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フォルトの場合




 フォルト・アーガネット。

 アーガネット公爵家の次男坊である。

 順当に行けば長男が爵位を継ぐはずなので、フォルトは将来的に何処かの貴族の令嬢に婿入りさせられるだろう。

 しかし、当人にその気は無く、むしろ貴族と言う地位を煩わしく思っていた。

 艶やかな赤髪はアーガネット家特有のモノであり、その髪色だけで貴族という振る舞いが求められる。

 だからフォルトにとって、自身の赤髪は忌々しいものでもあった。


 また、年が一緒だからと、第三王子であるローレスと交友を持たされた。

 貴族という立場が嫌なのに、何が悲しくて王族と付き合わねばならないのか、それがフォルトの思いだったのだが、それはローレスと出会って変わった。

 第三王子という立場だからなのか、ローレスもまた自身の立場を多少なりとも煩わしく思っていたようで、割と気が合ったのだ。

 それからというもの、同じく同い年のエリオットも含めて三人で勉学に励む事が増えた。

 性格なども三人で丁度良いバランスで、何をするにも大体相談し合ったりして。

 だが、此処最近、ローレスの不可解な行動に気づいたのだ。


 何か隠している。


 そう判断したフォルトは、あまり気にしていないようだったエリオットも含めてローレスの行動を見張る事に。

 するとどうだろう。

 ローレスは王族という立場にも関わらず、護衛すらも付けずに城を抜け出していたのだ。

 一体何処へ行っているのか。

 乗り気の無いエリオットを引っ張って後を付ければ。

 向かった先は、王都内にある唯一の牧場だったのだ。

 水竜を育成するシーシード施設と同様に、此方は地竜と飛竜を育成する場所なのだ。


 かねてより、飛竜に強い興味を持っていたフォルトは密かに歓喜した。

 何故なら貴族という立場上、公に飛竜に興味があるだなんて言えないからだ。

 経験の上で地竜や飛竜に乗ることはあれど、一般的な貴族は常用的に乗りはしないのだ。

 唯一、貴族位を持っていてもシーシード家は立場上乗る者が多い。

 それを羨ましく思う気持ちもあった。


 そんな中で、王族の地位を持ちながら牧場に出入りするローレスを見つけたのだ。

 これは自分も仲間に入れてもらわねば。

 そう思うのは致し方ないだろう。


「な…な、何で、お前らが居るんだ…!!!?」


 ローレスはワナワナと指先を震えさせて此方を差した。

 どうやら自分達が後を付けていたとは気づいていなかったようで。

 その驚きよう、そして、動揺振りにニヤリと笑ってしまった。



 牧場の入り口、エリオットと共に佇む。

 王都内にあるこの牧場は、地竜と飛竜を育成する場所でもある為、国内でも有数の安全地帯でもある。

 その為、王族でも確かに安心して来れる場所でもあるのだが、それでもあのローレスが日がな通うだけの理由がある筈だ。

 確かに見渡す限りの緑。

 目に付く畑にはみずみずしい野菜が実っていた。

 色々なしがらみ無く、心癒される空間、そう言う感じだった。


「お前が最近コソコソ城を抜け出してるってのを聞いてな!何か面白そうだったんで尾行したんだよ」


 悔しげにそう言い放ったローレスの動揺ぶり。

 多分その理由は、後ろに居る彼女だろう。

 自分達よりも年下だろうが、落ち着いた様子を見せている。

 貴族の令嬢であれば別だが、いたって普通の牧場の娘だろうに。

 それに興味を引かれ、彼女をマジマジと見てみた。


「ローレス、この件、陛下は承知なのか?」

「五月蝿い!承知も何も、先にたき付けたのは父上の方だぞ」


 エリオットの言葉にローレスが噛み付く。

 彼女は、この国では珍しい群青の髪色をしていた。

 その綺麗な色に目が行く。

 自身の赤い髪と対になるような濃い色合いだった。


「陛下…って…?」

「あ…ッ」

「「??」」


 そんな彼女が僅かな困惑の色を見せてそう呟いた。

 それに対して直ぐに反応を見せたのはローレスで。

 フォルトとエリオットは彼らの反応に首を傾げる。


「は?お前……もしかして身分バラしてなかったのか?マジかよ…」

「はぁ…。道理で可笑しいと思った。お供も連れず一人で安全地帯とはいえ、こんな所に来るなんてね」

「……………、」


 もしかしてと思い、そう口にしたのだが。

 まさかの図星だったようだ。

 呆れて言葉が続かない。

 確かに立場上言い辛い部分はあるだろうが、フォルト達が知る限り、結構な回数で牧場に通っているはずだ。

 見る限り、彼女との関係も良好そうだし、それで自身の地位を黙っていたということだろうか。


「ローレス様……まさか…」

「ッ…!」


 彼女が目を見開いて信じられないという感じにローレスを見やった。

 気まずげに視線を逸らす。

