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オルトの場合

※オルト視点。



 王都にある動物屋の次男坊。

 それがオルトの立ち位置だ。

 別に次男だからといって不遇されているわけでもなく、長男共々大事にされている。

 やりたいといえば動物達の世話だってさせてくれる親だ。


 長男は自分より五つ年上で、何でも出来る兄だ。

 店も長男が継ぐだろう。

 なら、自分はどうしようか。

 王都で同じように動物屋を開く事は困難だ。

 何故なら、我が家自体が王族御用達というか、王宮へも卸しているからである。

 その為、自分で同業を始めるという事は実家へ喧嘩を売るようなもの。

 おまけに勝つ見込みはゼロ。

 ならば。

 王都の外で動物屋をやるか、全く新しい事を始めるか。

 つまり、自分の将来はこの二択なのだ。


 あの日までは、そう考えていた。




 オルトの店との取引先に牧場がある。

 その牧場は王都内にある唯一の王族御用達の牧場で。

 国内固有種である地竜と飛竜を育成している所だ。

 勿論、牛や鶏などの一般的な動物も居る。

 店との付き合いはソレだ。

 特に動物の種付けは店でしか出来ない。

 また特定の餌などもある。

 その為、牧場と動物屋は綿密な付き合いがあるのだ。


 その牧場の主であるロンにオルトは懐いていた。

 色々と面白い話をしてくれるし、くれる野菜や果物は美味しいし。

 まだ牧場には行った事が無いがもう少し大きくなったら行かせてもらえるかもしれない。

 そんなタイミングでロンがその子を連れて来たのだ。


「俺、オルト!よろしくな!!」

「宜しくね!私、3歳なの。オルトは?同じぐらい?」

「おう!」


 ロンの孫はカルヴィーという名前で、群青の髪色が凄く目を引いた。

 珍しい髪色だと思う。

 同じ年ということで仲良く出来そうだし、仲良くしたい。


「オルト、せっかくだからカルヴィーちゃんに納屋を見せてあげたらどうだ」

「うん、そうする!カルヴィー見るだろ?」

「見たい!」


 父親の促しに頷いて、カルヴィーを連れて奥の納屋へと案内した。

 店の奥には牛や鶏などの販売用の動物達が居る小屋があったり、加工場や卵などの保管場所がある。

 物珍しいのか、カルヴィーは興味深げにキョロキョロしていた。

 オルトは少し得意げに自分が知っている事をアレコレと説明する。

 それをカルヴィーはちゃんと聞いてくれていて。

 たったそれだけで嬉しい気がした。


「オルト凄いねー。めっちゃ知ってる!」

「そうか?俺なんてまだまだだって。兄ちゃんの方がやっぱりすげぇもん」

「お兄ちゃん居るんだ?」

「五つ上の兄ちゃん。アルトって名前なんだけど、」


 そこでハッとして口を噤んだ。

 そんな自分にカルヴィーは小首を傾げる。


「や、何でもない。丁度兄ちゃん出かけてて居ないけど、いつか会えるよ」

「うんそうだね」


 取り繕うように言い直せば、カルヴィーは気にした風もなく既に興味は動物へと向いていた。

 それに小さくホッとする。

 別に兄が嫌いな訳ではない。

 親が自分と差別をしている訳でもない。

 でも、やっぱり五つも上の兄は自分にとっては凄く大人で、同時に負けたくないと思う相手でもある。

 だからもし彼女が自分よりも兄に興味を持ったら直ぐに見向きもされなくなるのではないかと幼心に思ったのだ。

 幸い、今の所気にしている風でもない為、これからもっと仲良くなれば兄にも安心して紹介できるだろう。


「ねぇ、あの羽が黄色っぽい鶏は何?初めて見るけど…」

「あぁ…あれは、鶏の“ゴールド種”だよ。そっか、ロンじぃの牧場には居ないんだっけ」

「うん、居ない。めっちゃ綺麗な羽だね」

「珍しい品種なんだ。あの羽、貴族の装飾品とかにも使われるんだぜ」


 このゴールド種は、普通の鶏に比べて身体が小さい上に、卵も滅多に産まない。

 大体一週間に一つペース。

 普通の鶏が毎日産むのに比べると格段に少ない。

 その上、上手く孵化するか判らない。

 成長も遅い為、余計に流通しないと言う訳だ。

 確か、父親曰く、このゴールド種を取り扱っているのはウチの店だけらしい。

 そういった理由から、ロンの牧場でも育てていない鶏なのだ。


「そっかぁ。だからウチに居ないんだね」


 ゴールド種の説明をすると、カルヴィーは残念そうに眉尻を下げた。

 それが本当に残念そうだからオルトとしても何だか悪い気がしてきた。

 別に何も悪くないのだが。


「えっと…いつかさ、」

「うん?」

「ゴールド種の卵プレゼントするよ!貴重な鶏だから簡単には出来ないけどさ!」


 ニカッと笑ってそう言うと、カルヴィーは目を丸くした。

 ウチでもそんなに数は居ないし、卵は更に貴重。

 王族へ卸しているし、増やすようにも残さないといけない。

 だから簡単に人にあげるなんてことは言ってはいけないのだが、気づいたらそう言っていた。

 でも後悔は無い。

 すぐとはいかないが、いつか。


「……うん、楽しみにしてる!でも無理しなくていいからね?」

「判ってるって。まぁ、いつかなー」


 念を押すように言うと二人で同時に笑った。

 その後は、牛や羊なども見て、どんな餌を与えているのかなど実際に見ていった。


「今度、牧場にも遊びに来てね」

「おう!またな!!」


 父親とロンの買い付けが終わった為、カルヴィーも帰ることに。

 去り際にそんな話をして、二人を見送った。


「カルヴィーちゃんと仲良く出来そうか?」

「うん」


 頭を撫でられながらそう問われ、照れも隠さず頷いた。

 短い時間だったが、ちゃんと友達になれたと思う。


「ねぇ父ちゃん、牧場に遊びに行ってもいい…?」


 だから約束は守りたい。

 父親に伺うように聞くと。

 少し考えるようにして頷いた。


「まぁ此処と牧場はそんなに離れてないからなぁ。日暮れまでに帰って来るなら遊びに行ってあげなさい」

「!!?やった!」


 店と牧場は確かにそんなに遠くは無い。

 大きな広場を挟むぐらいで、子供でも15分程の距離だ。

 しかし、日が暮れればやはり心配を掛けてしまうから、明るい内に帰るという約束で承諾してもらった。


「楽しみだなー」


 仕事に戻って行った父親とは別に、オルトはゴールド種を眺める。

 黄色掛かった羽は美しく、小柄な身体は可愛らしい。

 早く卵をプレゼントしたいと思った。


「よっし!頑張るぞ!」


 妙にやる気が湧いて。

 もっともっといっぱい動物達のことを学ぼう。

 そう決めて、いつか父親からゴールド種の卵を貰えるように頑張ろうと心新たにした。


 後日、牧場で目を輝かせるオルトの姿があったとか。



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