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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第一章 打倒、オーガ山賊団
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03 時は来た!……それだけだ

 ルアンタを弟子に取ってから、早いもので一月(ひとつき)という時間が流れた。

 その間に彼はメキメキと腕を上げて、この森の中なら私に次ぐ実力を得たと言っても過言ではない。

 そんなルアンタと、私はいつものように組手を交わしていた。


           ◆


「そこですか」

「くっ!まだまだぁっ!」

「甘いですね」

「ぐあっ!」


 果敢に攻めてくるルアンタを軽くいなし、私は最小限の動きで反撃をしていく。

 最初の頃とは比べ物にならない動きとはいえ、まだ私に一矢報いる程ではない。


「このぉっ!」

「腹部がお留守ですよ」

 攻めっ気に囚われすぎたルアンタの隙を突き、がら空きの腹に一撃を入れる!

 それで怯んだ彼との間合いを一気に摘め、手足を押さえて地面に転がして制圧した!


「ま、参りました……」

「はい、お疲れさまでした」

 降参したルアンタを離して、手を差し出すと彼は微笑みながら私の手をとった。


「はぁ……やっぱり先生は強いですね」

「フフ、まだまだ弟子には負けませんよ。でも、ルアンタもかなり動きが鋭さを増してますよ」

 私が誉めると、ルアンタは照れくさそうに笑った。

 実際、今の彼なら魔力のコントロールもかなりの精度で可能だし、魔法を使わせても100か0かなんて比率にはならないだろう。

 元々の膨大な魔力に加え、徐々に細かい魔法も覚えていけば、まだまだ強くなるに違いない。


 だから、最近の訓練メニューは、朝は体力向上の基礎トレーニング、昼は組手も含んだ実戦メニュー、夕方に魔法などの勉強をして、夜は魔力経路の強化などを手解きしているのだ。

 ……ただ、夜の訓練に関しては、もう一人でも行えるはずなのに、ルアンタは私にお願いしてくる。

 なんだか、完全に別な悦びを知ってしまったようで、そこだけは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 まぁ、切なそうな顔でお願いされると、断りきれない私も悪いと思うけど。


「さて……今日の組手は、これくらいにしておきましょう」

「はい。それじゃあ、僕は剣の自主トレーニングに移ります」

「ええ、食事ができたら呼びますので、ほどほどに」

 一段落ついて私が小屋に戻ると、ルアンタは訓練用に作った剣を振り始める。

 この頃は、こんな感じで一通りの訓練の後に、彼は一人で剣技の練習を重ねていた。


 私の場合は、異世界の武術の知識があり、今はそれを実戦レベルで使いこなす能力がある。

 それに、いざという時のための奥の手(・・・)も用意してあるので、徒手空拳のスタイルが最適だ。

 だけど、ルアンタの場合は、まだ成長期ということもあって、武器を使った戦い方のほうが向いている。

 以前は、ルアンタから弓の指導もしてもらえないか、と打診された事もあった。

 だが……。


「私は、弓の扱いが苦手なのですよ……」

「えっ!?」

「その……弓を使うと、弦が胸に当たって……」

「あ……」

 私の言葉に意外そうな声を漏らしたルアンタだったけど、「胸に当たる」の一言にすべてが納得いったようだ。


 自分で言うのもなんだけど、私の胸は大きい。

 そのため、普通のエルフなら問題にならない、矢を放つというプロセスで、必ず痛い目を見る事になる。

 これは、魔力だけではなく、身体的にもエルフの上位互換である、ダークエルフが故の悲劇とも言えるだろう。

 思えば、種族的に得意な武器の扱いが下手という事も、ダークエルフが忌み子とみなされる要因のひとつなのかもしれないなぁ。


 まぁ、そういった考察はさておいて、ルアンタが武器を使った戦い方をする以上、やはりそちら専門の講師がいた方がいいのかもしれない。

 でも、私にそんな知り合いはいないし、ルアンタが他の者に師事するのは少し寂しいような……いやいや、何を言ってるんだエリクシア!


 彼を一人前の勇者にすると、誓ったじゃないか!

