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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第一章 打倒、オーガ山賊団
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01 ルアンタ以外の勇者達

「ふぅ……」

 ようやく我が掘っ立て小屋にたどり着いた私は、小さく一息ついた。

 いつもと違ってペースを抑えた行動って、逆に疲れるものなんだなぁ。

 そんな新鮮な感想を持ちながら、小屋の入り口でペースを抑える原因となった少年を迎える。


「はぁ……はぁ……」

 息も絶えだえになりながら、フラフラと私の弟子となったルアンタが森の中から歩み出てきた。

 彼の年齢からすれば、かなりキツい行軍ではあったろうに、最後まで弱音を吐かなかったのは、なかなか見事。

 さっそく、根性を見せた我が弟子を誉めてあげようかと側に行こうとした時、その場に踞った彼は我慢できずに胃の中の物をリバースしだした。

 それは、美少年がやっていい絵面じゃない……うん、なんかごめん。


 厳しくいくぞ!的な事を言ったけど、初めからこれはやり過ぎたのだろうか?

 弟子を壊したい訳ではないんだけど、今まで一人で修行してたから、加減が難しい。

 教える立場になった以上は、私も気を付けねば。


 ──しばらくして、落ち着きを取り戻したルアンタは、醜態を晒した事を深々と詫びてきた。

 いいよ、いいよとあまり彼が深刻にならないように軽く流し、回復するまで少し休んでいなさいと、私は小屋の中へと促す。


「わぁ……」

 室内に入ったルアンタは小さく声を漏らし、物珍しそうに辺りを見回す。

「私が一人で作った家ですから、みすぼらしいかもしれませんが、適当にくつろいでください」

「えっ!? 先生が、一人で作ったんですか!?」

「そうですが?」

 何か、おかしな事を言っただろうか?

森の種族(エルフ)とはいえ、一人でこんな立派な家を作るなんて……先生はやっぱりすごい……」

 感心したような、もしくは呆れたような事をルアンタが呟いてるけど、どうしたんだろう。

 まぁ、苦労して作ったこの家を貶されなかったのは、ホッとしたけど。


 今だ落ち着かない様子のルアンタを、室内の奥に迎えようとした時、私の視界に少年にとって危険な物が飛び込んできた。

 あ、マズい!下着とかその辺に置きっぱなしだった!

「散らかっているので、あまりマジマジと見ないでくださいね」

「は、はい。すいません……」

 キョロキョロするルアンタの視界に、脱ぎ散らかした下着が入らないように、やんわりと釘を刺してテーブルへと誘導する。

ズボラな師匠だと思われると、今後の威厳が無くなるかもしれないもんね!で、放置した下着等が見つかる前に、隙をついてこっそりと回収!ヨシ!

 水を汲んでくるついでに、回収した下着等を洗い物の服に紛れ込ませて、ミッションコンプリートである。


 ……うーん、年頃の男の子がいると気を使うなぁ。

 今の私は大人の女であり、師匠という立場なんだから、引きこもり気味の前世や、独り暮らしの雑な所を改善するように、注意しなくては。


 ──さて、ちょっと休憩しているうちに、他愛もない話をしていた私達だったけど、改めてルアンタから聞いておかなければならない事がある。


 それは、彼以外の他の勇者についての情報だ。

 ゴブリンの群れに襲われて散り散りになったとはいえ、連中がどのくらいの力を持っているのか確認しておきたい。

 場合によっては、ボウンズールを殴りに行く時の協力者(戦力)になるかもしれないしね。


「ところで、ルアンタ。この森ではぐれたという、他の勇者とはどんな人達なんですか?」

「そ、それは……」

 ストレートに聞いてみたが、ルアンタは他の勇者の事を話すのを、少し躊躇っている様子だった。

 そんな彼の態度に、私はピンとくる!


 そうか……ルアンタは、勇者一行の中でも加減の利かない魔法を使う一発屋だと、自分の事を評していたもんなぁ。

 それで、自信が持てなくて、他の勇者達に引け目を感じているのだろう。

 だけど、師匠となった私だけは彼を認めてあげなくては!


