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02 ある日森の中、爆発に出会った

 まぁ、なってしまった物は仕方がない。

 それに、この体は悪いことばかりではないのだ。

 なにしろ、普通でも魔族より魔力が高いエルフ。しかもダークエルフというんだから、今の私は魔力総量だけなら前世を越えるレベルである。

 それを、前世から培った魔力コントロールの技能で操れば、私は魔界や人間界を含めた全世界で、五指に入るほどの魔術師として名を馳せる事ができるに違いない。


 さらに今の私は、前世の死因……魔法が封じられた時に非力過ぎた事を反省し、克服すべく、異世界の知識で得た格闘術と、自身の高い魔力を組み合わせたまったく新しい戦闘法……『エリクシア流魔闘術』を編みだして、研磨している。

 魔術と武術。この二つを極めれば、私を殺してくれたボウンズールとダーイッジにの二人に、いずれ復讐する事もできるだろう。


 だが……正直な所を言えば、この頃は復讐など、どうでもいいと思えていた。

 あれから兄達がどうなったのかもわからないし、何より今の人生は前世の時よりかなり充実している。


 安住できる縄張りを保ち、降伏した従順な獣達を従え、私の安息を乱すような狂暴な魔物や、冒険者を名乗るならず者の人間を返り討ちにしては、所持品などを頂戴して生活の糧にする日々。

 そうして得た戦利品を改造したり、独自の技術(おもに異世界の知識)を加えて、新しい魔道具を作ったりする毎日は、実に楽しい。

 適度な危険(やりがい)と、舐気忙しい公務に縛られない自由な毎日は、私の心を満たしてくれていた。


 満ち足りた日々の暮らしに、いつしか私はこの森で穏やかに過ごしていきたい……と、そう思うようになっていたのだ。

 まぁ、欲を言えば多少の話し相手や、魔界の城に置きっぱなしになっているであろう、異世界の書物を回収したいな……とは思っているのだが。


「私一人では、どうにもなりませんからね……」

 ポツリと呟いた私は、つい眉間の辺りに指を伸ばしていた。

「……おっと」

 前世で眼鏡をかけていたために身に付いたクセは、こんな時にポロッと出てしまう。

 今は眼鏡をかけていないため、私は空振りした指を戻しながら苦笑した。

 まぁ、漏らした呟きの通り、魔界の城に侵入してこっそりと異世界の書物を持ち去るなんて大仕事は、よほどの盗賊技術を持つ一団か、魔界全土を敵に回せるほどの戦力がなければ不可能だろう。


「さて、これからどうしましょうかね……」

 不可能な妄想を抱いていても仕方がないし、やる事は色々とあるのだ。

 何から着手しようかと考えながら一人言を呟いていると、突然、空気を震わせる爆発音が響いた!


 これは……まさか、極大級の攻撃魔法!?

 魔界でも、前世の私を含めた数名しか使えないような高等魔法……それを、人間界で発動させる者がいるというのだろうか!?

危機感と好奇心で、胸の奥がザワザワと騒ぐ。

 私はすぐさま衣服を掴むと、爆発音がした方向へ向けて走り出していた。


            ◆


 焦げ臭い匂いが漂う現場に到着した私は、ひとまず手近な木に登って、周囲の様子を観察する。

 木々が生い茂っていたはずの森の一角は、抉りとられたような焦土と化し、爆発の威力の大きさを物語っていた。

 この威力は……やはり、極大爆発魔法だろう。

 いったい、誰がそんな物を使ったのかと、辺りを見回すと、二つの勢力が目に入った。


 一方は、十数匹ほどのゴブリンの群れ。

 醜悪な小鬼達は、夢中で何かの肉片に食らいついている。


 もう一方は……人間の少女?いや、少年かな?

 とにかく人間がひとり、膝をついてゴブリン達を睨み付けていた。


 うーん、状況からするに、あの少年が極大爆発魔法を使ったようだけど……あんな子供が?しかも人間に?

