32話 柚、倒れる
俊輔と夏希が繁華街へ遊びに行かないかと誘ってきたので、いつも断ってばかりも悪いということになり、柚と僕も予備校の帰りに繁華街へ行くことになった。予備校が終わってから線路下を通って、繁華街へ向かう。色のない風が繁華街の中のを通り抜けていく。
今日は寒暖の差が激しいな。マフラーと手袋をしていても夕方を過ぎると寒さが体に染みる。最近、柚の体調が悪くなっている。今日も繁華街に行く前に、予備校の給湯室で吸入器を吸っていたのを僕は知っている。
夏希と俊輔は嬉しそうに腕を組んで歩いている。僕と柚は2人手を繋いで後ろをゆっくりと歩く。日暮れの繁華街を歩ていく。
「少しゲーセンでも寄って、プリクラでも撮るか。圭太、クレーンゲームでもやろうぜ」
「ああ、いいよ。ゲーセンなんて何か月ぶりだろうな。柚とは1度も来たことない」
繁華街のゲーセンに入ると夏希が柚を腕を引っ張ってプリクラコーナーへ行く。今のプリクラは高性能で画質もいい。高校の時は僕もクラスの友達と何回か来たことがあるけれど、彼女と一緒にきたのは初めてだ。
夏希と柚は1台のプリクラの中へ入っていく。2人でポーズを決めてプリクラを撮っている。女の子2人が写っているプリクラは可愛くて心がほっこりする。俊輔と僕は2人で顔を見合わせて苦笑いになる。お互いに男2人ではプリクラを撮るのはイヤだという心の声が伝わる。
夏希と柚がプリクラから戻ってくると、夏希は俊輔の腕を引っ張ってプリクラへ戻っていった。柚は上目遣いで僕に問いかけるような視線を送ってくる。
「圭太が私とプリクラを撮りたいって思っているなら、一緒に撮ってあげてもいいわよ」
「そうだね。柚とは1枚もプリクラを撮ったことがないから、せっかくゲーセンに来てるんだし、柚とプリクラを撮りたいな。お願いしてもいいかな?」
「お願いなら仕方ないわね」
僕と柚もプリクラの中へ入る。撮り慣れていないから緊張するなと思って、隣の柚を見ると顔を赤くして俯いている。柚もプリクラを撮り慣れていないらしい。
柚はプリクラのボタンを操作していく。そして僕に飛びついてきて、いきなり僕の頬にキスをするポーズをする。僕はその可愛いポーズにドキッとする。思わず驚いた顔をして柚のほうへ顔を向ける。
プリクラの機械から写真が出てきた。柚が僕の頬にキスしようとして、僕が驚いているプリクラが写っている。面白いプリクラになっていた。柚はそのプリクラを見てクスクスと笑う。
もう1度挑戦する。僕は恥ずかしがっている柚の腰に手を回して、柚の体を引き寄せて、にっこりと撮る。今度はうまくいっただろう。プリクラから写真が出てくる。僕に体を密着して、柚が真っ赤な顔をしてプリクラを照れている写真が写っている。柚はプリクラが苦手みたいだ。楽しい1枚が撮れた。僕は満足して柚と手を繋いでプリクラから出てくると、俊輔と夏希がニヤニヤと笑って待っていた。
「面白いプリクラは撮れたか?ちょっと見せてくれよ」
俊輔が手をだすので、僕は何気なくプリクラを渡そうとすると、柚が僕の手からプリクラを取り上げて体の後ろへ隠してしまった。恥ずかしいのだろう。俊輔はそんな柚の様子を見て笑っている。
「クレーンゲームへ行こうぜ」
夏希と柚が腕を組んでクレーンゲームへ向かって歩いていく。俊輔と僕は後ろを歩く。柚は気に入ったクッションを見つけたようだ。コインを入れて、何回か挑戦するけれど、全く落ちる気配もない。
後ろで見ていた俊輔が僕のあまりの下手くそさに苛立ったようで、肩を叩かれて代われという合図を俊輔がする。俊輔と交代して、俊輔がコインを入れて、クレーンを横に動かして、縦に動かしていく。そしてクッションの端にクレーンの端をひっかけて、クッションを少しずつ落とす穴に近づけていく。そしてクッションが穴の中へ上手く落ちた。