「ルアンタ……例え他の勇者の方々が揃っていて、教えを請われてたとしても、私は貴方を選んでいましたよ」

「え……?」

「貴方には貴方の素晴らしい才能がある。だから、自分を卑下するような事は思わないでください」

「……はいっ!絶対に、先生を失望させたりしません!」

「よろしい」

 少しは元気になったようで、大きく返事をしてきたルアンタの頭を、ワシワシと撫でてあげた。

 ふふっ……子犬のような表情で照れる姿が愛らしいなぁ。


 しばらく撫でていたけど、さすがにしつこくなりそうだったので、名残惜しいが私は手を離す。

 それで気を取り直したルアンタは、さっそく仲間の勇者達の事を話始めた。

「えっと、僕以外の勇者の方々ですけど……」


・酔えば酔うほど強くなる「酩酊一刀流」の達人、素面の時は手が震える剣士、ディエン(45)


・百の魔法を修得した偉大な魔術師、しかし朝御飯を食べたかは思い出せない、ラーブラ(89)


・死んでさえいなければどんな重症でも治す、奇跡の回復魔法と筋肉の申し子、ただしノンケだって食っちまう、ジングス(38)


・悪魔や精霊を呼び出す凄腕の召喚師、だけどセクハラが過ぎて女性タイプのそれらから喚び出しNGをくらった術師、オーリウ(40)


・どんな罠や待ち伏せでも看破する超一流の斥候、でも誰よりも逃げ足が早くて、生き残るのは常に自分だけという、キャッサ(31)


・容姿不明、性別不明、特技も不明!全てが謎のベールに包まれた勇者、アーリーズ(?)


「……という、方々です!」

 色物ばっかじゃねーかっ!あと、平均年齢高いな!!

それでいいのか、人間!!!!


 思わず叫びそうになったのをグッ!と堪えて、私は大きく深呼吸をした。

「もらったプロフィールのままに伝えましたけど、ちょっと意味のわからない記述もあるんですよね……」

 そう言って、不思議そうに小首を傾げるルアンタ。

 うん、大人の性癖とか彼にはまだ早い。もう少しの間、汚れのない君でいて。


 はぁ……。

 しかし、一部の勇者は引き込めれば役に立つかもしれないけど、ルアンタの教育に悪そうだし却下だなぁ。特に回復魔法の勇者。

「あの……先生、大丈夫ですか?」

 なんだか精神的にダメージを受けていた私に、ルアンタが心配そうに尋ねてくる。

 本当にいい子だわ。


「大丈夫ですよ……それに、話を聞かせてもらって確信しました。やっぱり、君を選んだ私の目に狂いは無かったようです」

 心からの私の言葉に、ルアンタは花が咲くような笑みを浮かべる。

「あ、ありがとうございます……ところで先生、つかぬ事を聞きますけど、もしかして以前に眼鏡とかをかけて(・・・・・・・・)いませんでしたか(・・・・・・・・)?」

 急に聞かれて、私はギョッとする!

 確かに私は、以前に眼鏡をかけていた。だが、それは前世での話だ!

 な、なぜ、彼がそんな事を……。


「あ、いえ……お話している間、先生が何度か眼鏡を直すような仕草をしていたので……」

 あ、無意識にクセが出ていたのか……ふぅ、前世が魔王の次男(オルブル)だった事がバレたのかと思った。

 でも、そんなクセに気づくなんて、よく見てるなぁ。


「それで、弟子入りの授業料代わりと言ってはなんですけど、これを……」

 そう言って彼は、自分の荷物から小箱に入った眼鏡を取り出した。

「これは我が家に伝わっていた、マジックアイテムの眼鏡です。装着者に合わせた補強が自動的に成されますし、魔力を流すとレンズが黒く色づいて、強い光から目を守ってくれるんです」

 ほほぅ、それは中々面白い。


「しかし、家に伝わっていたというと、それなりに高価な物なのではないのですか?」

「いえ、今の僕に差し出せるのはそれだけですし、ぜひ先生にもらってほしいんです!それに……」

「それに?」

「知的でクールな先生には、よく似合いそうだから……」

 こいつぅ……。

 頬を染めながらかわいい事を言う弟子に、気をよくした私は眼鏡へと手を伸ばす。

 そうして小箱から取り出したそれを、スッと装着してみた。


 むぅ!なんというフィット感!

 なんとも素晴らしい、この収まるべき所に収まった感に、私は内心で驚愕する!

