3歳~4
“カルヴィー”となって新しい人生を始めて約半年。
かなり充実した日々を送っている。
牧場生活が楽しくて仕方ないのだ。
魔具を使えば幼い私でも簡単に畑は耕せるし、祖父から好きな種を植えて良いと自分の区画も分けてもらった。
今は夏から秋になりかけの季節なので、サツマイモや山芋、サトイモなどのイモ類の苗を植える予定で色々と畑を整備している真っ最中だ。
花も幾つか植える予定にしているが、上手く育てられる気がしないので簡単そうなモノを一つか二つ植えようと思っている。
また、動物の世話も平行して毎日行っている。
この世界の牛や鶏、羊は名前こそ前世で見知ったモノ同じなのだが、見た目は結構違う。
まず牛の角が大きいのと顎鬚が生えている。最初羊と間違えそうになったのは内緒だ。
その顎鬚が結構貴重な素材らしく、祖父は毎日丁寧に切り揃えていたりする。
触ったら赤ちゃんの髪かな?というぐらい毛が細くて柔らかかった。
鶏はサイズがデカイ。
普通、大きくてもせいぜい50センチぐらいだと思うのだが、此処の鶏、何故か私よりデカイ。
現在3歳児の私よりもだ。
可笑しいだろ。
初めて見た時は目の錯覚かと思ったものだ。
しかも卵も大きい。ダチョウの卵ぐらいある。でも美味いから良し。
最後に羊は、羊と言って良いのかな、というぐらい見た目が可笑しい。
「コレ、絶対に羊じゃない…」
メェ~と鳴くが、見た目が羊から逸脱してる。
体長は約150センチほど。
大きい個体だと2mぐらいあるかもしれない。
普通に背中に乗れる。
顔は愛嬌あるが、足が馬の蹄っぽく、割と足も速いらしい。
この国では地竜の方がメジャーなので乗って移動することはないが、他国ではこの羊に乗って移動する民族も居るようだ。
毛皮は勿論刈り取って素材に出来る。
この辺は普通の羊と同じと見ていいかもしれない。
手触りは良好で、この国でも衣類に専ら使われるようだ。
「このモフモフ具合が溜らん!」
もふっと羊の身体に身体を埋め込む。
ブラッシングは日課なのだが、魔法を使う必要があるので祖父の仕事だ。
しかし、私もブラッシングがしたかったので、普通のブラシで一匹だけ担当を作ってもらった。
それがこの子供の羊。
名前はメリー。
3ヶ月前に生まれたばかりで、まだ身体は1mにも満たない。
だから私でも全身ブラッシングが出来ると言う訳だ。
毎日ブラッシングしているお陰ですっかりメリーも私に懐いてる。
それと、動物屋のオルト、道具屋のテオンとは今ではすっかり仲良しの友達で。
テオンはまだ幼いから牧場には来れないが、オルトはよく遊びに来るようになった。
初めにローレスと遭遇した時は大変だったが。
ローレスもどこか喧嘩腰だったし、オルトは自分より大きいローレス相手にも負けじと言い返していた。
仲良くしろとは言わないものの、私の目の前で喧嘩するのは止めて欲しい所だ。
今でも稀に遭遇するがその時は睨み合う。
双方に何で喧嘩するのか聞いたら、“何となくだ”と言われて、まぁ男の子だから私には判らない何かがあるのだろうと判断した。
というか面倒臭くなったとは言わない。
お陰でその愚痴をテオンに洩らすと、しょうがないよ~と笑われた。
同じ男の子だから気持ちが二人の気持ちが判るようだ。
私には教えてくれなかったけど。
そして、今日は今日でまたもや問題が勃発した。
というか、また来たのか、ローレス。
オルトと遭遇してまた三日とあけずに来だしたのだから意味が判らない。
アレか、友達を取られたと思ったのかな。んなわけないな。
「な…な、何で、お前らが居るんだ…!!!?」
「??」
ワナワナと指先を震えさせて指差した先に居たのは、牧場の脇、入り口付近で手を振る少年二人。
背格好からしてローレスと小同じぐらいかもしれない。
ローレスの反応からして知り合いぽいが。
「お前が最近コソコソ城を抜け出してるってのを聞いてな!何か面白そうだったんで尾行したんだよ」
「ローレス、この件、陛下は承知なのか?」
「五月蝿い!承知も何も、先にたき付けたのは父上の方だぞ」
一人は赤髪の少年。
短い髪が逆立っていて色も相まって燃えてるように見える。綺麗な色だなと思った。
もう一人は黒髪の少年。
逆に髪が肩より少し長く、前髪も長いので一見して優男な感じ。髪は後ろで一つに括ってるようだ。
その少年が嘆息気味に零した言葉にローレスが噛み付く。
というか。
「陛下…って…?」
「あ…ッ」
「「??」」
黒髪の少年の言葉の中で一つ引っ掛かる単語があった。
それを疑問に思って問うと、ローレスは思いっきり頬を引き攣らせてマズイ、という顔をした。
一方、二人の少年は不思議そうな顔だ。
「は?お前……もしかして身分バラしてなかったのか?マジかよ…」
「はぁ…。道理で可笑しいと思った。お供も連れず一人で安全地帯とはいえ、こんな所に来るなんてね」
「……………、」