 だったら自分の寂しさよりも、武器の扱いに長けた人物を探してやらなければ!

 そう、力学の私と武技の誰か。

 いわば、ダブル師匠体制で彼を育てればいい。


 もっとも、私が認めるくらいに強くて、ルアンタにとって害の無い人物でなければ、認めないけどね!

 でも、そうなると……。


「……そろそろ、旅立った方がいいのかもしれませんね」

「旅……ですか?」

 食事中にポロリと漏れた言葉に、ルアンタが反応した。

「ええ、勇者としての仕事をするには、ちょうどよい時期だと思いますよ」

 そんな事を言われたルアンタは、何故かキョトンとした表情になる。

 そして、ハッとしたように「僕か!」と小さく呟いた。

 忘れていたのかい!


「す、すいません……先生との日々が充実し過ぎてて、僕が勇者に選ばれていたことを忘れてました……」

 んもぉ~!そんな風に言われたら、怒るに怒れないでしょうが。

 可愛い事を言う仕方ない弟子に、私は考えていた武器系の師を探してみる案件について提案をしてみた。

 すると、真っ青になったルアンタは、急にカタカタと震え出す。

 ど、どうしたっ!?


「あ、あの……それはつまり……僕は先生の元を離れろって……事なんでしょうか……」

 ……ん?なんでそうなる!?

 あー、まぁ私の話し方もマズかったかな。

「そうではありませんよ。もちろん私はルアンタに教えられる事はありますし、君に合った戦い方のためには、必要かと思った訳です」

「そ、そんなんですかぁ……よかった。てっきり、僕に見込みが無いから見捨てられたのかと……」

「おや、私がそんな薄情な師に見えましたか?」

「ち、違います!そういう意味じゃなくて……!?」

「フフ、冗談ですよ」

 少しからかってみただけなのに、面白いくらいに狼狽える愛弟子に、笑みがこぼれる。


「それで話は戻りますが、そろそろこの森を出て、人間の街や国に行ってみようと思うのです」

 ルアンタが勇者として魔王を倒しにいくなら、どうしたって情報は必要だ。

 魔族領内に入ってしまえば私の前世の記憶が役立つかも知れないけれど、それでも二十年という月日が経過しているのだから、できるだけ最新の情報がほしい。

 それらを手に入れるため、魔族との交戦が多い地域を重点的に回ってみたいと思っているのだ。


 さらに、そういう地域なら、ルアンタの第二の師に相応しい、武器の扱いに長けた達人もいるかもしれない。

 ついでに、うまいこと魔族(てき)の偉いさんでも倒せたら、ルアンタの勇者としての名声も上がるだろう。

 うむ、我ながら良い構想だと言わざるをえない。


 そんな風に内心で自画自賛していると、ルアンタがめぼしい町があると教えてくれた。

「この森から北に向かうと、ガクレンという町があります。そこはそれなりに大きな町で、冒険者ギルドの支社もあるんです。たぶん、上級……Aランクチームと呼ばれる人達も在中してると思うので、まずはガクレンを目指すのはどうでしょうか?」

