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2/22

3歳~1

 どうしてこうなった。

 目の前の不貞腐れたような顔をした少年を見て内心でため息を吐く。




 時間遡る事十数分前。


「カルヴィー!ちょっとこっちにおいで!」

「はーい!」


 畑の端っこで草むしりをせっせとしていた私に祖父が声を掛けてきた。

 ずっと屈んでいた所為で痛む腰を少しだけ叩いて年寄り臭くよっこいしょ、と零して立ち上がる。

 そして、声がした方、牧場の入り口にある母屋の前に祖父が椅子に座って待っていた。

 其処には、初めて見る四十半ばぐらいの壮健そうな男性と自身と同じぐらいの幼い少年が居て。

 身なりからして貴族っぽい。

 はて誰だろうか、と小首を傾げつつも駆け寄った。


「おじいちゃん、どうしたの?」

「お前の紹介しようと思うてのぅ」


 杖を付く祖父の傍に立つと、身体ごと向けられるように肩に手を添えて彼らと面向かった。


「初めまして。私の事は“リュー”と呼んでくれ。此方に居るのは私の末息子のローレス。君の二つ上だな。仲良くしてくれると有り難い」

「初めまして、カルヴィーと言います。宜しくお願いします!」


 元気ハツラツ、といった風に挨拶すると年齢も考慮してか驚いたようにリューと名乗る男性は眼を見張った。

 そして少し目を細めて憂うような表情を見せた後、末息子というローレスを手前に出す。


「さ、ローレスも挨拶なさい」

「……初めまして。ローレスだ、宜しく」


 若干溜息混じりなのが気になるが、まぁイヤイヤ連れてこられたのだろうと思って気にせず宜しく、ともう一度告げた。

 内心の苦笑いが表面に出ていたのか、ローレスは少し気まずげに視線を逸らす。


「カルヴィー嬢の怪我の具合は問題ないようですね」

「勿論じゃよ。綺麗さっぱり治してもらったよ。今ではこの通りじゃ」

「そうですか。それなら良かった」


 頭上で交わされる会話を耳にしつつ、それで彼らは誰なんだ、と疑問を目で訴える。

 すると祖父はあぁ、と気づいたように話してくれた。


「こやつ等はの、ワシの遠い親戚のようなもんでな。まぁ何かと気に掛けてくれるのじゃよ。それに先月お前の両親達が亡くなったじゃろう?心配で来てくれたようじゃ」

「へー…そうだったんだね」


 祖父の言葉にあっけらかんと答えた私に予想外だったのか、リューはまた驚いた顔を見せた。

 それに気づいて僅かに苦笑い顔で答える。


「だって、私あんまり覚えてないんだもん」


 努めて明るく、そして“子供らしく”答えた。

 だってよくよく考えたら、今は“大人の私”の記憶があるから理解力があるものの、普通なら物心が付くか付かないかの年頃だ。

 親が居なくなった、という事なんてよく理解出来ないだろう。

 例えば身寄りの無い独りになったのなら判るが、ずっと一緒に居た祖父が居るのだから寂しさも半減だと思う。


「驚いた…。きっとショックだと思っていたんだが…」

「まぁそうじゃろうな。ワシも暫く塞ぎこむと思っていたんじゃが、この通りよ」

「でもさすがおじ様の孫ですね。精神が立派なようだ」

「はは!それは買い被りすぎじゃよ!まだ幼い子供じゃ、いずれ理解も追いつこう」


 ちゃんと判った上での事なのだが、どうやら祖父はまだ幼さ故に両親が死亡したという事実を判ってない、という判断らしい。

 それはそれで勘違いさせとこう。

 この歳で物分りが良すぎるのも問題があるだろうから。


「さて、カルヴィーや。折角じゃ、ローレスを牧場内に案内してあげなさい。ワシはまだこの男と話があるでな」

「はーい」


 何と呼んだらいいか迷った為、とりあえず子供らしく手を差し出したらふい、と顔を背けられた。

 そしてスタスタと通り過ぎるように歩いていく。

 それを咎めるようにリューが声を掛けたのだが振り返りもしない。


「…はぁ…。カルヴィー嬢、すまないね。あの子はちょっと機嫌が悪いようで…」

「えーと…じゃ、行ってきます!」


 ですよねー…なんて声に出せるわけもなく。

 曖昧に笑顔を浮べて、追いかけるように駆け出した。

 子供の足なので、直ぐに追いつく。


「えっと、ローレス君?」

「お前とは身分が違う」

「………(このクソガキ…!)じゃぁ…ローレス様?何か見たいのありますか?」


 ふてぶてしく言われカチンときたものの、相手は子供と言い聞かせて下手に出る。

 だが、此方の気持ちなど知る由も無く、ローレスは別に、と可愛げなく答えたのだ。

 そして冒頭に戻るわけだが。


「リューさん…あー…リュー様とおじいちゃんの話が終わるまで時間潰さないといけないでしょ?此処でボーっとしとくならそれでいいけど」

「適当に時間潰す」

「あっそ」


 はぁ、と溜息をこれ見よがしに吐いて、放ってどこかに行こうかと考えたが、一応牧場内を案内しろと言われたので。

 此処でほったらかしにするわけにもいかない。


「じゃぁまぁ、とりあえず案内だけするけどね。此処畑ね。あっち動物小屋、あっち加工場、その向こうが倉庫、はい、終わり」

「…………………」


 物凄い目で見られた。

 ぱっぱっぱ、と指差しながら説明したのだが、それが信じられないのか、驚愕の眼差しで見てくる。

 いや、アンタが案内いらないって言ったんでしょ、とはさすがに言わないけれど。