 確かに人間の中にも、時々天才的な者は現れるとは聞く。

 それにしたって、どうみても十代前半の少年には不可能でしょう……。


 疑問にとられ、二者をボーッと眺めていると、肉片を食いつくしたゴブリン達が新たな獲物……つまり、少年の方へと目を向けた。


 あんな魔法を見せられた後で、普通ならさっさと逃げ出しそうなものだが、少年が動けないとみるや迷わず襲おうう算段らしい。

 まったく、ゴブリンの卑しい性根がよくわかる。

 ……とはいえ、あの少年には聞いてみたい事があるから、このままゴブリンの玩具にさせる訳にはいかないな。


 私は観測していた木の上から跳ぶと、ゴブリンと少年の間に降り立った。

 突然の乱入者に、双方とも驚いた様子ではあったけれど、ゴブリン達の顔に歓喜が浮かぶ。

 まぁ、現在の私はこいつらからすれば、性欲の対象として極上の存在なのだろう。

 まったく、嬉しくはない。というか、気持ち悪すぎるだけだが。


「あ……あなたは……」

「君の敵ではありませんよ。ゴブリンどもは私に任せて、少し休んでいなさい」

 予想外の登場をした私に困惑する少年に、私は努めて優しく声をかけると、ゴブリン達へと視線を戻した。

 奴等は、性欲と食欲のない交ぜになった下衆い笑みを浮かべて、ジリジリと近付いてくる。


 ……はて?

 この森を統べる私を目の前にしたら、ゴブリンごとき一目散に逃げ出すと思ったのだけれど?

 妙に強気な連中を不思議に思いつつ、逃げないのならば殺るしかないかと、私も戦闘体勢をとった。



            ◆


 ものの数分も経たず、頭を粉々に砕かれたり、胴体を真っ二つにされたゴブリン達の死骸が、辺りに撒き散らされていた。

 好戦的だっただけあって、ちょっぴり強かった気もするけれど、所詮はゴブリン。

 私と、私の編み出した『エリクシア流魔闘術』の敵ではない。


 しかし、せっかく汗を流したばかりだというのに、ゴブリン達の返り血でまた汚れてしまった。

 私はため息を吐きながら、水魔法を発動させて、我が身に降りかかった返り血を洗い去る。


「あ、あの……」

 さっぱりとした私に、おずおずと少年が話しかけてきた。

 ふむう……初めに女の子と見間違ってしまったけれど、そう思うのも仕方がないくらいの美少年じゃないか。

 キラキラした瞳で、頬を赤くしながら私を見つめる彼に、なんだかこちらもドキドキしてしまう。

 ……いやいや、落ち着きなさいエリクシア。

 相手は年端もいかない少年だし、私は元男だぞ?

 あ、いや……今は女だから、この反応は正しいのだろうか?


「危ない所を助けていただいて、ありがとうございました」

 内面で悩んでいたために、ぼんやりしていた私に、少年が頭を下げる。

 いけない、いけない。顔には出てなかっただろうな。


「僕はルアンタ・トラザルムといいます。えっと……」

「ああ、私の名はエリクシアです」

「は、はい!エリクシアさん……」

 よろしくと私が手を差し出すと、なんだか恐る恐るといった感じて、ルアンタは握手に応じてきた。

 ううん、やはりビビらせてしまったかな?

 その後、私の名前を反芻するように、口の中で何度か呟くルアンタ少年。

 はて、私の名前は人間にとって、そんなに珍しい物だったのだろうか?


「ところで……先程の爆発は、君の仕業ですか?」

「え?は、はい!」

 うわぁ、本当にこの子だったのか。

「な、なるほど……まぁ、ゴブリン達に襲われていた状況はわかりますが、それにしたってオーバーキルが過ぎるのでは?」

「そ、それにはその……事情がありまして……」

 下手をした大規模な森林火災の可能性もあった事から、やんわりとたしなめてみると、悲しげな顔をしてルアンタは俯いてしまう。

 ふむ?その事情とやらは、なにか言いにくい事なのだろうか?

無理に聞き出すのも、どうかと思うしなぁ……。

 そんな風に私が迷っていると、考えがまとまったのか、ルアンタは顔をあげてこれまでの経緯を話始めた。

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