゃん、ラグナ王子で移住して軌道に乗ったマスターのお店でお食事会を開くことになりました。


「マスターのお店はこのお城の近くっすよ。お客さんが多くて大成功してるっす」


「味がいいと評判だ。それに竜族はよく食べる。ノワールと一緒に前から行きたいと思っていた」


 ランがにやにやと私とラグナ王子を見てきます。


「ランちゃん、どうしたんですか?」


「ノワールとラグナ王子はお似合いだって思ったっすよ。まるで夫婦のようっす」


「周りからはそう見えるか」


 冗談のように私の肩を抱くラグナですが、ラグナの手は少し震えています。


 ラグナ王子の雰囲気がいつもと違います。


「あそこっすよ。早く入るっす!」




 店に入ると、テーブルには料理が置かれ、貸し切りになっていた。


「おう、来たな。座ってくれ」


 ランちゃんは座ると同時にお肉を掴んで食べ始めました。


「う~ん!最高っすね!」


「確かに、旨い」


 そう言うラグナ王子は絶対私の隣に座ります。


「そういや聞いたか?ロック王国の王になったラットだが、王妃が欲しがる宝石の為に国庫を使うわ、散々浮気するわで生活が荒れてるらしいぜ」


「その事だがロック王国のラットがノワールと寄りを戻したがっているようだ。そこで相談なのだが、私と婚約してもらいたい」


「えーと、私とですか?私は人間族ですよ?」


 私とラグナ王子が婚約?ラグナ王子は竜族だけでなく人間族にもかなり人気が高く、周りの貴族令嬢の方からの縁談を全て断っていると聞きます。

 強くて優しく、その容姿もあって老若男女問わず人気者です。


「す、すまない。緊張してしまってな。このままではラットがノワールを取り戻す為手を打ってくるかもしれない。ノワールがラットと結婚すれば、不幸になるだろう。ノワールがラットと結婚するのも不幸になるのも私は耐えられない。そして私はノワールを愛している」


「え?」


「私はノワールを愛している。好きだ。結婚して欲しい。無理なら婚約からでもいい」


 お友達からというのはたまに聞きますが、婚約からというのは初めて聞きました。

 しかも今度は婚約じゃなく結婚になっています。


 ランちゃんとマスターは黙って見守ります。

 あのランちゃんですら食べる手を止めています。


「わ、私を好きというのは本当ですか?私は竜族ではありません」


「本気だ!ノワールの事が昔から好きだった!今も好きだ!年を取っても一緒にいたい!私はノワールが好きで聖女だからと理由をつけてノワールを城に引き留めた。だが本当は好きだから引き留めた。父にも告白する事は伝えてある。種族も関係なくノワールが好きだ!」


「結婚まではまだイメージできませんが、婚約なら、こちらからお願いします」


「そ、そうか、それでいい。婚約だけでもいい!ノワールは絶対にラットには渡さない!」


 顔が熱いです。


 あんなにストレートに言葉にされると照れてしまします。


 私もラグナ王子の事は、かっこいいと思っていました。


「へへ!王子様!あんたの心意気は、ハートに伝わってきたぜ!」


 マスターは酒の瓶をごそごそと取り出す。


「今日は潰れるまで食べるっすよ!」


 ランはハイテンションで料理を口に詰め込んだ。


 私はラグナ王子の事が気になり、ちらちらと王子を見ながら食事を摂りました。






 マスターは酔い潰れ、ランは食べ潰れて店の中で眠りだした。


 辺りが真っ暗になり、私は店を出てラグナ王子と手を繋いでお城に向かって歩きます。


「ずっと手を繋いで歩きたいと思っていた」


 私は言葉が見つからず、無言で歩きました。


 ラグナ王子は私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれます。



 城に入るとメイドさんが声をかけてきます。


「お二人ともお顔が真っ赤ですね。飲みすぎは良くありませんよ」と言ってつないだ手をじっと見た。



「……まあまあまあ、恋の病はお酒より強力ですね」

 そう言ったメイドによって2人の婚約は一斉に城中に広まった。





 ◇





【ラット視点】


 ラット・ロック王子はノワールを追い出して上機嫌となった。


 今まで父の言いつけ通りノワールの婚約者として振る舞っていたが、もう父は長くない。


 父はベッドに寝たきりとなり、亡くなるまでは時間の問題だろう。


 父の目が無くなった今、ノワールとの婚約を破棄して、マギナに乗り換える事は簡単だった。


 ノワール、あいつは最初から気に入らなかった。


 俺のやる事にいちいち意見してくる。


 それに不愛想な仮面のようなあの顔。


 更に寝てばかりいて公務をこなさない。


 周りの者はノワールが来たおかげで良い事が起きたというがむしろ逆だ。


 あいつが来てから俺の周りでは不幸な事ばかり起こる。




 ラット王子は思い違いをしていた。


 ノワールがラット王子に意見をするのは、このままではラット王子が不利益を受ける場合のみで、それ以外の細かな事はノワールも黙認していた。

 ラット王子の行き過ぎた行動が他の貴族を敵に回している事にラット王子は気づかない。


 ノワールの不愛想な顔も、ラットとどう接しても怒鳴られたり、水をかけられるだけで関係が良くならない為ノワールはラット王子との関係をあきらめてからノワールの顔に笑顔が消えたのだ。


