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37話 僕の病気が柚にバレた

 退院して1週間、柚の体には何の体調の異変もなく、僕と予備校へ一緒に通う日々が続いていた。今日は2人で巽総合医療病院の呼吸器内科へ診療に来ている。柚の呼吸器内科の主治医をしてくれている来栖成美医師の元で診療を受ける。柚が診療を受けている間、僕は外の長椅子に座って待っている。診療室のドアが開いて柚が僕を呼ぶ。僕が診療室へ入ると来栖成美医師は僕も座るようにと促した。来栖成美医師と対面するようにパイプ椅子2つ並べられている。僕と柚はそのパイプ椅子へ座った。



 来栖成美医師は茶髪・カーリースウェルの髪形にしている。理知的な二重まぶた、きりっとした鼻筋、形の良い唇が小顔の中に入っている上品で清楚な雰囲気のする理知的な美女だ。



「柚ちゃんの経過は順調よ。今回の診療でも何の異常もなかったわ。でも風邪だけには注意してちょうだい。まだ退院したてだし、体の免疫が弱いから、すぐに風邪をひく可能性もあるの。喘息者には風邪は天敵だから、婚約者さんも柚ちゃんを大事にしてあげてね」



 瑛太さんがICUにいる柚と僕が面会できるように、僕を婚約者として記録に残したため、来栖成美医師までもが、僕のことを婚約者と誤解している。今更、あれはウソですと恥ずかしくて弁解もできない。僕は黙って頷いた。横を見ると柚も恥ずかしそうに照れて、顔を赤くして俯いている。



 来栖成美医師の診断が終わり、会計をするため1階へエスカレータで降りる。



「あら、圭太くんじゃない。お久しぶり」


 廊下ですれ違った循環器内科の黒瀬麻美クロセアサミ看護婦が僕に声をかけてきた。



「今日は可愛い彼女さんと一緒なのね。今日は定期健診の日だったからしら?圭太くんも普段は大丈夫だと思うけど、心臓に負担のかかることをしてはダメよ。あと寒暖の差にも気を付けてね」



 黒瀬麻美クロセアサミ看護婦は僕が循環器内科で心筋症の定期健診の時に、よくお世話になっている看護婦さんだ。茶髪をポニーテールにまとめ、とにかく明るくて元気だ。



「今日は僕の定期健診じゃないんです。彼女がストレス性慢性喘息で、今日は診療の日だったんですよ。また定期健診の時は頼みます」


「あら、そうなの。彼女さんと仲良くね」

 


 黒瀬麻美クロセアサミ看護婦は明るく微笑んで、循環器内科のある2階へ上がっていくため階段へ向かっていった。僕と柚は手を繋いだまま見送る。



 柚が僕の顔をジーっと見る。柚の顔の眉根が少し寄っている。不機嫌そうだ。僕が黒瀬麻美クロセアサミ看護婦に声をかけられたことで、ご機嫌斜めになったのかもしれないな。



「さっきの看護婦さん、圭太に定期健診って言ってたわよね。圭太が心臓に負担がかかることをしちゃダメってどういうこと?圭太もこの病院に定期的に診療にきてるの?私、そんなこと圭太から一言も聞いてないよ」



 しまった。柚には心筋症のことを説明しようと思っていたけど、何回も説明しようと思ったんだけど、柚を心配させたくなくて、今でも心筋症のことを説明できずにいた。今、ここで説明してもいいけど、柚に怒られるだろうな。柚の目を見ると明らかに僕のことを疑っている目をしている。ウソを言っても通用しそうにない。僕はため息を一つついて、自分の体のことを少しだけ柚に話をすることに決めた。ごまかすのを諦めた。



「実は柚に話していなかったんだけど、僕は幼少の頃から心筋症という病気を患っていて、高校の時に1度だけ学校で倒れたことがあるんだ。その時、救急車騒ぎになってね、この病院に入院したんだ。その時に自分が心筋症だと初めて知ったんだ。それまでは知らなった。それから月に1回の定期健診を義務づけされて、月に1回、この病院の循環器内科へ通院してるんだよ。あの看護婦さんは循環器内科の看護婦さんで、時々、定期健診の時にお世話になったことがあるんだ」



