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44話 初詣

 花楓が通販で頼んでいたオセチを朝から食べて、いつもの私服に着替えて、柚から貰った手編みのマフラーを巻いて、柚の家のあるマンションの前まで迎えにいくと、柚が薄いグレーのコートを着て、マフラーを巻いて立っている。空からはちらほらと白雪が舞い落ちてくる。



 空いっぱいに薄暗い雲が覆っている。これからもっと雪が降るんだろうか?僕達が住んでいる地域では大雪は珍しい。ほとんど見たことがない。たぶん小雪が降る程度で今日も1日大丈夫だろう。



 マンションの近くまで歩くと、柚が振り向いて微笑んで手を振っている。僕も照れくさいけど、小さく手を振り返す。



 柚が嬉しそうに歩いてきて、僕の胸の中へ飛び込んでくる。僕はふわりと軽く柚の体を受け止めて、柚の冷え切った体をギュッと抱きしめる。柚が腕の中で「冷たかった」と呟いた。今日は一段と冷えている。雪が降る気温だから、体が冷たい。



 僕は柚の背中へ手を回して体を引き寄せる。柚は僕に腕を絡める。2人寄り添って歩道を歩く。目指すは僕達の街で一番大きな神社だ。このあたりの住人の初詣といえば、その神社が有名だ。



 いつもの通りから外れて、路地へ入る。細い路地を通って近道をする。細い路地に隣接する民家は、どの家も古くて壁も高い。純和風の民家が多い。足の下を見ると雪が解けていて、所々に水たまりができている。僕達2人は水たまりを避けて、2人寄り添って歩く。



 今、僕達が通っている路地は地元民しか歩く人がいなくて、すれ違う人はいない。小雪がチラチラと舞っている中、僕と柚は寄り添って歩く。



 神社に着いて、大きな神社の鳥居を潜る。確か神社から鳥居までの石畳の真ん中は神様の通り道なので、人は通ってはいけないと、どこかで聞いたような記憶があるんだけど、初詣に来ている人達はそんなことを気にせずに行列を作って神社の本堂へ向かう。僕と柚も本堂へ向かう列の最後尾に並ぶ。



 ゆっくりとした歩みで神社の本堂へ近づいていく。僕が今年、神様にお願いすることは柚と一緒の大学へ合格することと、柚の体の安全だ。



 毎年、初詣にきているけれど、1月1日の初詣客はけっこうな数で、列はいつもギュウギュウ詰め状態だ。僕は柚の腰に手をまわして、がっちりとガードする。



 境内に着いた。柚と2人で階段を上って賽銭箱にお金を投げ入れて、鐘を鳴らす。そして二礼二拍手一礼して、手を合わせて、大学合格と柚の病気が治るように、目をつむって一生懸命に祈る。そして目を開けて隣の柚を見ると、まだ手を合わせていた。そして目を開けて僕を見て微笑む。



 後に人がつかえている。僕達は帰りの列に並ぶ。



「おみくじ引いていきましょうよ。後、お守りも買いたいよ」


「そうだね。おみくじを引きに行こう。お守りも買おう」



 僕と柚は帰りの列から離れて、おみくじやお守りを売っている小屋に行く。小屋の中には巫女さんが何人もいて、お客さんに対応している。僕達と同じぐらいの年頃の巫女さんが僕達を担当してくれた。おみくじでも、最近は種類が多くて迷ってしまう。すると一番オーソドックスなおみくじを巫女さんが勧めてくれた。



 僕達は巫女さんにお金を支払って、おみくじを引くと僕が中吉で、柚が大吉だった。二人とも、おみくじの結果が良かったので大満足だ。おみくじをおみくじを結わえる場所に結わえる。



「柚も圭太も来ていたのか?」



 いきなり声をかけられて、後ろを振り返ると俊輔と夏希がいた。



「初詣はもう終わったよ。今、おみくじを引いたんだ。僕が中吉で、柚は大吉だった。おみくじの結果が良かったから大満足だよ」


「聞いてよ。俊輔なんて吉だったんだよ。私は大吉。俊輔、勉強頑張んないといけないね」



 そういって夏希が俊輔を指さして笑っている。俊輔は決まり悪そうに、無言でおみくじを結んでいた。夏希も急いでおみくじを結ぶ。



「私と圭太はお守りを買って帰るけど、俊輔と夏希はどうする?」


「私達も買って帰ろうって言ってたの、一緒に行きましょう」



 夏希は柚の手を引っ張ってお守りを買いにどんどんと歩いていく。僕と俊輔はその後ろをゆっくりと歩く。結構、お守りの種類も多い。とにかく今年は合格祈願のお守りがいいだろう。柚と夏希もそう考えていたようで、合格祈願のお守りを持っている。僕と俊輔も合格祈願のお守りを持つ。そして巫女さんに代金を支払った。