 更にラット王子はノワールの眠りの聖女の力をよく分かっていない。


 ラット王子は眠りの聖女の講義を受けているがまったく聞く耳を持たず、分かろうとしないのだ。


 極めつけはラットの被害妄想である。

 ラットは男爵家も公爵家も関係なく、相手を殴り、アツアツのスープを相手の頭に被せ、他の貴族の財産を奪った。

 王が倒れるまで目立った行動を取らなかったラットだが、王が弱るほど過激な行動を行うようになった。


「くそ!俺はついていない!」


 そこにマギナが近づいてラットを慰める。


「ラット様、もう大丈夫ですう。マギナがラット様の婚約者になってラット様を支えるですう」


 マギナがラットの婚約者になってからマギナはラットに宝石をねだった。


 それにより国費を使い大量の宝石をマギナの元に集めたのだ。

 宝石には魔力が宿り、その力を利用して薬を作ることが出来る。

 だが宝石の魔力を使えば宝石は砕けて使い物にならなくなる。


「宝石があればたくさんのポーションを作ることが出来るですう」


 そう言うマギナはアクセサリーとして大量の宝石を身につけている。

 ポーションを作るためにアクセサリーとして宝石を身に着ける理由はないのにだ。


「うむ、ノワールと違ってマギナは優しいな」


 ラットはマギナを抱きしめた。


 ラットはこの後思い知る事となる。

 ノワールと婚約を破棄した報いによってラットは追い詰められる事を。





 ◇





【マギナ視点】


 私は孤児院で育った。


 私は顔立ちが整っていて、職員に可愛がられた。


 どういう顔をしてどういえば皆言う事を聞いてくれるか孤児院で知った。


 どういう顔をしてどういえば子供達を思った通りに動かせるか孤児院で知った。


 ノワールは途中から孤児院に入ってきた。


 黒い髪と黒い瞳で背が小さい目立たない女。


 そう思っていた。


 他の子どものように支配して働かせるだけの存在、そう思っていた。


 でもある時王家の馬車が止まってノワールが孤児院から連れて行かれた。





 ノワールが帰って来ると、王家の使いの人と孤児院の院長先生が話をしている。


 私は隠れて盗み聞きした。


「ノワールは【眠りの聖女】だ。鑑定士によって確認も取れた。ノワールは王家が預かり、ラット王子と結婚してもらう。ノワールは納得済みだ」


「ノワールは本当にそれでいいの?」


「はい、私がラット王子と結婚すれば、皆に今よりいい暮らしをさせることが出来ます」


 ノワールは無理やり作ったような笑みを浮かべた。


「うむ、これは孤児院への寄付金だ」


 大量のお金が入った袋がテーブルの上に置かれる。


「これで皆にたくさん食べ物を食べさせてください」


「ああ、この子は!ごめんなさい。苦しい思いをさせるわ!」


 院長先生がノワールを抱きしめて涙を流す。

 ラット王子の悪評はすでに広がっていたし、王妃になる者は厳しい礼儀作法と勉強が必須となるが、マギナはその事を知らない。




 院長先生が落ち着くのを待ち、ノワールが子供たちにお礼をして王家の使いがノワールを連れて馬車で走り去った。


 私はノワールを睨みつけた。


 何それ何それ何それ!


 何なのよ!


 あの地味なノワールが聖女でしかも将来王妃になるの!?


 ありえないありえないありえない!


 私はこんなボロボロの服を着て、食べ物も少なくて大部屋で皆と一緒に毛布を被って寝ているのにノワールだけがいい服を着て王妃としていい生活を送るの!?


 絶対に許さない。


 ノワールが王家に引き取られたことで孤児院の生活はよくなったがそれでも気が晴れない。


 むしろノワールはもっといい生活をしているという身勝手な恨みがマギナを支配した。




 私はラット王子のスケジュールを調べ、王子が街を視察するタイミングで偶然を装って出会う。


 男がどういえば喜ぶか、どんな表情をすればいいか、どの角度の私が一番綺麗か知っている。


「ラット王子のファンですう。ラット王子は優しくて、頭がよくて、何でもできて、大好きなラット王子と一緒に居たらマギナ、胸が苦しくなるですう。また会いに来ていいですかあ?」


 目をうるうるさせて上目遣いにし、両手を精霊に祈るように組んで、頭を少し横に傾ける。


「うむ、お前は分かっているな。服がボロボロだ。次会う時はこの金で身なりを整えてから来い」


「わあ、マギナ嬉しいですう」


 こうして私が3回ラット王子に会った時。


「お前は見所がある。俺のメイドとして雇ってやろう」


「いけません!その者が王子を殺さない保証はないのです!」


 側近の言葉にイラつく。

 何こいつ!邪魔なんだけど!ラット王子のそばにいつもいるし、私がラット王子に胸を当てようとすると止めてくる!


