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01 その日、起こったクーデター

まったりとやっていきたいと思いますので、てきとうにお付き合いください

 私の名前はオルブル。

 我が父は、誇り高き魔族を統べる王であるソレスビウイ。いわゆる魔王で、私はその次男にあたる。


 本来ならば私は、兄を助け、父を補佐して魔界の安定に勤めるべき立場にある。が、今の私はさほど重要な役職には就いていない。

 というか、自ら望んで閑職に就き、ほとんど政務に関わっていなかった。

 そんな私に対して、剛胆にして豪勇な兄ボウンズールや、その兄の右腕である弟のダーイッジなどは、貧弱な坊やと馬鹿にする。

 しかし、学者肌で兄達に比べて武力の低い私であるから、そういった評価をされるのも仕方がないのだろう。


 争いの絶えないこの魔界に於いて、兄達のような武勇を誇る者こそが尊敬され、称賛される。

 私は、魔力こそ兄弟の中でもっとも大きいのだが「魔法とか唱える前に殺されるし、前線に出ねぇとか、ダッセーよな!」という、価値観の前に軽視され続けていた。

 まぁ、私としては変に祭り上げられるよりも、あまり注目されずに趣味を兼ねた唯一の仕事に没頭できるこのポジションは、願ったり叶ったりでもったのだが。


 私の仕事……それは、私達が住むこの城の地下にある、空間の歪みを通して流れ着いてくる、異世界から書物を解析したり、翻訳しながら編纂する事である。

 高い魔力を持ち、解析魔法なども使用できる私ならではの天職と言えよう。


 さて、その空間の歪みが、いつの頃から有るのかは誰も知らないし、出現するのは決まって書物のみだ。

 有用な物もあれば、まったく戦いの役に立たない物もある。

 だが、三日に一度くらいの頻度で出現する、その異世界の書物達は、私を夢中にさせた。

 この世界でも語られるような、強者達の活躍を描いた英雄譚もあれば、なんでもない日常を謳歌する平民達の日々を綴った書物もある。

 兵数と将の武力が戦の要とされるこの世界では発展しづらい、『戦術や戦略』という物も学べた。


 そして、文章だけでなく、見事な挿し絵や、絵に書かれた人物達が生き生きと活劇をしてみせる『マンガ』なる書物も時折混ざっていて、私はまったく飽きることがなかった。


 本を読むより剣を振れ!といった兄達からすれば、そんな私の趣味は理解できない物なのだろう。

 事実、培った戦術等を提唱してはみたけれど、「面倒だし、俺より弱い眼鏡野郎に従えるか!」と却下されてしまった。……眼鏡は、関係ないだろうに。


 まぁ、兄達から見れば、本ばかり読んで武技を鍛えない私は、口先だけの引きこもりにしか見えなかったのだろう。

表立って批判される事も、多々あった。

 しかし、それでも私は日々、本を読んで平穏に過ごせるこの日常に満足していたのだ。

 ……そう、あの時までは。


 それはある日、突然起こった!

 兄と弟が率いる軍が、クーデターを起こしたのである!

まさに青天の霹靂というべき事態に混乱した城内で、私は忠臣たる部下ともはぐれ、自室の隅にまで追い詰められていた。


「はぁ……はぁ……」

「そろそろ鬼ごっこも終わりだ、オルブル」

 私の眼前には、このクーデターの首謀者である、兄のボウンズールと弟のダーイッジが、剣先をこちらに向けていた。


「なぜだ……ボウンズール、ダーイッジ!なぜこんな真似を!?」

「簡単だ、現魔王(おやじ)がトチ狂ったからさ」

「なに!?」

「事もあろうに、親父はお前を次期魔王に据えようとしていた!この俺を差し置いてだ!」

「納得できる訳があるまい。ボウンズール兄ならともかく、オルブル兄が我の上に立って命令を下すなどなぁ!」

 私が、次期魔王!?……父上っ!? いったい、何を考えてるんですかぁ!

 そんな話は聞いてないし、考えてもいないし、賛同する奴なんていないでしょう!


「ま、待ってください!私にそんなつもりは……」

「お前にその気は無くても、関係ない。親父が正式にその座を譲る前に、すべてを終わらせる」

「その通り。そして、もっとも強きボウンズール兄が、新たな魔王となるのだ!」

 ええぃ、この脳筋達めっ!

 もうちょっと、話し合いというものをしてほしい!

 それに、内乱とかやっていたら、人間達から攻め込まれる危険性だって有るじゃないか!

 そう説得しようとしたが、返って来た答えは、「その時は、攻めてきた奴等をぶっ潰す!」であった。……ダメだ、こいつら。


 すでにクーデターにまで至ってしまい、もはや言葉では止められないだろう。

 覚悟を決めた私は、兄達の一瞬の油断をついて後方に跳び、最強の魔法を使うべく高速で詠唱をすませる!