 身分をバラしたくなかったということか。

 だがバレたものは仕方ない。

 自分達がバラしたことは棚上げし、フォルトはニヤリと口角を上げた。


「あーあぁ」


 小さく肩を竦めるように零せば、キッとローレスに睨まれた。

 しかし、次の彼女の言葉にビクッと肩を跳ねらせる。


「あれ、ということは………リューさん……って…」

「リューさん?……あぁ、もしかしてリュートス陛下のことかな?」

「あばばばば…!!!?やっぱりかぁぁっ!!!!」


 彼女の疑問に答えたのはエリオットで。

 その答えに、彼女は叫ぶように頭を抱えた。

 それはそうだろう。

 たとえ失礼のないようにしていても、一国の王相手にしていたのだから。

 彼らの様子をフォルトはジッと眺める。


 ローレスは彼女に謝っていたが、身分を黙っていたのは立場上の理由だけ、ではないようだ。

 納得していないようだが、しかしそれ以上問い詰める気も無い様で。

 まだ幼いというのに、やけに分を弁えている。

 その不思議な雰囲気についつい目が行く。

 しかし、彼女の問いにはっとした。


「ところで、お二人はどなたですか?ローレス様のご友人のようですが?」


 はっきりと、そしてしっかりとした物言いをする。

 下手をしたらその辺の令嬢達よりしっかりしているかもしれない。

 フォルトがそう観察している間に。

 先にエリオットの方が答えていた。


「これは失礼致しました。僕はエリオット・クロス。貴族位はありませんが、父は王宮直属の魔法使いとして働いております。僕は所謂ローレス殿下の幼馴染、というものです」


 恭しく、自分よりも貴族らしい幼馴染は、初対面の相手でも変わる事無く丁寧に答えた。

 逆に彼女が面食らっている。

 そして今度は此方を見てきた。

 順当に行けば当たり前の事なので、臆せず続けて自己紹介をする。


「俺は、フォルト・アーガネット。アーガネット公爵家の次男だ。ローレスの目的がまさかこんな餓鬼だったとはなぁ。お前、こんなのが趣味だったか?」


 しかし、自分はエリオットとは違う。

 ニヤリと笑って告げると、ローレスが大袈裟なぐらい動揺して反論してきた。

 それが面白くてニヤニヤが止まらない。

 だが、エリオットにまで止められては黙るしかなく。

 肩を竦めるだけに留めた。


「もういい!お前ら帰るぞ!全く、こういう時だけ目敏いんだからな…!」

「あ、おい…!」


 そして、この場には居られないとばかりに、あれよあれよと言う間に、ローレスに牧場を追い出されてしまった。

 そういえば、チラリと彼女の名前が聞こえてきた。

 確かカルヴィーといったか。

 もう少し居座るつもりだったのに、よほど自分達に知られたくなかったようだ。


「何なんだ、お前達は!普通此処まで来ないだろ!」

「いいじゃねぇか。そもそもお前がコソコソしているのが悪い」

「まぁ、一応王族だからね。何処に行っているのかぐらいは把握しておかないと」

「……チッ」


 エリオットのもっともな理由にローレスも押し黙った。

 ズンズンと先を歩いていく後姿を見つつ、フォルトは考える。

 ローレスが何故そこまであの牧場に通うのか。

 そして、あの動揺ぶり。

 やはりあのカルヴィーという女の子がポイントな気がした。


「(まぁ、印象には残るな)」


 ふむ、と一人頷く。

 群青の髪色は本当に印象強い。

 多分、街中でも直ぐに発見できそうだ。

 何より、年齢の割りに聡明そうな言葉遣いと振る舞い。

 同齢の令嬢より付き合いやすそうだ。


「あ、俺そのまま家に帰るぜ」

「判った。ローレスは僕が送って行く」

「おー」

「こら!俺は一人で帰れるぞ!」

「はいはい」


 貴族の家が並ぶ区域に入り、フォルトは二人と別れた。

 一人がローレスを送っていけば問題ない。

 此処は用事が無ければ一般庶民は入って来れない区域だからだ。


「さてと……どうするかねぇ」


 腕組みして家路を歩く。


「まぁ、フォルト様。御機嫌よう」


 妙齢の婦人に声を掛けられ軽く手を上げる。

 一人で歩いていると、三人で歩くよりも格段に声が掛けられやすい。

 何故かと言うと、ローレスは言わずもがな王族であり、エリオットは貴族位はないが、高位の魔法使いの家系であり、その跡取り。

 一方、フォルトは公爵家嫡子とはいえ、次男。

 一人娘の婿に、という話は多いのだ。

 こう考えている間にも、同じぐらいの令嬢を連れた夫人が頭を下げてきた。

 令嬢も母親に習ってスカートを広げる。

 綺麗に着飾った令嬢は、何の苦労も無く貴族令嬢として育ったに違いない。

 所作や見た目は綺麗でも。

 何故かフォルトの記憶には残らなかった。


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