 そのせいで3回もラット王子と会う羽目になったじゃない!


 後で潰そう。


 その前にラット王子に選ばれる事が大事。


 まずはメイドとしてラット王子と親密になる。


「マギナを疑うですかあ?分かったですう。鑑定士の人に私が毒を盛ったりするか確かめるです。私はラット王子に憧れているだけですう」


 嘘はついていない。


 ラット王子を好きだし、毒も盛らない。


「ラット王子!よろしいですか?最低でもそのくらいはしていただかないと困ります!」


「分かった分かった!好きにしろ!ただし3分で済ませろよ。俺も同行する」


「短すぎます!きちんと調べる必要があります!」


「不要だ!」


 側近とラット王子が揉めて結局王子が押し切った。





 こうして3分でチェックが終わり私はラット王子のメイドになった。


 そして一週間、ラット王子と親密な関係を続け、ノワールの婚約破棄に成功する。


 ノワールが追い出される前にノワールの持っている物はすべて奪う。


 そのナイトウエアも私の物。


 ノワールに奴隷服を着せて追い出すのも前から考えていた。


 ああ、いい気味だわ。




 私はそれから多くの宝石をラット王子にねだった。


 貴族が持っているアクセサリーもラット王子にねだるだけで私の物になった。


 周りが静かになって何も言わなくなってくる。


 お勉強や礼儀作法を強要されそうになると、何人か牢屋にぶち込むとさらに静かになった。


 平穏な生活。


 私の思い通りの生活。




 でもあの側近だけはうるさい!

「ラット王子!こんなことを続けていては貴族の反感を買います!今父君が倒れ大事な時期です!どうか貴族をいじめ、物や財産を奪うのはおやめください!国庫の資産を浪費に使うのはおやめください!このままでは国が傾きます!」


 今も王子と言い合っている。


 こいつさえ潰せば全部私の思い通りよ。


 高級なベッドで目覚めて、紅茶を優雅に飲み、お昼前に最高の食事を摂る。


 そして私の宝石箱に宝石をたくさんたくさん集めるのよ!


 私はもうすぐ王妃になる。


 誰も逆らえなくなるわ。


 ラット王子はうるさいこいつの事が邪魔になっている。


 今がチャンスよ!


「ラット王子、この人怖いですう!ラット王子の隣に居るのはふさわしくないですう。牢屋で反省が必要ですう」


「そうだな、こいつを牢にぶち込め!」


「な、何を言っているのですか!ぐ、くう」


 側近が兵士によって牢に運ばれていく。


「マギナ?」


「どうしたですか?」


「い、いや、何でもない。一瞬マギナが怖い顔をしているように見えた」


「え~!そんな意地悪怖いですう!」


「うむ、俺は疲れているようだ」


「王子は色々言われて疲れていたですう。仮眠を取るですう」


「そうだな、だが公務が残っている」


「部下にやらせて休めばいいですう」


「だが、今まで公務は側近のセバスが代行でやっていた。あいつは同い年だが頭が良い」


「牢屋に机と椅子を運んで牢屋で仕事をさせればいいですよお~」


「そうだな、そうしよう。少し休んでくる」




 ラット王子を見送ると、部屋に入って宝箱を開ける。


「うふふふふ、きれい」


 全部手に入った。


 ノワールの服も、部屋も他の貴族のアクセサリーも全部私の物。


 大きな宝箱いっぱいに宝石や金貨が入っており、うっとりと見つめる。


 だが、この生活はすぐに終わりを迎える事をマギナはもうすぐ知る事になるのだ。





 ◇





【ラット視点】


 ノワールが出ていき俺が王になって冬を迎えた。


 ノワールはどうやらドラゴン王国に移住したようだ。


「あの女は何を考えている!聖女の責務を忘れ国を出たのか!そのせいで今年の作物の収量は減り、魔物が街に押し寄せ、建物が破壊され被害が出た。しかも病人が増えて国の力が弱くなったではないか!!」


 机に腕を叩きつける。



 ラットはその時によって言う事が変わる。

 ノワールが出ていくときは「眠りの聖女などという嘘で皆を脅すな!」と言っておきながら、ノワールが居なくなり立場が悪くなると急にノワールのせいにするのだ。


 ノワールは国を出て正解だった。




「しかも、民どもも民で勝手が過ぎる!多くの国民がこの地を離れた!そのせいで国力は弱まる一方だ!しかも何度もノワールに戻って来る事を許す手紙を送っても無視される始末!」


 手紙を出す頃にはノワールとラグナが婚約していた。


 他国の婚約相手を奪う様に手紙を出すラットの要求は当然無視された。




 更にドラゴン王国から食料が来ない!


