28話 俊輔と夏希
ミュージカルを観に行ってから、柚の機嫌がすごく良い。ミュージカルで上演した恋愛モノのストーリーが気に入ったようで、柚は思い出す度に僕にストーリーの話をウットリとした顔でして、頬を上気させる。可愛すぎる柚の仕草に見惚れていると足を踏まれることになるんだけど、柚に見惚れる癖は直りそうにない。
今は昼休憩で、柚が作ってきてくれたお弁当を開いて食べている最中だ。最近では柚もお弁当を作り慣れてきたのか、お弁当のおかずの美味しさが向上している。すごく美味しい。特にハンバーグに力を入れているようで、チーズ入り、照り焼き、デミグラス、和風など、ハンバーグの種類は日ごとに増えて言っている。全て手作りだ。
今までは花楓のハンバーグを世界で1番美味しいと思っていたんだけど、最近では柚のハンバーグのほうが美味しい。
「柚のハンバーグはいつも美味しい。世界一のハンバーグだよ」
上目遣いに僕を見て、柚も自分で作ったハンバーグを口に入れてモグモグと食べる。
「手作りだけど、誰でも作れるわよ。バカ」
脛を軽く蹴られた。最近では蹴られるというより、柚が足で僕の脚に当たる程度に変化してきている。脚が蹴られなくなる日も近そうだ。でもそうなるとなんだか寂しい自分がいることに気づく。僕と柚にとっては、足を踏まれたりするのも、一種のコミュニケーションだったんだなと、今頃になって解った。
柚のクリクリした大きな目が僕をジーっと見てくる。僕は柚と見つめ合っている時間が大好きだから、にっこりと微笑むと、柚は箸を口に咥えたまま、顔が段々と真っ赤になり、僕から目を逸らした。
柚が顔を横に向けたので、僕からは柚の横顔が見える。僕は柚の横顔が大好きだ。特にきれいな顎から耳にかけてのライン、形のよい耳、少しピンク色に染まっている頬、きれいな鼻筋、沢山あり過ぎて言い切れないけど、僕は柚の横顔が大好きだ。頭がぼーっとなって見惚れていると、足を思いっきり踏まれた。
「あんまり顔をジロジロと見ないでよ。お弁当を食べられないじゃない」
「柚はきれいで可愛いと思ってさ。特に僕は柚の横顔が好きなんだ」
「もう~バカ」
脛を蹴られた、今回は痛かった。僕は仕方なく柚から視線を外してお弁当に集中する。そんなことをしていると頭に拳が軽く当たる。俊輔だ。僕が柚だけを見ている間に、いつの間にか俊輔と夏希が帰ってきていた。2人はニヤニヤと笑っている。
「俊輔、あのミュージカル、本当に良かったよ。柚も僕も大興奮で、あんなにミュージカルがいいものだとは思ってもみなかったよ」
「そうだろう。あのミュージカルは当たりだったよな。それで終わった後はしたのか?」
俊輔は何を聞いてきているのだろうか?グッズでも買ったかという意味かな?
「したって何を?」
「キスに決まってんじゃん」
柚の口から「キス」と悲鳴交じりの声が聞こえる。そして眩暈を起こしたように両手で顔を隠している。既に耳まで真っ赤だ。
「えーあのミュージカルを観た後はキスしたくなるじゃん。私なんて、俊輔と3回もキスしちゃった」
3回もキスしたって、俊輔も夏希も2人共付き合ってないって言ってたよね。腐れ縁って言ってたよね。腐れ縁でキスはしないよね。やっぱり、2人は付き合っていたのか。
俊輔が笑って、夏希の頭をなでる。本当にこの2人は仲がいい。前から怪しいと思っていたんだ。
「俊輔と夏希は私の友達で・・・・・・中学からの付き合いで・・・・・・何でも本当のことを話してくれてたのに・・・・・・俊輔と夏希が付き合ってたなんて、私、少しショックかも。言ってくれたら良かったのに、どうして私に黙ってたのよ」
俊輔が困った顔で、頭をガリガリと掻く。夏希は俊輔を見て、任せたとう感じで、にっこりと笑っている。
「実はさ、俺達、中学で知り合ったんじゃないんだよ。柚には俺の家を教えてなかったと思うけど、俺の家、夏希の家の隣なの。だから夏希とは生まれた時からの腐れ縁というか、幼馴染なんだ」