 ほう。

 私も何度か冒険者の一行を返り討ちにしてきたけど、どいつもこいつも手応えがなかった。

 しかし、Aランクなんて地位にある連中なら、少しは期待できるかもしれない。


「いいですね、私は森の外には疎いので、ここはルアンタの勧めに従いましょうか」

「はい!しっかり、エスコートさせてもらいます!」

 鼻息を荒くする少年の姿がなんだか可笑しくて、私はまた苦笑混じりの笑みを浮かべていた。


           ◆◆◆


 突然、先生が僕の武器の師を探そうとしてると聞かされた時は、ひどく驚いた。

 はじめは僕が見限られたのかと思ったけれど、どうやらそうでは無いらしい。

 エリクシア先生は、武器の扱いをあまり上手に教えられないから、僕の今後を思ってそう提案してくれたみたいだ。


 確かに僕は素手で戦える先生と違って、剣の自主訓練なんかもしている。

 でもそれは、先生の隣に立つのに相応しい男になるため、彼女より少しでも秀でた特技を身に付けたいと思っていたから……なんだよなぁ。


 だから、それほど別な講師とかを欲していたわけじゃないんだけど……。

 しかし、先生がわざわざ申し出てくれた事だし、僕の密かな野望を成就するためには近道になるかもしれない。

 うーん、でも講師の条件として、武器の扱いもさる事ながら、『エリクシア先生に、ちょっかいを出す危険が無い事』を入れたいな。

 万が一にも、先生が他の人とお付き合いをするなんて事になったら……想像するだけで、辛すぎて泣きそうだ。


 しかし、僕ってこんなに嫉妬深い奴だったのか……。

 思わぬ自分の内面を知り、ちょっとヘコんでしまう。


 それにしても……一緒に人間の町へ行くって事は、ある意味デートなんじゃないかな?

 いや、たぶんデートだ、これ!

 うん、そう思うと俄然やる気が出てきた!

 外の世界に疎いという、先生をスマートにエスコートして、男としての株を上げるチャンスだ!

 さっきまでの自己嫌悪はどこへやら、楽しい未来への期待感が、僕の胸の中でどんどん高まっていった。


           ◆◆◆


 旅に出る提案をしてから、さらに数日が経ち、いよいよ私達は旅立ちの日を迎えた。

 ルアンタは、初めて出会った時のように、軽い革製の防具を身に付け、自分の荷物を背負っている。

 私といえば、いつもの服にフード付きのマントを羽織っただけという、洒落っ気も何も無い出で立ちであった。


 いや、そりゃあ人間の町へ行くんだから、少し位はお洒落をしようかと思ったよ?

 でも、現世は一人で森の中、前世は引きこもりな私に、ファッションセンスが身に付くはずもない。

 そんな訳で、一周回っていつもの格好でいいやと開き直った私は、今の姿に納まったのだ。


「あの……先生の荷物は?」

 私の格好はともかく、手荷物のひとつも無い手ぶら同然の姿に、ルアンタが不思議そうな顔で尋ねてくる。

「ああ、私の場合、荷物はここに……」

 そう言って、無造作に腰のポケットに手を突っ込んだ。


「こうやって、『収納魔法』でしまってありますから、手荷物は必要無いのですよ」

 そう言って、ポケットに入るはずの(・・・・・・・・・・)無い大きさの(・・・・・・)小物を取り出して見せると、ルアンタは目を見開いて愕然としていた。

 あれ、もっとすごいリアクションが来るかと思ってたのに……。


「せ、せ、せ、先生っ!? なんですか、その魔法は!?」

 一瞬の間を置いて、驚きに表情を染めたルアンタが、ガバッと私に詰め寄ってくる!

こ、こら、まだ明るいのに、大胆な……。

 まぁ、そんな冗談はさておき、これこそ毎度お馴染みの『異世界からの知識』のひとつである。


 取り外し可能なポケットの中を、魔力で作った空間に繋げ、そこに様々な荷物を入れておくというものだ。

 ずんぐりとした青い謎の生き物が、腹のポケットから色々な道具を出すのを見て、私もやってみたいと思ってはいたが、ようやく実用化する事ができた。

 うむ、名付けて『別次元ポケット』とでもしようか。


「そ、そのポケットに使用されている『収納魔法』いうのは、どれくらいの物量が入るんですか?」

「そうですね……大きめの倉庫ぐらいは、入ると思いますよ?」

「そんなに……先生は、いつも常識を飛び越えた発想をなさるんですね……」

 感心してるのか、呆れているのか……ひきつった笑みを浮かべながら、ルアンタは思った事を言う。

 そりゃ、元はといえば異世界の知識だからね。

 私はそれを、応用して実現してるだけに過ぎない。


 気を取り直して、ルアンタの肩をポンと叩き、私は行く先を指差して見せる。

「さぁ、行きましょう。なんなら、ルアンタの荷物もこちらに入れてあげますよ」

「い、いえ。こうした旅路も、修行の一貫ですから」

 うん、いい心がけだ。


「では、ガクレンの町へ向かいましょう」

「はい!」

 こうして、私とルアンタの新しい旅の日々は幕を開けたのだった。

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