 なぜ援助しない!


 ドラゴン王国からの援助が無くとも、ロック王国で採れる宝石を売り、食料を輸入すれば問題は解決するが、マギナとラットは贅沢をする為に貴重な宝石を使った。


 父が王である間は毎月援助があったし、魔物の脅威があれば竜族の者が助けに来てくれた。


 父が亡くなり、俺が王になった頃から援助どころかこの国に竜族の姿を見ない。


 ロック王国は次第に無視されるようになっていた。


 く、考えがまとまらん。


 散歩だ。




 王城の廊下を歩く。


 雪が降り風が吹く外を見る。


 雪を見ると落ち着く。


 少し寒いが、もう少し見ていよう。


 すると「カンカンカン!」と音がした。


 俺の近くに矢が刺さっている!


「奇襲だ!犯人を捕まえろ!」


「しかし今我々が飛び出せば王がお一人になります!危険です!」


「護衛以外の者を使え!」


「余分な兵はすべて外の魔物を倒す為外に出ております。人が足りないのです。そして食料も不足し兵も力が出ないのです」


「くそ!ドラゴン王国から援助の食料は届かないのか!」


「この国からの移民を救う為余裕が無いと思われます。援助ではなく交易として宝石を売れば、まだ可能性はあります」


「そんなことは分かっている!」

 ラット王はこのように理不尽に怒る。

 結果によって言う事を変え、一貫性が無い。


 プライドが高く、自分には甘く他人に厳しい。

 しかも国の為を思って苦言を言い続けた側近を幽閉した事で、ラットは裸の王様になりつつあった。


 くそ!くそくそ!


「ラット様、精霊教の使者から手紙が来ております」


「何と書いてある?」


「し、しかし王宛の手紙です。私が確認するわけにはいきません」


「許す、読んで要点だけを伝えろ」


「……精霊教は再三の勧告を無視した王を精霊教より破門するとの事です。破門されたく無くば……その」


「手紙をよこせ!」


 すぐに考えを改める為の条件を読んだ。


  『捕らえた者すべての解放』




「何だこの条件は!罪人を解放しろというのか!」


 罪人の多くは善良な人間で、ラットやマギナに嫌われただけの者が多かった。


「し、しかしこの条件を飲まなければ、破門されてしまいます」


「俺はこんなこけおどしには屈しない!」




 王の予想に反して王都に常駐していたヒーラーと教会騎士は教会本部に引き上げ、更に竜族が教会本部に現れた。


 更に国民の前で俺が精霊教を破門された事が宣伝された。


 今まで俺が何度手紙を送っても反応が無かった竜族が現れた。

 精霊教とドラゴン王国は俺と徹底抗戦の構えを取っていると見ていいだろう。


 まずいまずい!今精霊教を敵に回すのはまずい!今こちらが武力で制圧を仕掛けても、竜族が居る。

 返り討ちにされるだろう。


 更にヒーラーや教会騎士が居なければ兵の治癒が出来ない。


 兵が減れば俺が暗殺される。

 今はただでさえ命を狙われている上に兵の数が減ったら暗殺者の思う壺!