俊輔の説明では、幼馴染って皆にバレるのがイヤで中学で知り合ったことにしていたらしい。その時に柚と友達になったということだ。夏希がモテると妙に腹が立つし、夏希が一緒にいるのが当たり前だったので、夏希がいないと俊輔は何もできなくなるという。
「だから夏希に面倒みてもらってる、腐れ縁なんだけど・・・・・・高校を卒業して、2人で大人になったって感じで・・・・・・今は付き合ってるというか、夏希なしだと俺はダメなんだ」
俊輔、混乱して話しているから、話の内容がわかりにくいよ。でも高校卒業してから2人で大人になったって何?それってそういう関係って意味だよね。
夏希が顔を真っ赤にして俊輔の頭をポカポカと叩いている。柚は既に放心状態で「大人になった」と呟いている。
「もう、俊輔のバカ。そこまでバラさなくてもいいの。この2人はまだ純愛なんだから、刺激が強すぎるでしょ。そういう訳で、俊輔は私と幼馴染で、私がいないと生きていけない、ダメ男くんなの。今では付き合ってるわ。だって俊輔が私にメロメロなんだもん。いつも迫ってこられて、私も恥ずかしいのよ」
俊輔がメロメロ・・・・・・いつも迫ってくる・・・・・・俊輔は夏希に何を迫っているというんだ?・・・・・・まさか・・・・・・これ以上は想像してはダメなような気がする。友達だし、追及するのはやめよう。
柚は放心したまま、「迫られて、恥ずかしいから、大人になって」とずいぶん混乱した状態になっているようだ。夏希が慌てて、フォローに入っているけど、柚の耳には夏希の声が入っていかないようだ。
「柚、早くお弁当を食べ終わらないと、昼休憩がなくなっちゃうよ」
僕が柚に声をかけると、柚はハッと正気に戻って、顔を赤くしたまま、お弁当を黙々と食べていく。俊輔と夏希は柚を見て困った顔をしている。2人にしてみると、どこまで話したほうが良いのか悩んでいるようだ。柚とは中学からの友達3人だったから言いにくかったんだろう。
柚はお弁当を食べ終わるとゆっくりと夏希を見つめる。
「俊輔とやっちゃったの?」
ストレートど真ん中の質問だ。夏希はどう返すんだろう。俊輔は遠い目をしている。
「うん。やっちゃった。だから、今は俊輔は私の彼氏だよ。俊輔ったら可愛いところがあるの。給湯室でお弁当を洗いながら、俊輔の可愛いところを教えてあげる」
柚がお弁当を2つ持って席を立つと、夏希が柚の手を引いて、教室を出て行った。俊輔が机の上で頭を抱えている。
「俺にだって、柚と圭太にだけは知られたくない秘密の1つや2つはあるのに、夏希の奴、絶対に柚にバラすつもりだ。スゲー恥ずかしい。俺、ヤベー!」
僕だって、誰にも教えたくない秘密の3つくらいは持ってるから俊輔の気持ちが理解できる。俊輔と夏希は幼馴染らしいから、結構、何でも筒抜け状態なんだろうな。それを考えると俊輔に同情したくなる。
給湯室から帰ってきた柚は顔が真っ赤なままだ。夏希は俊輔を見てニヤニヤしている。
「俊輔のエッチ。あんまり夏希を困らせたらダメ。あんまりガツガツしたらダメだよ。女の子はデリケートなんだから」
「ノーーーー!」
俊輔は柚からの注意の言葉をもらって、頭を抱えて教室から逃げ出していった。何が起こったんだ?夏希はどんな話を柚としたんだろう?
「俊輔が何かしたの?僕にも俊輔のことを教えてよ」
「圭太には秘密。圭太にはまだ早いわ。それに私も恥ずかしい」
柚は顔を真っ赤にして、僕の顔から顔を逸らす。夏希を見ると夏希は手でバッテンを作って笑っている。
「俊輔は圭太の前では恰好つけておきたいはずだから、圭太にだけは言えない。ゴメンね」
夏希は舌を出して、にっこりといたずらっ子のように笑う。廊下から俊輔の叫び声が聞こえた。俊輔と夏希のことは、以前からお似合いだし、良い雰囲気だと思っていたけど、本人達から暴露されると、戸惑ってしまう。でも本当に2人はお似合いだと思う。2人共、おめでとう。




