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9/22

5歳~4

 私の一日は暇そうで意外と忙しい。

 自分で言うのも何だが、結構色々と頑張っているのだ。

 朝は6時に起床し、一仕事終えてきた祖父と共に朝食を取る。

 そして、動物小屋に行って餌やり。

 全ての動物達に餌をやり終えると、もう太陽が結構な位置まで昇るのだ。

 ちなみにその間、祖父は地竜と飛竜の餌やりだ。

 動物達の餌やリが終わると、次の餌の準備。

 特に牧草を刈ったり、穀物類を細かくしたり。

 そういう事をしていると直ぐにお昼になる。

 昼食後は、畑へ出て作物の収獲。

 これは朝一祖父がやっていた分の残りになる。

 稀に朝から昼に掛けて急成長する作物もあるのだ。油断出来ない。

 そして、日課とも言うべき、草むしりだ。

 水遣りは基本的に祖父が朝に撒いてしまうので、私の出番は無い。

 後は何事も起こらなければ、夕暮れ時に夕食。

 その後はもう就寝までゴロゴロと家の中にいる。


 つまり、何が言いたいかというと、割と一日が直ぐに終わると言うことだ。


「ふぃ~…」


 お風呂に入ってベッドの上。

 祖父はもう自室に入ってしまった。

 大体そうなると眠くなくても部屋に戻ってベッドの上でゴロゴロするのだ。

 する事が無いから。

 夜の畑というのも魅力的なのだが、如何せん夜の牧場は真っ暗闇。

 所々に祖父が作った魔具式の電灯はあるもののやっぱり現代に比べたら全然暗い。

 だから、ちょっと怖くもある。

 その為、結局は部屋で大人しくしているのだ。


「んー…寝ろ」


 心は大人でも身体は子供なので。

 昼間しっかり働いたから直ぐに眠くなる。

 それがたとえ夜の8時頃だろうと。眠いものは眠い。





「カルヴィー!起きなさい!」

「んあ!?」


 寝るのが早いから起きるのも一応早いのだが、まだ日の出前に起こすのは止めてもらいたい。

 滅多に起こされることではないから、一体何事かとボーっとしながら何とか身体を起こす。


「目を覚ますんじゃ!卵が孵ったんじゃぞ!」

「えっ!!!?ホント!?」


 しかし、次の祖父の言葉で先ほどまでの眠気が吹っ飛んだ。

 なんと、卵が孵ったらしい。

 何の卵かといえば、勿論、誕生日プレゼントで貰ったあの“ゴールドの卵”である。


「おじいちゃん!ヒヨコ何処!?」

「孵化箱の中に居るよ。ほれ、慌ててコケんようにの!」

「大丈夫っ!!」


 転がり出るようにベッドから飛び出て孵化箱へ急いだ。

 孵化箱はまだ母屋の中にある。

 何故かと言うと、普通の鶏と一緒にすると身体のサイズが違いすぎて踏み潰されるからだ。

 親鳥でも普通の鶏と比べたら小さいのだから、雛だと余計に。

 だから、一先ず卵が孵るまでは母屋に置いておいた。

 後は、祖父がゴールド用の鳥小屋を作ってくれるそうだ。

 それまでは母屋で飼う予定で、どちらにしろ成長するのも人一倍掛かる。

 多分小屋が出来てもまだ雛のままだろう。


「わぁ!!ちっちゃいっ!!やばっ可愛い!!!」


 孵化箱を覗き込むと、中には手のひらに乗るぐらいの小さな小さな雛が居た。

 真っ白いふわふわな羽毛は柔らかそう。

 可愛らしい外見にニヤニヤが止まらない。

 後ろから祖父がゆっくり追いかけてきた。


「餌は用意しとるからの、それをやりなさい」

「おじいちゃん有り難う!!」


 孵化箱の隣には袋に入った餌があった。

 どうやら用意してくれていたらしい。

 さすがおじいちゃん!