「すぐに罪人を解放し、教会本部に届けろ!」


 こうしてすべての罪人が解放され、教会本部へと運ばれた。






 罪人が解放されると、ラットの破門が解かれるが、また教会から手紙が届いた。


 手紙を見ると屈辱的な事が書かれていた。


「……これをしろというのか!この冬の雪が積もった中でか!」






 精霊教の本部の前、朝日が昇らない内にラット王はノワールを追い出した時と同じ奴隷服に裸足の状態で現れる。


 日が昇ると同時に雪の上で土下座して大声で叫ぶ。


「すみませんでしたああああああ!ノワールとの婚約を破棄しいいいいい!ノワールに奴隷服を1枚だけ与えて城から追い出しいいい!本当に申し訳ありませんでしたあああ!」


 教会本部の前に立つ司祭が声をあげる。

「条件はラット王とマギナ王妃のお2人で日の出から日が沈むまでこの雪の上で土下座し、ノワール様に懺悔し続ける事だったはずです」


 条件を満たさなければ精霊教の本部をドラゴン王国に移すと脅されたのだ。


 精霊教の本部をドラゴン王国に移せば、教会関係者やその親戚の多くがこの地を離れる。


 ノワールの加護が無い今、教会の治癒の魔法が無ければ国は大きく衰退し、更にラット王を狙う暗殺者も増える。


 ラット王は自身の為に土下座する。


「マギナとは離婚してきた」


 マギナに話をしに行ったらマギナから『今だけ離婚してほしいですう、マギナそんなことしたら死んじゃうですう』と言ってこの懺悔を回避したのだ。


「敬語を使いなさい」


「マギナとは離婚してきました!」


 ラット王は悔しさと寒さで震えながら両手を握りしめた。


「それと、まだ反省が足りません!ノワールではなくノワール様と呼びなさい!」


「ノワール様すいませんんんんん!」


「ノワール様にどんなひどい事をしたのか告白しながら懺悔しなさい」


「ノワール様に熱い紅茶をかけてすいませんでしたああ!」


「他にもありますか?」


「ノワール様が寝ているベッドにバケツで水をかけました」


「声が小さい!」


「ノワール様が寝ているベッドにバケツで水をかけましたああ!」


「他にはありますか?」


「後は婚約を破棄した時に怒鳴って奴隷服を着せた事です!」


「他にはありますか!」


「ありません!」


「それでは、教会騎士を牢に入れようとした際にノワール様が教会騎士を庇ったことがあります。その時あなたは何をしましたか?」


「突き飛ばしました」


「声が小さい!」


「突き飛ばしました!しかし軽くです!」


「ほお、ノワール様が転倒し、膝から血が出るまで突き飛ばすのが軽いですか?」


「軽くです!」


「よろしい、立ちなさい」


 ラットが立ち上がると司祭の横に居た教会騎士がラットを囲んで突き飛ばした。


 ラットが転び、服に雪が入り込む。


「貴様あ!何をする!」


「敬語を使いなさい!転倒する程度に軽く突き飛ばしたまでの事!安心しなさい。ノワール様を突き飛ばした時のように擦りむいて血は出ません。ここは雪の上ですから」


 こうして日が沈むまで教会式の問答修行が続いた。





 ◇




 ラットはがくがくと震え、唇は紫に染まる。


「日は沈みました。これで今日の懺悔は終わりです。しかしマギナ様の分の懺悔が終わっていません。明日はマギナ様の分の懺悔をあなたが代わりに行う事で、ノワール様の懺悔を聞き届け、精霊教の本部移転は無しにしましょう」


「こ、これで終わりじゃない?のか?」


「ええ、本来2人が同時に懺悔を行い罪を認める条件でした。しかし、約束のマギナ様はお見えにならないようです。そこであなたが代わりに懺悔する事で懺悔の完了としましょう」


「待て!待ってくれ!お、俺は懺悔を終えた!」


「本来の修行で言えば、今日の懺悔を3日間連続で行うのが懺悔となります。しかし、修行者でないあなた方にはあまりにも過酷という事で1日だけとしたのです。2日に増えた所で死にはしません。罪を償いましょう」


「お、俺は、もう、マギナを!マギナを連れてくればいいのか!?」


「でしたら明日の日の出前にマギナ様を連れてくるのですか?それでもよろしいですよ?」


 そうだ、あいつを、マギナを連れてこよう。


 マギナにやらせる。


 もし拒否したら、完全に王妃の立場から引きずり下ろす。


 ラットは口角を釣り上げた。


 ラットはまるでおじいちゃんのように半歩ずつ歩いて城に帰って行った。





 ◇





【マギナ視点】


 私がディナーを楽しんでいるとラット王が帰ってきた。


 王の顔色は悪く、唇は紫に変わりがくがくと震えている。


「まあ!大変な思いをしてきたのですねえ。さあ、お風呂に入るですう」


「その前に話がある。まだマギナの懺悔が残っている。明日、日の出前に奴隷服だけを着て教会本部前に行ってくれ」


 嫌よ嫌よ嫌よ!


 ラット王の顔は普通じゃないわ。


 あんな雪の中裸足で土下座なんてしたら苦しいじゃない!


「ラット様がこんなになるまで苦しむなら、マギナがやったら死んじゃいますう!」


「大丈夫だ!死にはしない!行くか、それとも完全に離婚してすべての財産を放棄して城から追い出されるか選んでくれ」


 何を言っているの?


 無理よ!無理無理!どっちも無理よ!


「行ってくれるな?」


「い、嫌ですう。マギナ死んじゃいますう」


「そう、か。マギナを城から追い出せ! マギナの宝石をドラゴン王国に売って食料を買う準備をしろ!」


 はあ!?何言ってんのよ?おかしいんじゃないの?


 どっちも嫌に決まってるわよ。


 マギナが取り押さえられると、マギナの顔が豹変し、意地の悪い顔が表に出る。


「その顔は!あの時見た悪魔のような顔は見間違いじゃなかったのか!」


 ラット王が化け物を見るような目で私を見る。


「ち、違いますう。怖くて顔がこわばっただけですう」


「そうか。だが出来ないなら王妃の資格は無い」


 やりたくない。


 でも、1日だけ、我慢すれば元の生活に戻れる。


 でも嫌よ!


