39話 水族館 前編
駅前で待ち合わせをすることになり、待ち合わせ時間より15分早く待ち合わせ場所に着いた。すると既に柚が待ち合わせ場所に立っていた。柚を見つけたので、少し早足になって柚の元へと歩く。すると、スマホを眺めていた柚の顔が上がって、僕を見つめる。僕が1番乗りだと思っていたのに、また柚に先を越された。
柚はマフラーで口元まで隠して、グレーのコートを着て立ってた。外の風は寒いらしく、鼻の頭が赤くなっている。とても可愛い。
「待たせてゴメン。待ち合わせ時間15分前に来たんだけど、柚を待たせることになちゃったね」
「ううん。大丈夫。圭太はそれぐらいの時間に来るだろうなと思っていたから。私もさっき着いたばっかり。圭太に合わせただけだから。」
柚は僕がだいたい15分前ぐらいには待ち合わせ場所である駅前に到着するだろうと予測して、家を出たらしいんだけど、柚の家のほうが駅に少し近い。その分だけ早く着いたと微笑んで答えた。僕は柚を待たせたくなかったから家を早く出たんだけど、柚も同じ考えだったらしい。
2人で手を繋いで、俊輔と夏希を待つ。俊輔と夏希は僕が着いてから10分後に現れた。夏希が俊輔を見て頬を膨らませている。
「ほら、圭太と柚はもう着いているでしょ。この2人が遅刻するはずないじゃない。皆より先に来て待っている派だよ。だから俊輔にもう少し早く行こうっていったじゃん。」
「夏希の言ったことが当たったな。俺一人だったら待ち合わせ時間ぎりぎりに来ていたよ。柚、圭太、寒い中、待たせて悪かったな。夏希はもっと早くに行こうっていったんだけど、俺が手間取っちまってさ。許してくれ」
俊輔が夏希を庇って僕達に謝る。でもまだ待ち合わせ時間よりも早い。謝られても困る。
「まだ待ち合わせ時間よりも5分早いわ。遅刻してきたわけじゃないから謝らなくていいよ」
柚がそう言って優しく微笑んで。俊輔の顔が綻ぶ。夏希も微笑んでいる。今日は良い出発になりそうだ。
僕達が行く水族館は今の駅から5駅ほど先へ行ったところにある。繁華街がある方向とは真逆の方向だ。僕達は改札口を通って、いつもと反対側のホームに立って、電車を待つ。3分ほど電車を待つと電車が到着した。電車のドアが開き、乗客達が降りてくる。そして僕達が乗る。椅子が2つ空いていたので、柚と夏希に座ってもらい、僕と俊輔は手すりに手をかける。
電車が進み始め、各駅で停車して乗客を乗せて走り始める。段々と電車の中の乗客は少なくなっていく。水族館の前に作られた駅に着いた僕達は駅を降りて、水族館を目指す。駅の改札口を出ると水族館までの直通通路ががあった。僕達は直通通路を歩いていく。夏希と柚が腕を組んで前を歩く。僕と俊輔はその後に続く。いつも明るい夏希だが、今日はテンションが高い。よほど水族館に来たかったのだろう。
「実は、前から夏希に水族館に連れて行ってって言われていたんだけどさ。いつも繁華街へ遊びに行っちまうから、なかなか水族館へ連れて来てやれなかったんだ。だからあんなに嬉しそうなんだよ」
「そうだったのか。水族館は女子には人気のスポットだもんな。柚もあんなに嬉しそうに笑っているし、マスターがチケットをくれて本当に良かったよ。夏希や俊輔と一緒に来られたのも嬉しい。特に夏希は柚と仲良しだから」
男子2人でそんな会話をしつつ、女子2人の後を歩いていく。女子2人はキャイキャイと会話を弾ませて腕を組んで歩いていく。柚もこれだけ元気で、笑顔でいるなら、喘息は大丈夫だろう。柚の嬉しそうな笑顔を見て、僕は安堵する。
水族館へ着いたのでチケットを渡して、半券をもらう。
1階の深海魚のフロアから回る。深海魚のフロアは他のフロアよりも薄暗く、間接照明だけになっている。1つ1つの水槽に今までにテレビでしか見たことがない深海魚達が泳いでいる。はじめはグロテスクだと思うけど、見慣れてくると愛嬌があって可愛いいように見えてくるから不思議だ。