「名前何にしようかな~!」


 正直私に名付けセンスは無い。

 が。

 初めて孵化した子なので、私が名付けたい。


「うーん」


 ピヨピヨ、という可愛い鳴き声を聞きつつ、ジィッと雛を見つめる。

 可愛い。


「安直だけど、やっぱり“雪ちゃん”かなー」


 この白い羽毛を見ると、ソレしか浮かばない。

 安易だとか単純だとか色々と言われそうだけど。

 特にローレスあたりに。

 だが、これからもっともっと増やす予定なので、このぐらい安易でも良いと思う。

 早く大きくなって卵を産めるようになってほしい。

 その為にはしっかりお世話をせねば。


「おじいちゃん、小屋はどこに作ってくれるの?」

「そうじゃのぅ。お前の専用畑の近くに立ててもいいがの」

「え、じゃぁ、今日畑の横の空き地、整備する!」


 私専用の畑の脇にはまだ整備出来てない空き地があるのだ。

 草ぼうぼうの。

 そもそも祖父が私に好きに使って良いと言ってくれた土地は結構な広さがあって。

 それなりに畑を広げてはいるが如何せんまだ魔法もぼちぼちで大人ほど体力も無いので、自分の頑張れる範囲だけにしている。

 だからまだ弄れる土地があるのだ。

 そこにゴールド用の小屋を建ててもらおう。

 想像するだけでワクワクしてきた。


「まぁあんまり無理はせんようにな」

「はーい!」


 雪ちゃんと名付けた雛を一度抱っこして、そっと孵化箱に戻す。

 そして、漸く朝食に取り掛かった。

 朝食後はいつもの日課をこなし、空いた時間に少しずつ土地の整備をする。

 ゴールド種は親鳥でも身体が小さいのでそんなに大きな小屋は必要ない。

 大体、4m四方から5m四方ぐらいの目算で整備を始めた。


「お前、今度は何してるんだ…?」

「うん?」


 昼食後に、収獲はいいからと祖父に言われ、本格的に整備に力を入れた。

 それから数時間、黙々とやっていたら背後から声が掛かる。

 振り返れば少し呆れ顔のローレスが立っていて。

 どうやら祖父に教えてもらって此方へ来たようだ。


「何って、草むしり」

「畑じゃないだろ?」

「ここに雪ちゃんの小屋建てるから」

「“雪ちゃん”って誰だよ」


 少しむっとしたような顔をしたので目をぱちくりさせた。


「人じゃなくてゴールドの雛。オルトに貰ったゴールドの卵が今朝孵化したんだよ!あ、見る?可愛いよ!」

「は?雛?」

「そう」


 あっけらかんと答えると、ローレスは目を丸くした。

 そして、見ると言うので母屋まで向かう。

 室内に入るとピヨピヨと小さい声が聞こえてきな。


「ね、可愛いでしょ」

「……確かに…」


 想像以上だったのか、覗き込むように見るローレスに密かに笑う。

 多分雛なんて滅多に見ないだろうから。

 新鮮なのだろう。


「コレがゴールドの雛なのか。名前からしてもう少し黄色がかってると思ってたが…」

「あぁ。大人になると白をベースに羽が黄色っぽくなるよ。貴族の装飾品とかでも結構重宝されるんだって」

「なら子供の内は白い羽毛なんだな」

「だねぇ。ふわふわしてるよ。触っていいよ~」


 私がそう言うと、触りたかったのか、ローレスは直ぐに手を伸ばした。

 怖々とした様子についつい笑みが零れる。


「大人になるまで約ひと月かかるからね。もう暫くこの可愛い姿が拝めるよ」

「は!?ひと月!?」

「そう。普通の鶏なら大体一週間から二週間なんだけど、ゴールド種はひと月かかるの。成長遅いんだよね」

「だから流通しないんだな」

「そういうこと」


 一通りゴールド種の説明をして、また整備中の空き地へと戻った。

 付いてくる辺り、ローレスは時間があるのだろう。


「そういえば、エリオット様とフォルト様は?今日は一緒じゃないんだ?」

「む。アイツ等といつも一緒なわけじゃないからな!俺達はそれぞれ忙しいんだ」

「の割には結構な頻度で牧場に来てるけどね」

「………あいつ等も単独で来てるのか?」


 少しムッとした顔をしたが、思いついたように顔を顰めた。

 アイツ等、というのはエリオットとフォルトの事だろう。

 あの二人もたまに単独で牧場へ顔を出す。

 ローレスよりは頻度は低いし、大抵三人一緒に来るからだ。

 そのことを言えば、どこか悔しげにアイツ等…と零す。


「皆息抜きに来てるよね。フォルト様は来たら大抵竜達を見てくし、エリオット様はよく収獲手伝ってくれるよ」

「俺は…」

「ローレス様は草むしり手伝ってくれるもんね?」

「……………は?」

「ね?」


 ニコニコ。

 ローレスはポカンとしてふと視線を私の手元へ下げた。

 そこにはいつの間にか予備の鎌。


「……………」


 若干頬を引き攣らせたのは見逃そう。

 どちらにしろ、ローレスの場合、大抵草むしりを手伝ってくれる事実は間違ってないから。

 折角なので、一緒に空き地の整備を手伝ってもらおうと思う。

 草ぼうぼうだし。


「…はぁ…」

「がんばろー!」

「………はぁ、」


 鎌を手にしたローレスに拳を突き上げるようにして宣言すれば。

 再度溜息を吐かれた。

 でも気にしない。

 意気揚々と人手が増えたと思って、二人で空き地の草むしりを再開した。



 そんなこんなで、今日も一日あっという間。

 牧場の一日は終わるのが早い。


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