 ……このままでは追い出される。


 冗談じゃないわ。


 一旦認めるしかない。


「い、行きます!懺悔に行きます」


「それでこそ我が妻だ」


「が、頑張るですう」





 マギナはベッドで考える。


 今までうまくやってきた。


 ここですべてを失うわけにはいかない!


 仮病を使うか?


 いや、鑑定士に見られたら終わり。


 逃げても終わり。


 ……話を聞く限り司祭は男。


 私の魅力で同情を誘えば何とかなる。


 少しだけ我慢すれば、大丈夫。





 ◇





 私は教会本部の前まで馬車でたどり着き、上にはコートとブーツを履いている。


 日の出前にブーツとコートを脱ぎ、雪の上に立つ。


 冷たい!


 もう体が震え始める。


 こんなの絶対に嫌なのに!


 早く同情を誘って終わらせる。


 教会本部の前には司祭とシスター。


 そして男と女の教会騎士が脇を固めていた。


「ほお!ラット様ではなくマギナ様が来られましたか」


 私は司祭の言葉に違和感を感じた。


「ど、どういう事ですかあ?ラット様でも良かったんですかあ?」


「ええ、そうなりますね。どちらかが日が沈むまで懺悔すれば懺悔は終わりです」


 ラットは自分で行かず私に行かせた!?


 ラットがここに来ても良かったのに私に行かせた!


 裏切られた。ラットに裏切られた。


「ら、ラット様を連れてくるですう」


「もう少しで日が昇ります。もう始まります。それではシスター、お願いしますね」


「任せてください。女性の教会騎士だけ残り、懺悔の修行を開始します。土下座してください」


「ま、待って!すぐラットが来ます!連れてくるのです!」


「日が昇り始めました。土下座を手伝いなさい」


 教会騎士が私の頭を雪に押し付ける。


「離して!はな、離せええええごらああああああああ!」

 殺気のこもった顔で教会騎士を睨みつけた。


「それがあなたの本性ですね。懺悔のし甲斐があります」


「違いますう!押さえつけられて怖かったですう」


 まずい!


 ただでさえ女に代わって同情してもらいにくくなった。


 今怒ったらまずい


「ほら、きちんと土下座をしてください!」


 冷たい、痛い痛い痛い!


 冷たすぎて痛い。


 私はラットに騙された!


 この教会騎士も嫌い!


 シスターも嫌い!


 私がこんな目に遭うのは間違っている!


「ノワール様に懺悔してください」


「婚約を破棄させる結果にしててすみません」


「大きな声で言いなさい!」


「すみませんでしたああ!」


「その声の大きさで懺悔しなさい!」


「ノワール様を婚約破棄させる結果にしてすみませんん!」


「あなたが奪ったのですよ。あなたのせいでしょう?」


「ま、マギナの事をラット様が好きになってしまったのですみません!」


「そうではなくてあなたのせいでしょう?ラット王のせいにするのは止めなさい」


 こいつ何言ってるの?


 意味が分かんないわ!


 シスターはマギナの顔を見て悟った。

 これは深刻だ。

 性格の歪みがひどすぎると。

「質問を変えます。なぜ婚約者が居たラット王子に近づいたのですか?」


「す、好きだったので近づきました!」


「婚約者が居て、悪い事だと分かっていて近づいたと認めますか?あなたの罪を認めますか?」


「ま、マギナはただ、ファンで、会いたかっただけです!」


「ではどうしてラット王子のメイドになったのですか?」


「ラット王子のファンで、雇ってもらえたので働きました!」


「初日からラット王子と同じ部屋で毎晩過ごした罪を認めますね?」


 誰が言ったの!?


 誰がばらしたのよ!?


「だ、誰が言ったですか?」


「質問に答えなさい!色欲の罪を認めますね?」


 誰かがチクった!


 恐らくメイドの誰か。


 潰してやる!


 ああ、憎い憎い憎い!痛い痛い痛い!


 許せない!絶対に許さない!?


「質問の答えを言いなさい!」


 皆私を嵌めて許せない!許せない許せない許せない!