極大級(アルティメット・)爆発魔法(エクスプロード)!」


 ……だが、完成した魔法を放つべく突き出した私の両手からは、何も飛び出す事はなかった。

 あれ……?


 戸惑う私を嘲笑いながら、兄達は驚きの事実を伝えてくる。

「おっと、お前の得意な魔法は使えないぞ?」

「何故なら、この城全体に魔法を使えないように、術が施されているからな」

 な、なんだってー!?

 脳筋のくせに、意外に知恵が回る!


「お前の魔法は、中々に厄介だからな」

「だけど、それを封じてしまえば、オルブル兄など雑魚も同然」

「ぐっ……」

 悔しいが、弟のいう通りだ。

 戦闘はおろか、ただの殴り合いでも兄達にはボコボコにされてしまうだろう。

 ああっ!もうちょっと、ちゃんと鍛えておけばよかった!

「じゃあな、オルブル!生まれ変わったら、筋肉を鍛えておけよ!」

生まれ変り(そんなもの)があれば、だがね!」

 余計なお世話だ!だが、そう言い返す間もなく……私の胸と腹に、兄達の剣が突き立てられた。



 ────子、王子!

 ……誰かが私を呼んでいる、のか?

 わずかに残った意識を振り絞り、私はうっすらと目を開く。


「王子っ!」


 うおっ!

 霞みがかった視界いっぱいに、髭面でスキンヘッドの厳つい顔が映り、ぼやけた意識が一瞬だけ覚醒した。

「良かった……まだ生きておられたのですな!」

 目に涙を浮かべて、男は私を抱き締めた。っていうか、痛い痛い!

 抱き締める力もそうだし、兄達に刺された傷がヤバい!


「おいたわしや……オルブル王子をこんな目に会わせてしまうとは、このオーガン一生の不覚!」

 オーガン……そう、この男は私の忠臣であり、死霊魔術師で格闘僧兵(モンク)のオーガンだ。

 駆けつけてくれた彼に、なんとか言葉を返そうとした私だったが、血で濁った声にならない音を発するのがやっとだった。

 そんな私の現状に、オーガンは再び涙する。


「申し訳ありません、王子……なぜか回復魔法をはじめとした、あらゆる魔法が発動せんのです」

 ……わかっている、それも兄達のせいだ。

「ワシにできたのは、手持ちだった僅かな回復薬と、濃厚な人工呼吸だけでした!」

 ……そうか、回復薬と人工呼……なに?

「はあぁ……王子の唇、柔らかかったナリ……」

 お前、ちょっと待て。本当にいきなり、何をかましてくれているんだ!

 文句のひとつも言ってやりたい所だったが、残念ながら声も出せないし体は動かない。

 く、くそったれー!


 死の淵で最悪の思い出をぶちこんできた、オーガンを睨み付け(ているつもり)でいると、奴は真面目な顔になって私に話しかけてきた。

「残念ながら、王子の肉体はもう手遅れです……かくなる上は、せめて魂だけでもお救いしたい所存!」

 何!? それってどういう……。

「転生魔法を使い、この世界の何処かへ王子の魂を生まれ変わらせます!」

 なんだって!そんな事が!?

 そういえば、異世界の書物にもそんな話があったな。

 大概が、強くてすごい能力を持った新しい肉体に生まれ変わっていたが、それが私にも……。


「まぁ、どういう種族に転生するかは賭けですが、王子ならばきっと大丈夫!」

 え?そう言われると、ちょっと怖いんだが?

 そうだ……これは現実。物語のように、上手く同じ種族になるとは限らないのだ。

 下手したらモンスターになるかも……。

「では、王子!来世では、必ずあの悪どい兄君達に鉄槌を下してくだされ!」

 くっ!不安はあるが、このまま無念を抱いて死ぬよりはマシかっ!

 覚悟を決めた私に、オーガンは転生魔法を発動させ……。


「あ、やっぱり発動しない……」

って、おい!

「ええい!こうなれば、発動するまで何度でも使ってやるわぁ!」

 若干、ヤケになったような口調で、オーガンは何度も詠唱を繰り返す。


「絶対に、王子の魂を、お助けするんじゃあ!」

 オーガン……なんて主想いな奴……。

「そして、魂の抜けた、王子の肉体は、ワシのコレクションにするんじゃあ!」

 前言撤回。怖いわ、お前!

 いままで、そんな目で私の事を見ていたの!?

 ほんとにいい加減にしろよと、最後の力で怒鳴り付けてやろうかと思った、その時!

