5歳~1
季節は巡って三度目の春を迎える。
漸く5歳になった。
というか、精神年齢が高すぎてついつい自分の歳を忘れそうになる。
正直、絶対に3歳児じゃ無理な事をやってきたなと今になって反省する。
とはいえ。
周りも何故か不思議に思わないし、ある意味同じような奴等も居るから不思議じゃないのかもしれない。
ハイスペック多すぎる。
「カルヴィー、お誕生日おめでとう」
「おじいちゃん、ありがとう!」
「今日からお前も魔法を使って良いからのぅ」
「うん!」
そう。
今日は私のこの世界での誕生日で、朝起きて直ぐに祖父に祝われた。
そして、同時に魔法使用許可が降りた。
これで漸く私もまともに牧場の手伝いが出来るようになると言う訳だ。
「牧場で使う魔法は判っているじゃろう?」
「うん。おじいちゃんの見てたから知ってる」
「お前なら何度か練習すれば直ぐに使えるようになるじゃろう。だが、使いすぎは禁物じゃよ。いいね?」
「はい!」
私がこれから使えるようになる単純魔法は、詠唱魔法と比べても魔力の消費は少ない。
だが、だからと言って調子に乗って使いまくるとぶっ倒れるので注意が必要だ。
しかも、まだ慣れない上に子供なので余計に気をつけねばならない。
「今日は皆が来るんじゃろう?」
「うん、そうみたい」
今日は昼過ぎに皆が来る事になっている。
皆というのは、ローレス筆頭にエリオットとフォルト。
そしてオルトとテオンだ。
何だかんだと言って結構付き合いが続いている。
というか、皆して牧場に遊びに来るのだ。理由を見つけては。
オルトとテオンは近くに住んでるし、牧場との関係上不思議ではない。
しかし、ローレスは兎も角、何故かエリオットとフォルトもよく来るようになっていた。
「なら、ワシからのプレゼントは先に渡しておこうかのぅ」
「ホント!!?」
祖父の言葉に目を輝かせる。
何故なら、去年の誕生日には私専用の魔具をくれたのだ。
キッチン用だが、用途に応じて色んな刃物に変わるという優れもの。
包丁からハサミ、ナイフなどなど、調理する際には凄く助かっている。
と言う訳で、祖父のプレゼントはかなり期待できる。
「今年はコレじゃよ」
「ペンダント?」
差し出されたプレゼントは、小さなペンダント。
歪な形をした鉱石か宝石のようなモノを細い針金のようなものがグルグルに巻いてある、ちょっとした工作のようにも見える。
わざわざプレゼントとして祖父がくれたのだから、ただのペンダントではないはず。
理由を聞くように視線を上げると。
「これから魔法を使うようになるじゃろう?その補助をしてくれる魔具じゃよ。この中央の石には魔力が込められておる」
言われてジッと見ると、確かに何か不思議な力を感じる。
魔具を扱う時と似ているから、魔力が込められているというのは間違いないようだ。
つまり魔法使う時の補助魔具という事か。
「この魔力っていつか無くなる?」
「いや、無くならんよ。これは“アダマンゴールド”と呼ばれる特殊な鉱石でのぅ。魔力補助としての魔具を作るのには一般的な鉱石じゃよ二年掛けて漸く一つ採掘出来てな、お前の誕生日に間に合ってよかったよ」
「二年!!?嘘!?」
どんだけ貴重な鉱石なんだ。
だが、話を聞く限り魔法補助の魔具では良く使う鉱石のようだ。
つまり、裏を返せばこの魔具自体が世間一般では珍しいのではなかろうか。
この子供の手のひらよりも小さいペンダントが非常に高価な物に見えてきた。
「この鉱石はのぅ、自然の魔力を蓄えて蓄えて、結晶化されたものなんじゃ。決してなくしてはならんよ」
「うん!絶対失くさない!!おじいちゃん、ありがとう!!大事にするね!!」
鈍く青光る金色。
不思議な輝きを閉じ込めるように巻いてあるのは鋼らしい。
魔力伝達しやすいのと、鉱石を守る意味があるそうだ。
それを皮紐に繋げてネックレスにしてあるというわけだ。
勿論切れないように保護魔法が掛けられているらしい。
念には念を入れて、という感じだろう。
「では、早速魔法を使って手伝っておくれ」
「任せといて!」
どんと、幼い手で胸を叩いた。
祖父と共に朝食後畑へと出て、手伝いに必要な魔法を確認しながら行なっていく。
失敗もあったが、概ね初めてにしては上出来ではなかろうか。
そんな時間を過ごしていたら、あっという間に昼を過ぎて。
「カルヴィー誕生日おめでとう!!」
一番目に来たのはオルト。
そして、一緒にテオンも来た。
「ヴィーちゃん、おめでとう~!」
「二人共有り難う!」
へらっと笑って頷く。
精神年齢はもう祝われて嬉しい歳ではないのだが、どうも身体が幼くなった事で精神も少しずつ歳相応になっているらしい。
こうして祝われて嬉しいと感じるのはまさにそうだろう。
「あの三人はまだ来てねぇの?」
「あぁ、うん、来てないよー」
「おっし!」
きょろっと辺りを見回しながら聞いてきたオルトに小首を傾げながら答えると、何故かガッツポーズしていた。
それを不思議そうに見ると、はっと気づいたのか何でもないと言われた。
何だそれ。
「まぁもう直ぐ来るとは思うけどね」
「プレゼントは皆が揃ってから渡す?」
「うーん、その方がいいかもね」
「じゃぁ楽しみにしててね」
「めっちゃ期待する言い方!それ!」
ふんわりと笑ったテオンに期待が膨らむ。