「うあああああああああああああがああごおお!」

 マギナは炎の魔法を使い、周りに炎を起こして走って城に戻って行った。





 マギナが逃げると司祭がシスターの元へやってきた。

「お疲れさまでした」


「逃げてしまいましたね。無理強いはしない決まりの為、追いかけませんでしたが、まるで悪魔のような顔でした」


「いいのですよ。自らの意思で乗り越えることに意味があるのです。もう一度明日の日の出前にチャンスを与えましょう。どちらかがここに来て懺悔を受ける事を祈りましょう」


「そうですね」





 次の日の朝、どちらも懺悔には来なかった。





 ◇





【セバス視点】


 ラットの元側近、セバスはラットとマギナの懺悔をどちらも見ていた。


 牢屋から解放され、教会本部で手当てを受け、懺悔3日目の日の出を迎えた。


 どちらも懺悔に来ない。


 教会本部の人間とその家族、そして移住希望者はこのロック王国を出てドラゴン王国を目指して歩く。


「牢屋から抜けて調子はどうっすか?」


 竜族の女性が話しかけてくる。 


 最初は嫌味か疑ったがそうでない事は顔を見れば分かった。


 人懐っこそうににっこりと笑う顔が無邪気さを教えてくれた。


 成長して大人になったがこの顔には見覚えがある。


「調子は悪くありません。あなたはランさんですか?」


「そうっすよ。私って有名なんすか?」


「そこまでではないですが、ノワール様のお知り合いですから、元王子の側近として覚えてはいますよ」


「そうなんっすね。なんか、情報通りで頭は良さそうっすけど不器用な感じがするっす」


「流石に王の手先の可能性もありますから、調査は入りますか」


 僕がラット王の手先だったらドラゴン王国としてはまずいわけで。


 まともな国なら僕の調査はする。


「捕まった経緯は調べたっすけど、むしろ逆で、勧誘したいんすよ。ラグナ王子は善良で物を言う人材を求めてるっす」


 僕は驚いた顔をした。


「そうか、僕に、意外ですね」


「ラット王より、ラグナ王子の方がやりやすいと思うっすよ」


「前向きに考えておきます」


「期待してるっすよ。話は変わるんすけど、今ロック王国に魔物の軍勢が迫ってるっすよ」


「それは、ラット王は大変でしょう。魔物の規模にもよりますけど」


 国が豊かなうちは王は比較的安全だが、国が乱れ、民が危険を感じると、敵意は王に向くだろう。


 ラット王は王にならず何もせず暮らしている方が幸せだっただろう。

 常に魔物と暴動と暗殺の恐怖におびえる生活が待っている。

 殺されなくても常に周りを疑いつつ生きていく事になる。

 


 僕は自分の発した言葉で、もうラット王を助ける気が無くなった事に気づいて苦笑した。

 

「魔物の数、見てみるっすか?」


「見られるものなら見たいですね」


 ランは僕を後ろから抱えて空に飛んだ。


「わ!」




 空中から魔物の様子が分かる。


「見えるっすか?王の元側近としてはどう思うっすか?」


 飛んだこともドキドキするが、吐息がかかるほど近くで女性にささやかれるとドキドキする。


 だが顔には出さない。


「魔物自体は撃退可能ですが、現王は更に苦しい状態に追い込まれるでしょう。最悪暗殺されます。ラット王は王にならない方が幸せだったでしょう。王になれば失敗は重く王の責任としてのしかかります」


 心を無にする。


「ふむふむ、なるほど。でも、セバスの解説が妙に饒舌だったっす」


「き、気のせいです」


 そう言いながらランは地面に降りる。




「顔が真っ赤っすよ?怖かったっすか?」


「それよりも、その、女性から急に抱き着いてくるのは感心できません!あ、あなたはレディーなのですから!もっと慎みを持ちなさい!」


「私はまだ14になったばかりの子供っすよ……あれ?更に赤くなったっすね。私の魅力が溢れてたっすか?」


 ランが笑いを取るようにポーズを決める。


 美人で様になっているがその事は絶対に言わない。


 僕が顔を背けると僕の顔にランが回り込んでくる。


 悔しいがドキドキした。


 でも絶対言わないぞ!