 試しに魔力を流してみると、確かにレンズが黒く染まって遮光性がアップした。

 エルフは目がいい種族だけに、この効果は地味にありがたい。


「これは……かなり良い物ですね」

「そう言ってもらえると、僕も嬉しいです」

「どうでしょう、変ではありませんか?」

「いえ!とてもよくお似合いです!」

「フフッ、ありがとう」

 妙に力説するルアンタがなんだか可笑しくて、自然と笑みがこぼれた。


 うん、良いものを貰ったし、なんだかやる気が湧いてきたぞ!

 稽古をつけるのは明日からでもいいと思っていたけど、今日の内に基礎だけは教えておこうかな?


「ルアンタ、良い物をありがとうございます。それで、さっそく基礎中の基礎を君に伝えようと思うのですが、体の方は大丈夫ですか?」

「はい、もちろんです!よろしくお願いします!」

「よろしい。では、服を脱いで裸になりなさい」


「……………ええっ!?!?!?」


 少しの間を置いて、真っ赤になったルアンタの大きな声が響いた。


           ◆◆◆


 なんとか……なんとか、先生に置いて行かれずにすんだ。

 先生が手を抜いてくれているのはわかっていたのに、それでもこの体たらくなのは情けない。

 おまけに、彼女の目の前で吐いてしまうなんて……もう、弟子にするのは止めると言われるんじゃ無いかと怖くなり、必死で謝った。

 でも……僕を責めるような事は何も言わずに、先生は優しく「気にしないでください」と逆に気遣ってくれる。

 うう……この人は、本当に女神なのかもしれない。


 その後、先生に案内された家はコテージ調の立派な物で、どうやってこんな森の奥に……と思っていたら、先生が一人で作ったと聞かされた。

 いくら森の種族エルフだからといって、こんな力仕事をこなし、建築の知識まであるなんて……何度目かはわからないけど、この人には驚かされてばっかりだ。


 とにかく、ビックリして辺りを見回していたら、「あまりマジマジと見ないでください」と嗜められてしまった。

 そ、そうだよね、女性が一人で暮らしている場所をジロジロ見るなんて、デリカシーが無さすぎた……反省。


 それから、先生と少しの間、他愛もない話をした。

 たぶん、僕の回復させるために、そうしてくれたんだろう。自然な優しさに、先生の人柄がにじみ出てるみたいだ。

 でも、ある話題になった時、僕に緊張が走った。


 それは、僕以外の勇者達の話。

 魔王を倒すために選ばれた、歴戦の勇士……のハズなんだけど、何て言うかクセの強い人達ばかりだった。

 そのまま話しても信じてもらえるかなぁ……。

 少しの戸惑っていると、なぜか先生は僕を認めてくれると励ましながら、頭を撫でてくれた。

 その励ましに勇気を貰えた気がして、とにかく聞かされていた他の勇者のプロフィールを、そのまま先生に話す。


 ……僕の話を聞き終え、先生はいつものクールな表情のまま、眉間を押さえるような仕草をしていた。

 聡明な女性(ひと)だから、もしかすると僕以外に可能性を見出だしたんじゃ……なんて、不安とわずかな嫉妬の心が沸いてくる。

 でも、先生は「ルアンタを選ぶ」と言ってくれた。

 その一言に、僕はきっと恥ずかしくなるほど笑顔になっていたと思う。

 そんな僕を見つめながら、先生はフッと指先を自分の眉間の近くに持っていった。


 ……何度か無意識にやってるみたいだけど、あれって眼鏡をかけてる人、特有のクセだよね?

 もしかして、先生も眼鏡をかけていたんだろうか。

 そう思った時、僕は自分の荷物の中に、眼鏡のマジックアイテムがあった事を思い出した。

 僕が勇者に選ばれて家を出る時、兄上と姉上が山のように持たせてくれた荷物(ほとんどは送り返した)の中にあった物だけど、先生にプレゼントしたら喜んでもらえるかな。


 授業料代わりなんて言い訳しながら渡したけれど、先生は嬉しそうに受け取ってくれた。

 何より、眼鏡をかけた先生はいつもより更に素敵で、僕もつい力説してしまう。

 そんな僕に、微笑みかけてくれた姿は、ため息が出るほど綺麗だった。


 そうして、上機嫌になった先生に、さっそく基礎中の基礎を授けて貰える事になったんだけど……突然、服を脱げと言われるなんて!?

 な、何が始まるんだろう……(ドキドキ)。


           ◆◆◆

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