俊輔の健闘でクッションが手に入った柚はご機嫌だ。夏希は自分がしたいクレーンゲームを見つけていたのだろう。俊輔にクレーンゲームをさせる気らしい。俊輔の手を引っ張っていく。
「ちょっと行ってくる」と言って、柚が僕にクッションを預けて、化粧室へ行った。俊輔はクレーンを上手く操って商品を穴に近づけている。柚が戻ってくる。顔が青い。少し呼吸も荒いような気がする。心配そうな顔で僕が柚を見ると、柚は胸を撫でおろして、優しく微笑む。
「圭太が心配するようなことないから、大丈夫だよ」
柚の顔が蒼白だ。本当に大丈夫なんだろうか。
「少しでも体調がおかしいと思ったら、すぐに僕達に言うんだよ。絶対に無理はダメだよ」
「圭太は心配性ね。自分の体は自分が良く知っているわ」
思い切り僕の足を踏んで、柚は自分の元気なことをアピールする。俊輔と夏希が戻ってきた。うまく俊輔がクレーンゲームで商品を落とせたようだ。夏希の機嫌は上々だ。
「柚、圭太、3階にあるカラオケに行こうぜ。お前達、カラオケにも行ったことがないだろう」
そういえば柚と2人きりでカラオケに行ったことがない。こんな機会でもなければカラオケなど行かないだろう。僕はあまり邦楽を知らないし、柚も洋楽派だ。たまにテレビで音楽番組を視ているから、少しぐらいの曲はわかるけど。あまり自信がない。
しかし柚の体調が心配だ。さっきも化粧室で吸引器を吸ってきていたように思う。カラオケなんかして大丈夫なんだろうか。僕は心配で柚の顔を見る。柚が僕を見て口を尖らせる。
「こんな時でもないとカラオケなんて圭太と行かないもの。俊輔と夏希が一緒なら2人が沢山歌ってくれるから、私も楽だし、大丈夫よ。圭太も一緒にいきましょう」
本当に大丈夫だろうか?僕の心配をよそにエレベーターのドアが開く。僕達4人はエレベーターに乗って3階へ向かう。3階へ到着するとカラオケボックスだった。
俊輔と夏希がカウンターで手続きをする。2時間部屋を確保したようだ。僕達はドリンクバーで好きなジュースを持って、部屋に入る。俊輔と夏希が先を争うようにコントローラーを取り合って、曲を入れていく。柚と僕は2人並んで、ジュースを飲む。
俊輔は米〇玄〇の歌やアニソンなど多彩にいろいろな歌を歌っていく。夏希は西〇カ〇や和〇器バ〇ドの歌を歌う。2人共、歌い慣れているらしく、すごく歌が上手い。俊輔にこんな才能があるとは思わなかった。
僕はミ〇タ〇〇ル〇レ〇の曲なら知っていたので数曲歌う。柚は歌わずに合いの手を入れて、嬉しそうに笑っている。夏希が柚と隣に座って、柚の頬にキスをする。夏希は相当興奮状態にあるらしい。
柚も嬉しそうに夏希に抱き着いている。本当にこの2人は仲がいい。親友だというのがわかる。
「柚、お前も何か歌えよ」
俊輔が気を利かせて柚にコントローラーを渡す。柚は少し難しい顔をして考えて、コントローラーに入力していく。柚が選んだのは安〇奈〇恵の「arigatou」だった。柚は鈴の音のような清らかで澄んだ声で熱唱する。途中で、咳を始めた。そして夏希にマイクを渡す。夏希が続きを歌う。
鞄から吸引器を取り出して、柚は吸引する。
柚の顔色が段々と青くなる。そして呼吸が乱れ始め、ゼイゼイという呼吸音がし始めた。柚は何回も吸引器を吸う。しかし治る様子がない。俊輔と夏希も柚の異常に気が付いてカラオケをやめる。
柚をソファに寝かせて様子をみる。僕は自分のコートを柚の体の上にかける。柚の呼吸音が治らない。柚の顔が苦しそうに歪む。
「柚、今、どこにいるかわかるか。今、俊輔達とカラオケボックスに来てるんだけど、わかるか?」
柚に声をかけるが、柚は目を見開いて僕達を見るだけで、僕達のことは意識にないようだ。錯乱しかけているのかもしれない。これはヤバイと僕の直感がささやく。
「柚ー!病院に連れて行くぞ。救急車を呼ぶからなー!」
大きな声で僕は必死で柚の肩を掴んで叫んだ。