 竜族は成長が早いのだ。

 そして15才になれば大人だ。

 大人に見えても不思議ではないのだ。

 そう、不思議ではないのだ。


 その出来ごとをきっかけにランは僕に絡んでくるようになった。


 一見うざく見えるが、嫌ではない自分に驚く。


 そしてドラゴン王国へ向かう道中を楽しんでいる僕が居た。





 ◇





【ノワール視点】

 ロック王国で魔物の群れとの戦いが始まる頃、私は眠りの聖女として眠り、起きるとラグナと一緒にお話をして過ごしていました。


 ラグナは王子としての威厳のある話し方をしていますが、皆がラグナ王子に話しかけてくるのを見て、慕われているのが良く分かります。


 人を見る時は周りに居る弱い人間の反応を見ると分かりやすいと王妃の勉強で習いましたが、ラグナ王子は皆に好かれるタイプです。


 私が起きて食堂に行くとラグナ王子がいつもやってきます。


 どうやら私が目覚めるとメイドの方がラグナ王子にお知らせする仕組みが出来ているようです。


 私がラット王子に追い出される時もメイドの方が走って呼びに行っていましたね。


 あの時は嫌でしたが、今はラグナとお話しするのが楽しみです。


 眠っていても起きていても幸せです。


 私はくすりと笑う。


 ラグナが食堂にやってきて挨拶をします。

「ノワール、おはよう」


「おはようございます」


「今ロック王国から最後の移民希望者がここに向かっている。そろそろ来る頃なんだが、頼みたいことがある」


「何でしょう?」


「ロック王国からの移民は精霊教の者が多い。そこでノワールを一目見て祈りを捧げたいと声が上がっている。みんなに姿を見せて欲しい」


「いいですよ。ですが、着替えた方がいいでしょうか?」


 私はサンダルとワンピースというラフな格好をしています。


「いや、そのままで行きたい。ただ外は寒い。何か羽織って行こう」


『外は暖かいよ』


「え?」


「ん?どうした?」


「今声が聞こえました」


「私には聞こえなかった。精霊の声かもしれない」


「気のせいかもしれないですが、『外は暖かいよ』と聞こえました」


「そうか……移民の気配がする。そろそろ行こう」


「何も着なくていいんですか?」


 ラグナもズボンとYシャツのラフな格好をしている。


「暖かいかもしれない。そのまま行こう」





 外は明らかに吹雪で寒いようにしか見えないです。


「やっぱり、その、気のせいかもしれません」


「気のせいだったら一旦戻ろう」


 ラグナが子供のように笑った。


 その笑顔にドキッとした。


 ラグナだったら失敗しても安心できます。


 私も笑顔で歩きました。


 外に出ると吹雪でしたが、私とラグナを守るように暖かい空気が包み守られているように感じます。


「ラグナ?魔法を使いましたか?」


「使っていない。やはり精霊の声が聞こえたのか。精霊の力としか考えられない」


 お城の近くの広場に行くと皆が私に祈りを捧げる。


 ラグナが大きな声で叫ぶ。


「皆聞いて欲しい!この土地は今年最高の豊作となった!理由は分かるか!?」


「ノワール様の力!」

「聖女のお力です!」

「ノワール様のお恵みです!」


 歓声が大きくなり誰が何を言っているか分からなくなった。





 歓声が収まるとまたラグナが叫ぶ。

「そうだ!眠りの聖女ノワールが居たからだ。その力が無ければみんなを受け入れる事は出来なかった。ノワールが皆を救った。この移民の件に賛成したのもノワールだ!」



「「わあああああああああ」」

 また歓声が聞こえます。


 ラグナが何を言いたいのか分かりました。


 私に敵意を持たず、愛して欲しいと。


 私がロック王国でひどい目に遭った時のように、私が悪者にならないようにしています。


 私は、私の気づかない所でもラグナに守られているのだと感じました。




「私は竜族だ。竜族は義理堅い!我らを助けてくれるノワールをこの国では守る!ノワールの敵になる者は私の敵だ!」


 その瞬間、ノワールとラグナを中心にして暖かい空間が広がり、吹雪が一気に止んだ。


 そして癒しの光が広がり、周りに居る者の体を癒す。


『みんなに聞こえるように言うよ。愛し合っているノワールとラグナへのご褒美さ』


 ラグナが私の顔を見る。


「今の言葉、聞こえてました?」


「『愛し合っているノワールとラグナへのご褒美さ』まで聞こえた」


「それ全部聞こえてます!」


「おおお!体が癒されています!精霊様公認のお二人、幸せになりますよ!」

 そう言って司祭様が祈りを捧げます。


「ありがとう!」

 ラグナは手を振った。


 再び周りがざわつく。


 奇跡のおかげで大歓声が鳴りやまない。


「ノワール、顔が真っ赤だ。城に帰ろう」


 ラグナに手を引かれてお城に向かいます。





 お城の中に入って2人だけになると、私は精霊さんに怒りをぶつけます。


「は、恥ずかしいです。あ、あんなたくさんの前で言うなんて、精霊さんは意地悪です」


『君はこうでもしないと前に進めないじゃないか。親切だよ』


「親切で人の心を覗くのは良くありません!」


『でも、ラグナの事が好きだよね?』


「ラグナの事は好きですけど!恥ずかしいんです」


「ノワール、今の言葉をもう一回言ってくれ」


「?恥ずかしいです?」


「違う、ラグナの事がす?」


 私は『ラグナの事が好き』と自分で言ったことを思い出して恥ずかしくなりました。

 ンッーーーーーーーーーーーーーー!


「も、もうダメです。そんな意地悪は、ダメですよ」


 恥ずかしくて、精霊さんとおしゃべりが出来るようになって、私の調子が狂います。


 精霊もラグナもどっちも意地悪です!


 ラグナが私の手を引いて抱き寄せます。


 そして私の唇がラグナと重なって。







「は、激しすぎます!息が、苦しいです」


 ラグナは子供のように笑う。


「意地悪をした。でも、もう一回だけ意地悪をする」


 そして私とラグナはまた息が苦しくなるほどのキスをしました。


 いたずらな笑みで精霊たちが見ています。


 そんな気がしました。

最後までお読み頂きありがとうございます!少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、そして下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