呆れ口調な二人を見て、そしてローレスを見た。
ちょっと待て。
お前、唯の貴族じゃないのか。
“陛下”という単語ぐらい、私でも判る。
此処が異世界でも現代でも意味は一緒だろう。
「ローレス様……まさか…」
「ッ…!」
気まずそうに顔を背けられた。
いや、そんなに知られたらマズイことなのだろうか。
確かに王族がこんな所にいたらソレはマズイだろうが。
「あれ、ということは………リューさん……って…」
「リューさん?……あぁ、もしかしてリュートス陛下のことかな?」
「あばばばば…!!!?やっぱりかぁぁっ!!!!」
黒髪の少年が当たり前のように教えてくれた。
やっぱりというか、ローレスの父親…リューがこの国の王様だったらしい。
本名はどうやらリュートスというようだ。
何で偽名を使ってまでこの牧場に来たのか判らないが、祖父と顔見知りのようだったし、何かしらの縁があるのだろう。
国王と縁があるっておじいちゃんは何者だよ。
「その……黙ってて悪かった…」
思わず頭を抱えて叫んだ私にローレスが罰の悪そうな顔で謝罪してきた。
いや、別に謝る必要は無い、いや、ある意味騙していたのだからあるのか。
とはいえ、謝罪が聞きたい訳ではなく、何故黙っていたのかが知りたい。
「正体を隠してたのは、やっぱり立場上の理由?」
「………それもある」
「それも、ってことは、他にもあるの?」
「…………………」
私の問いにローレスは押し黙った。
どうやら言えない事があるらしい。
無理に聞いてもいいが、正直そこまで興味もない。
父親が国王ならば、ローレスは王子という立場。
色々と言えないこともあるのだろう。
小さく溜息を吐いて、その場の空気を変えるように二人の少年を見やった。
「ところで、お二人はどなたですか?ローレス様のご友人のようですが?」
此処は一応牧場内なので、見知らぬ人間を居座らせるわけにはいかない。
聞く権利はある筈だ。
此方の意図が伝わったのか、まず黒髪の少年が姿勢を正す。
「これは失礼致しました。僕はエリオット・クロス。貴族位はありませんが、父は王宮直属の魔法使いとして働いております。僕は所謂ローレス殿下の幼馴染、というものです」
お見知りおきを、と丁寧に頭を下げられて、慌てて此方こそ、と返した。
正直此処まで丁寧に挨拶されるとは思わなかった。
言葉尻からして柔和な性格のようだ。
幼馴染ということだから、ローレスや赤髪の少年のストッパー役もこなしてそうだ。
そして、チラリとその赤髪の少年を見ると。
「俺は、フォルト・アーガネット。アーガネット公爵家の次男だ。ローレスの目的がまさかこんな餓鬼だったとはなぁ。お前、こんなのが趣味だったか?」
「はぁ!!?」
「なっ!!!?馬鹿か!俺は別に…!!」
「フォルト。レディに対して失礼だよ。それに、ローレスの趣味に関して文句を言う立場じゃないだろう?君は」
「だから趣味って何だ、趣味って!!違うって言ってるだろ!!」
ローレスが意地になって否定していた。
それは兎も角として、このフォルトという少年が非常に失礼なヤツだということはわかった。
エリオットと違ってコイツは飛竜に噛まれたらいいのに、と念じておいた。
「もういい!お前ら帰るぞ!全く、こういう時だけ目敏いんだからな…!」
そう言って、二人の背中を押すようにしてローレスは牧場を出て行こうとする。
そして去り際に一度振り返って、念を押すようにして口を開いた。
「カルヴィー!こいつらの事は気にするな。また後日改めて邪魔をする!」
「あぁ、りょうかーい。気をつけて」
あ、おい、というような声も聞こえたが、直ぐに牧場の敷地から姿を消した。
嵐のようだった。
ただ、少し必死そうだったローレスに小さく笑みを零す。
「にしても、まさかローレスが王子だったとはね…」
なぜこんな牧場に一国の王と王子が訪れるのか。
知り合いという祖父に聞いて見てもいいが、何だか厄介ごとに巻き込まれそうな気がしてならない。
こういう悪い予感というのは当たるものだ。
私は唯の牧場主の孫。
触らぬ神に祟りなしというではないか。
向こうが立場を隠したいのだったら、此方も触れない方が身の為かもしれない。
そう結論付けて、サラッと自分の中で今日のことは水に流した。
「動物屋の息子に、道具屋の息子、そこに王子か…」
まだ幼いとはいえ、三人とも将来有望そうな見た目をしていたし、エリオットやフォルトも将来モテそうだ。
其処まで考えてチラリと変な考えが浮かぶ。
しかし、頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
「無い無い、さすがにありえないわ!」
ゲームに酷似した世界で、妙な立ち位置の自分。
もう一度ありえない、と頭を振って踵を返した。
メインはもう少し大きくなってからなので、この辺は登場人物紹介な感じでトントン進みます!
次からは5歳編~