 柚の顔が険しくなる。久々に足を踏まれた。



「心筋症って特定疾患で難病指定じゃない。私よりもずっと重い病気よ。なぜ、そのことを私に早く相談してくれていないの?ちょっと信じられない!」


「ずっと説明しようと思っていたんだ。でも言いそびれちゃって。隠しているつもりはなかったんだ。最近はずっと体調もいいし、激しい運動もしていないから、大丈夫だよ。定期健診でも異常なしと言われているし」


「そんな問題じゃないでしょう」



 柚の機嫌が斜めになる。柚が少し涙目だ。僕は柚を怒らせてしまったようだ。今は何を言っても無駄だろう。僕は黙って柚の隣を歩く。柚が僕の手をギュッと握りしめる。



「もし、私が自分の病気を言ってなくて、急に倒れたら、圭太は私のことをすごく心配しない?」


「すごく心配すると思う。なぜ、病気のことを教えてくれなかったんだと考えるだろうな。教えてくれていれば、気遣いもできたのにって思う」


「そうでしょう。私も同じ気持ちよ。今まで健康で体調が良かったからいいけど、突然、圭太が倒れて救急車に運ばれたりしたら、気遣いできなかった自分のことを責めると思うわ。私をそんな目に合わせたいの?」



 そんな辛い思いを柚にさせたくない。僕が説明しなかったことで、柚が責任を感じるようなことをしていたなんて、思ってもみなかった。僕が軽率だった。素直に謝ろう。



「ゴメンよ、柚、今まで黙っていて。もっと早く説明しておけばよかった。本当にゴメン」


「簡単に許さないんだから。圭太の場合、心筋症でしょう。特定疾患の難病じゃないの。簡単に許せないわ」



 柚が心筋症のことを詳しく知っていると思わなかった。これは僕のミスだ。



「それで圭太はどんな行動をしてはいけないの?彼女として知っておかないといけないわ」


「激しい運動はしてはいけないし、寒暖の差に気を付けないといけない。それに風邪は天敵だから、風邪をひくのはダメ」


「私の気をつけないといけない注意点と全く同じじゃない。それじゃあ、2人で注意し合いましょう。これからは1人で行動するのも、少しは自重してね。私が心配するから」



 今までは健康だから、1人でどこへでも出かけていたが、これからは柚も一緒に同伴でないと、どこへも行かせてもらえそうになかった。僕は大きなため息を一つ吐く。柚と2人で行動するのは好きだ。柚の言葉に甘えよう。



「柚の言う通り、これからはなるべく一緒に柚と行動するよ。柚に無用な心配をさせたくないからね」


「それでいいわ。これからは2人一緒よ。どんな時でも離れないんだから」



 柚僕に腕を絡めて寄り添ってくる。僕は体で柚を抱きとめて、2人寄り添って会計へ行く。会計ではすんなりと処理が終わった。



 柚の薬を待つことになった。柚と僕は互いに身を寄せ合って、薬の順番を待つ。薬をもらうのに30分かかってしまった。これは計算の範疇外だ。



 柚の薬はビニール袋が大きく、10種類の薬と吸引器2つが入っていた。10粒も薬を飲まないといけないのか。柚も体調管理をするのに大変だ。柚はビニール袋に入った薬を手で持って、時計を見るとまだ11時半だった。



 まだ11時半になったばかり。この時間だったら、届け出もしてあるし、僕ならまっすぐに家に帰って、家でゆっくりした一時を過ごすけど、柚は午後の予備校に通うつもりらしい。柚だけ予備校に行かせるわけにもいかない。僕も柚と一緒に予備校へ行くことになった。それに柚と一緒にいたい。



 柚と巽総合医療病院から駅前までいくバスへ乗り込む。2つ座席が空いていたので、2人で座っていると、バスが動き始めた。僕と柚はバスの席に座りながら、2人一緒に強く手を握り合っていた。

 


 僕は柚が大好きだ。自分のことよりも柚を守っていく。

最終章 絆編が始まりました。よろしくお願いいたします。


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