(あっ……)

 私は、私の魂が肉体から抜けていく感覚をおぼえ……そして意識を失った。


            ◆


 ……と、まぁ、これが私の前世の話である。

 どうやら、オーガンの転生魔法はなんとか発動できたようだ。

 自身を自覚した私は、現状を把握しようと体を動かしてみたが、どうやら生まれたばかりらしいこの肉体は、ろくな身動きもとれなかった。


 そして今、覚醒した私の目の前には、見慣れないエルフの男女の姿があった。

 いや、何となくわかる……この二人が、今の私(・・・)の両親なのだろう。

 ただ……気になるのは、何故か彼等が涙に濡れていることだった。


「ごめんね、エリクシア……ごめんね……」

「仕方があるまい……これも我々の掟なのだ」

 エリクシア……それが私の今の名前か。

 度々、謝罪の言葉を口にしながら、ボロボロと泣く母を、父が慰めている。

 なんだろう、まるでこれから私を捨てるみたいな……んんっ!?

嫌な予感が走る!

 そんな私の予想を肯定するように、彼等は布にくるまれた私をソッと大きな樹の根本に置いた。


 嘘だろう!せっかく助かったと思ったら、いきなり生命のピンチなんて!

 なんとか両親に思いとどまってもらおうと、私は必死に(泣き声で)訴える!

 しかし、私を置き去りにしたエルフの両親が戻ってくる事はなかった……なんてこった。

 まさか転生したてで、こんな展開ってある!?

 これは下手をしたら、素直に死んでた方が良かったのではないだろうか……?

 そんな風にちょっとだけ後悔していると、現実はそんな私に更なる試練を与えてきた。


(……むっ!?)

 エルフの鋭敏な聴覚は、徐々に近付いてくる獣の唸り声を捉える!

 まずい!さっきの私の鳴き声が、餓えた獣達を呼び寄せてしまったのか!?

 思わぬ不幸が続くが、これは本気でヤバい!

 なんとか逃げる方法はないかと、身動きを取ろうとする。

すると、赤子の身ながらも全身に溢れる魔力を感知することができた。


 おお!さすがはエルフ!

 魔力の総量だけなら魔族をもしのぐ種族だけあって、これは素晴らしいぞ!

 あとは前世の経験を生かして、この魔力をコントロールできれば……。

 焦る私との距離を、獣達はジリジリと詰めてくる。

 そして、一気に飛びかかってきた!だがっ!


 私の手から放たれた魔力の光弾が、数匹の獣の頭を打ち砕く!

 むぅ!詠唱も行っていない、ただの魔力弾でこの威力とは……。

 エルフの魔力に感心しつつ、獣の追撃に備えていると、やつらは私を手強いと見たのか、さっさと姿を消してしまった。


 ふぅ……なんとか生き延びたか。

 ホッとしながらも、私は赤ん坊の我が身を魔力で操り、二本の足で大地に立つ!

 死のピンチを乗り越えた私は、自らの力で生き延びた充実感に胸を満たされていた。

 そうだ、せっかく得た第二の人生、簡単に死んでなるものか!

 魔王の息子だった時のぬるい環境とは比べ物にならないが、前世で蓄えてきた知識は役に立つだろう。


「私は、必ず生き延びてみせる!」

 拳を突き上げ、そう誓った!

 もっとも、私の口から出たのは「あやうやあ、あうあ」といった、赤ん坊特有のよくわからない声だけであったが。


            ◆


 ──と、まぁこれが二十年ほど前の事である。

 エルフの赤ん坊として生まれ変わった私は、今日まで様々な困難を乗り越え、鍛え生き延びてきた。

 今日も今日とて、日頃の訓練と糧を得た私は、一日の締めくくりとして汗を流すために泉へと向かう。

 きれいな水が満ちる泉の畔で全裸になり、やや冷たい湖面へと入っていった。


「……ふぅ」

 水面に映る自分の姿に、何度目になるかわからないため息を吐く。

 エルフの両親が私を捨てた理由……それが、よくわかるからだ。

 白い肌に金の髪といった、エルフの特徴とは対極をなす、褐色の肌に銀の髪。

 つまり、今の私はダークエルフとして生を受けていたのだ。


 強すぎる魔力を持つ、エルフの忌み子……私を捨てた時に、両親が掟うんぬんと言っていたのは、そういう事なのだろう。

 だが、それよりも違和感の正体は別にあった。


 エルフ特有の、整った顔立ちに長い耳。

 引き締まっていながらも、曲線を描く体のライン。

 細身でありながら、たわわに実った乳房と、ふくよかな盛り上がりをみせる尻の双丘……。


 そう、私は『魔王の次男(オルブル)』から『ダークエルフの女性(エリクシア)』へと、転生を遂げていたのだ。

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[良い点] 素晴らしいTSだ!
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