「俺達は先にパノラマ大水槽に行ってるから、2人はゆっくりと鑑賞しながら来いよ」
夏希と俊輔はエスカレーターに乗って2階へ上るため、深海魚コーナーを後にした。僕と柚は体を寄せ合って1つ1つの深海魚コーナーの水槽を見ていく。深海魚は1匹1匹個性のある顔、形をして面白い。柚も怖いモノ見たさのように1つ1つ慎重に水槽を覗き込んでいる。
「すごいね。深海魚って真っ暗な深海で暮らしているんでしょう。こんな水槽で泳げるんだね。なんか不思議?」
「僕もどうやって飼育しているのかまでは知らないけれど、ある程度の水圧をかけていないと死んでしまうはずだから、この水槽だけでも特注品だと思うよ。水族館も深海魚を飼育するとなると大変だね」
深海魚コーナーを見終わった僕と柚は仲良く腕を組んで2階へ上るエスカレーターに乗る。2階には大パノラマの巨大水槽が置かれていた。どのような構造で作られているのかわからないが、すごく巨大な水槽だ。その中をマンタや各種のサメやウミガメが泳いでいる。イワシの大群が渦を巻いてひと塊になっている迫力には圧巻される。柚もいつも大きなクリクリした目を一層大きくして、パノラマ大水槽に見入っている。
今、パノラマ大水槽の中を2人の飼育員ダイバーが潜って、いろいろな魚に餌を与えている。ダイバーが手に餌を置くと、魚達は群がるようにしてダイバーから餌を奪っていく。
パノラマ大水槽に手を付けて2人で見入っていると、俊輔と夏希がやってきた。
「ここまで巨大な水槽はなかなか無いらしいぜ。ここの水族館の名物らしい。ダイバーの餌付けが見えるなんて、俺達、ツイてるぜ」
「このダイバーの人達、女性よ。女性ダイバーよ。私もこういう仕事を1度はしてみたいな」
確かに餌付けをしている場面だけ見れば、飼育員になってみたいとも思うけど、他の裏方の仕事も考えると、結構、辛い仕事もあるだろう。そのことを考えるととても僕にできる仕事ではないと思う。夏希と柚が盛り上がっているので、邪魔しないように黙っていよう。
スマホを取り出して俊輔が大パノラマ水槽の前で嬉しそうにはしゃいでいる夏希と柚の写真を撮っている。僕も夏希と柚には内緒で2人の嬉しそうな写真を数枚撮った。僕にとって記念の写真だ。後から見せて驚かせてやろう。
そして夏希と俊輔のツーショットを撮る。僕と柚のツーショットも俊輔に撮ってもらった。俊輔が気軽に近くにいた家族連れのお父さんへ「カメラ、お願いできませんか?」と頼むと笑顔で了承してくれた。
柚、僕、夏希、俊輔の順で並んで、4人で手を繋いで写真を撮ってもらった。良い記念ができた。俊輔がカメラを撮ってくれた家族の方にお礼として、写真を撮ってあげている。こういう全く知らない他人との触れ合いも、こういう場所だからできることだろう。
俊輔が他の家族の撮影から戻ってきた。
「あっちの通路へ行くと大パノラマ水槽の内側を通れる通路があるらしいぞ。行ってみよう」
夏希の肩を抱いて、俊輔が歩き始める。柚が僕に腕を絡めてくる。僕達は俊輔と夏希の後ろを歩いていく。これはすごい、水槽の中に通路がある。360度どこを見ても海の中だ。僕達は唖然としながら、通路をゆっくりと進む。
餌付けをしていたダイバーが僕達に手を振ってくれている。柚と夏希は嬉しそうに手を振り返している。2人共、満面の笑みだ。ダイバーに手を振ってもらって、テンションMAX状態のようだ。俊輔も小さく手を振る。僕も恥ずかしいけど、小さく手を振って、通路を進んでいく。
通路を通り過ぎた柚と夏希は興奮して2人で抱き合っている。こんな2人を見られるなら、もっと早く連れてきてあげたかったな。僕は頬を掻くと俊輔は髪の毛をコリコリと掻いた。
2人が喜んで抱き合っている姿を見て、僕も俊輔も顔を見合わせて微笑んだ。
本日の更新はここまでといたします。
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