「俺と夏希は繁華街まで行って、遊ぶところがないか探すつもりだけど、柚と圭太はどうする?」


「僕達はやめておくよ。いくら繁華街でも正月の1月1日から遊べる店って、ゲーセンとカラオケぐらいだろうし、僕達は遠慮しておくよ」


「わかった。それじゃあな」



 夏希と俊輔は僕達に手を振る。僕達が手を振り返すと、2人仲良く寄り添って鳥居を潜って去っていった。



 僕達もゆっくりと歩いて鳥居を潜る。すると後ろから声がかかった。



「お兄ちゃん、柚お姉ちゃん、明けましておめでとうございます」


「あら、花楓ちゃんじゃない。明けましておめでとうございます」



 柚が嬉しそうに花楓に抱き着く。花楓のすぐ後ろには達也が立っていた。



「達也、すまないな花楓のお守りをさせて」


「いいよ。どうせ暇だしさ。俺達は今、着いた所だけど、圭太たちは終わったのか?」


「ああ、終わって帰る所だ」



 花楓が柚に捕まって微笑んで僕を見る。



「達也さんが、この後、海を見に連れて行ってくれるって、いいでしょう。今日は私、帰るのが遅くなるから、お兄ちゃんも柚お姉ちゃんも家でゆっくりしていていいよ。私は気遣いのできる妹ですから」



 花楓の奴、何を言ってるんだ?僕達が家で何かをするみたいな言い方をするのはやめてくれ。



「花楓ちゃん、海は寒いから気を付けてね」



 柚が花楓にしがみつく。花楓は柚の抱き枕状態で微笑んでいる。



「じゃあ、俺と花楓ちゃんはこれから本堂へ行ってくる。今日は海に連れて行ってくるから。よろしくな」


「花楓の遊び相手をしてもらってすまない。行ってらっしゃい」



 僕と柚が小さく手を振る。達也は無造作に手を上げ、花楓は嬉しそうに手を大きく振って、本堂に向かう列へ並ぶ。僕と柚は鳥居を潜って、元来た道を2人で寄り添って歩く。



 細い路地を2人でゆっくりと水たまりを避けながら歩いていく。いつの間にか舞っていた小雪がやんでいた。路地をいくつも曲がり、僕と柚は僕の家を目指す。路地は同じような風景が並んでいるので、1つ曲がる所を間違えると全く違う場所へ出てしまう。僕は自分の記憶を頼りに、柚を抱き寄せて歩いていく。



 いつもの道に出た。これで迷うことはない。僕達は歩道を寄り添って歩く。車道の所々がほんの少しだけ乾いてきている。もう小雪は振らないだろう。



 家に着いた僕達は玄関を開け、中へ入って、それぞれに着ていたコートを脱いできれいに畳み、首に巻いているマフラーを取って、僕の部屋へ行く。



 柚が僕の部屋に入るのはこれが初めてだ。柚はきょろきょろして僕の部屋を見る。別段、目新しいモノなどないだろう。机、タンス、クローゼット、ベッドがあるだけだ。僕は柚からコートを受け取ってクローゼットを開けてハンガーにかける。そして自分のコートもかけて、柚と僕のマフラーもハンガーにかける。



 柚はちょこんと僕のベッドの上に座って、足をプラプラさせている。



「すごく部屋がきれいね。男子の部屋って、もっと部屋が汚れていると思ってたわ」


「花楓が掃除してくれているからね。僕が1人暮らしだったら、すごく汚くなっていたと思うよ。花楓は掃除好きだからね」



 柚はへーっという感じで頷いて、僕の部屋をキョロキョロと見ている。



「コーヒでも淹れるよ。後から勉強でもみてあげようか?」


「やめて!正月の3日間くらいは勉強から離れたい!圭太のバカ」



 柚が僕の枕を投げてくる。見事に僕の顔面に命中する。僕は枕をもとに戻して「ウソだよ」と言うと、柚は「圭太の目が半分本気だった。もう私は勉強でくたくたなのよ。圭太の家にいる時ぐらいはゆっくりさせてよ」



 柚が泣き言のような本音を言い、僕のベッドの上にごろんと寝そべる。



「柚もラストスパートが大変だもんな。お疲れ様」



 そう言って、柚が寝ているベッドの横へ座ると、柚はにっこりと笑って、僕の手をひぱって僕をベッドの上に寝かせて抱き着いてきた。僕の胸はドキドキする。間近に柚の顔がある。柚が少し顔を近づけて「明けましておめでとうございます」と小さな声で言うと一瞬だけキスをした。



 あけましておめでとう、柚。今年の大学受験は一緒の大学へ合格しような。僕は心の中でそう呟いて、柚を抱きしめた。

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