「おじいちゃんから案内しろって言われたからね。行く行かないは別にしてとりあえず案内したから。後はご勝手に」


 言うだけ言って、ローレスがポカンとしているのを他所に、私は畑の畝の間に生えている雑草を毟りだした。

 どうせさっきまでやっていたのだ、ついでに此処もしておこう。

 そう思って屈んでせっせと草むしりしだしたのだが、傍に居た気配が動かない。

 背後が気になりつつも振り返らずに黙々と手の届く範囲の雑草を毟っていると。


「お前、何してるんだ?」

「……見て判らんか。草むしりですよー。ローレス様。雑草を取らないと作物の栄養を取られるでしょ」

「そういうものなのか」


 へぇ、と頭上から声がして、どうするのかと黙って草を毟っていたら横から手が伸びてきた。

 思わずビクッと手を避ける。


「なに、」

「どれが雑草なんだ?」


 手の先を見ると、私と同じように屈んだローレスがまだ抜いてない雑草を指差していた。

 まさか手伝うというのだろうか。

 この何もした事が無いような白い手で。


「……この辺に生えてる細いのが雑草です。こっちは苗なので間違っても抜かないように」

「そうか。これは何の苗なんだ?」


 細い雑草を2本3本まとめて掴むと、引っこ抜くように雑草を取った。

 根っこについた土をぶら下げて興味深げに見た後、今度は抜かないようにと言った方の苗へ視線を向ける。


「これは蕪の苗です。もう少ししたら土の下に白い拳ぐらいの実を付けるんですよー」


 このくらい、と幼い手を握って拳を見せる。

 丁度このぐらいの小蕪だ。

 もしかしたらもう少し大きくなるかもしれないが。

 そう教えて、ローレスが抜いた雑草を貰うように手にすると根っこに付いた土を地面に叩きつけるようにして落とす。

 その動きが面白かったのか、何をしてるんだ、と聞かれた。


「土を落とさないと色々面倒なので。勿論畑の土が微量に減るし、抜いた雑草を運ぶ時に重いでしょ?」

「なるほど」


 そんな話をしつつ、せっせと雑草を抜く隣で、ローレスもチマチマと少量の雑草を抜いていた。

 まぁ何もしないよりはマシだが、もう少し男らしく抜けないものか。

 とはいえ、草むしり初体験だろうし、普段はしないのだろうから黙っていよう。


「おや?こんな所に居たのかい」

「「!?」」


 頭上から声がして頭を上げると、祖父が杖を付いて立っていた。

 その後ろにはリューも居て。

 ローレスの姿に少し驚いているようだった。

 この人、今日めっちゃ驚いてるな、と思いつつ。


「おじいちゃん、お話終わったの?」

「あぁ終わったよ。ローレスも草むしりを手伝ってくれてたのかい。有り難うよ」

「……いえ、」


 祖父の言葉に変な所を見られたと思ったのか、ローレスは手を叩いて慌てて立ち上がった。

 少し居心地悪げに身じろぐ。

 しかし、何だかんだと言ってずっと草むしりを手伝ってくれたのは確かなのだから礼を言っていこう。


「手伝ってくれて有り難う」

「別に大したこと無い」


 照れ隠しも入っているだろうが、またふてぶてしく言われて呆れ眼を向ける。

 可愛げない。


「ローレス様、もう少し子供らしく出来ないんですか」


 つい、ポロッとそんな事を言ってしまった。

 言って後悔だが、出たものはしょうがない。

 だから見本を見せるように、にこーっと笑ってみた。


「ほらほら、愛嬌大事!」

「…馬鹿か。お前」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんですよー」

「はぁ!?俺を誰だと思って……むぐっ!?」

「ほらほら!ローレス!レディに向かってその態度は無いだろう?止めなさい」


 私が笑顔で言い返すと、気に食わなかったのかローレスがさらに言い返してきた。

 しかし、言い終わる前にリューに止められる。

 そして苦笑い気味にリューが謝って来た。


「カルヴィー嬢、すまないね。この子はまだレディの扱いが不慣れなんだ。許しておくれ」

「大丈夫です。気にしてませんから」


 そう言うと、少し残念そうな、不可思議な表情を浮かべたリューは一つ咳払いして話を変える。


「おじ様。今日の所はこれで失礼しますね。あの話はまた後日ということで」

「あぁ、構わんよ。まぁいいんじゃないかね」

「そう言っていただけると有り難いです。後は此方にお任せを」

「はいよ。また遊びにおいで。見つからないようにね」


 ほっほ、と笑うようにそう言うと、リューは少し頭を掻いて、私にローレス共々礼をして牧場を去って行った。

 何の話をしていたのか気になるところではあるが、聞いたところで多分判らないだろう。

 大人の話に子供は口を挟むべきではない。

 前世で学んだ社交術の一つだ。


「おじいちゃん、今日のご飯何にする?」

「何にしようかね」


 現代と違ってこの世界ではあまり夜は明るくない。

 電気設備が整っていない為、魔力を使った灯りは僅かにあるものの、基本的には日の出と共に起きて、暗くなれば寝る、というのが感じだ。

 その為、そろそろ日が暮れてきた。

 もう少しすれば夕暮れ時だろう。

 今朝方採った野菜や卵、他食材を思い浮かべてメニューを考える。

 祖父と共に母屋へと歩いていった。

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