何故なら、テオンはまだ4歳なのにもう小さなモノなら作れるようになっていたからだ。
まだ火は扱わせてもらえないようだが、職人さんに頼んで鍛冶も出来るらしい。
だから、幼い子供とは思えないようなクオリティのあるモノを作っている。
因みに、私が日頃畑で使っている鎌は、まだ小さい私が使いやすいよう普通のよりも小さくて。
それを作ったのがまさにこのテオンなのである。
デザインや素材、原型をテオンが作って、職人さんが火を入れた、という感じだ。
今では私の愛用の鎌になっている。
手で草を毟っていた時とは段違いなのは言うまでも無い。
「あの三人が来るまでどうしようか」
「仕事手伝うぜ?」
「僕も!」
お誕生日会の準備は既に整っている。
後は全員揃ってから仕上げをするのみだ。
ローレス達もそんなに遅れることは無いだろう。
ならば、時間つぶしになってかつ、彼らが来れば直ぐに切り上げられる事…。
「草むしりでもするか」
「まぁ、そうなるよなぁ…」
「毎日生えるもんね…」
雑草のしぶとさをよく知る二人は揃って苦笑いを浮かべた。
安全かつ美味しい野菜を作るには農薬は不要。
そもそもこの世界に農薬という概念はないのだが。
それもあって、まぁ畑には毎日毎日飽きる事無く雑草が生える。
その雑草も乾燥させれば色々使い道があるので抜く手間さえ、という感じだ。
「それでも手で抜いてた頃より全然マシだけどね」
「鎌の切れ味悪くなってきたらいつでも言ってね」
「うん、有り難う」
「魔法でざっくり、って訳にはいかねぇしなぁ」
「そうなんだよねぇ。牧草ならそれでいいんだけど、さすがに野菜を植えてる傍だとね…」
思わず三人でしんみり。
畑の傍に屈んでせっせと雑草を抜き出した。
「何かこう、毎日平凡な日々っていいよね」
「……また何か悟ったような事言い出したぞ…コイツ」
「ヴィーちゃん、日がなこういう生活だもんね」
「そうそう。あくせく働く事も勉強する事も無くさ、好きに動物と畑弄れるとかさ」
ホントいい世界だわ、と心の中で続けた。
前世だとまぁありえないわけで。
こうのんびりした時間が過ごせるなら転生してよかったとさえ思う。
「そういや、二ヵ月後の収穫祭、何するんだ?また今年も何かするんだろ?」
「するよー」
「去年の芋煮美味しかったよね」
この国では、秋に大きな収穫祭を行なう。
とは言っても、王都なので振舞う側よりも参加する側の方が多い。
その為、商いをしている者はここぞとばかりに出店を出す。
確か、オルトの所は卵やミルクの副産物をそのまま売っていた。
テオンのところはちょっとしたアクセサリーや雑貨屋の一部の商品を出していて。
そして、ウチはというと。
「芋煮の時の鍋でまた何か作れたらいいかなー」
前世で見た事のある地域おこしを参考にさせてもらったのだ。
勿論、味付けや材料はここの人達に受け入れられやすいように多少改良したが。
そういう催し自体がこの国では珍しいようで、予想以上に好評だった。
だから今年もそういった物を提供したいなとは思っている。
「この国唯一の俺ら庶民がメインの祭りだからな」
「楽しみだね~」
「二人のトコは今年は?去年と同じ?」
私の言葉に二人は顔を見合わせる。
「僕の所は多分去年と同じじゃないかな?結構売上良かったらしいし」
「ウチはどうだろうなー。でも多分同じじゃねぇかな」
「オルトのところも加工すれば?卵とミルクでプリン作るとか」
そうだ、加工品にすれば更に売上はアップするはず。
ウチは料理なのだから、デザートがあれば更に相乗効果が見込めるはずだ。
そう考えて、ニヤリと口角を上げた。
二人は私のそんな顔を見て、また何か考えてるんだなぁと思ったのか、僅かに視線を合わせるだけでまた私へと顔を向けた。
「プリン、ってお前がたまに作ってくれる、あのぷるんぷるんやつ?」
「そう!甘くて美味しいから絶対に人気出るよ!」
「あれ美味しいよね!僕大好き!」
「確かに美味い。でもいいのか?ウチが出しちまっても」
「大丈夫。ウチは料理系出す予定だし、オルトのところでデザートが出れば相乗効果で売上伸びるよ、きっと!」
その言葉に安心したのか、オルトは帰ったら親父に相談してみると言った。
折角の祭りなのだから、もっともっとお客さんが来るように工夫しなければ。
この国には王室主宰のイベントは大小様々あれど、一般庶民がメインのイベントはこの収穫祭ぐらい。
ゲームのようにもっと毎月とは言わないが、年に3度か4度ぐらいは最低でもイベントが欲しい。
其処まで考えてそういえばコレを相談するのにうってつけの人物が居るじゃないかと気づいた。
「(折を見てローレスか、王様が来た時に相談してみるのもいいかもね)」
ふむふむ、と一人で納得していると。
入り口の方から声が聞こえてきた。
「あ、ヴィーちゃん、ローレス様達来たみたいだよ」
「だね」
「はぁーあぁ、やっとかよ」
「まぁまぁ、しょうがないよ。私達と違って塀の向こうから来るんだし」
「お貴族様だからな!」
頭の後ろで手を組んで大仰に溜息を吐く。
そんなオルトに思わず苦笑いを零した。
ローレスは元より、フォルトやエリオットも中壁の向こうに住んでいる。
だから、近場に住んでいる二人より遅れてくるのは当たり前なのだ。
去年同様、彼らに誕生日を祝ってもらえるのは嬉しい。
そんな気持ちで、土のついた手を払った。




