24話 モールでショッピング
予備校が終わり、夏希、俊輔、柚、僕の4人で繁華街に行って、モールで冬服を買いに行こうということになった。
繁華街は電車の線路を渡った反対側にある。僕達は線路下の路地を通って、反対側の繁華街へ出る。繁華街の一番駅側に近い場所にモールの建物がある。俊輔と夏希は腕を組んで寄り添って歩く。僕と柚は2人で手を繋いで歩いていく。
モールの中は広い。女子の洋服売り場の多くは2階に集中している。エスカレーターで2階へ上ると柚と夏希は洋服店に入っていく。気に入った洋服を取り出しては、2人で見せ合い、相談をしている。1店舗1店舗、丁寧に店を回っていく。夏希も柚も洋服が大好きなようで、2人で手を繋いで洋服店を回る。
俊輔は女子達と一緒に店舗を回るのは「怠い」と言って、僕と2人で通路のソファに座っている。女子2名はそんな僕と俊輔を放っておいて、ウィンドショッピングを楽しんでいる。本当に女の子は洋服が好きなんだな。
「まだまだ待たないといけないのかな?」
僕が通路のソファに座って、途方に暮れたような顔で俊輔に声をかけると、俊輔も諦めた顔をする。
「諦めろ。女子は服を見ると目の色が変わる。自分の気に入った洋服が見つかるまで、何時間でも探し続けるぞ。こんな時は諦めて、ぼーっとしているに限る。あんまり考え込まないほうがいい」
俊輔は夏希の洋服選びに何回も一緒に連れていかれているのだろう。すでに達観した目をしている。俊輔と夏希の仲は本当に不思議だ。
夏希と柚の2人が、僕達のところまで走ってきた。
「いい服を見つけたよ。俊輔も来てよ」
「私も服を選んだわ。圭太に見せてあげてもいいわよ」
2人は僕達にも服を見て、判断してほしいようだ。夏希は俊輔の手を引っ張って強引に連れていく。柚も僕の手を取って、お目当ての店まで歩いていく。やっと洋服が決まったのかと僕は心の中で喜んだ。
4人でお目当ての服屋に入ると、夏希も柚も自分達が選んだ服を取り出して、僕達に見せてくる。2人ともとても洋服が似合っている。2人は目を輝かせて、「この服って似合ってるかな」というように目で語りかけてくる。
俊輔は気怠そうに髪の毛を掻く。
「夏希がいいんだったら、いいんじゃないか。お前、可愛いから何を着ても似合うって言ってんじゃん」
僕も柚が持っている服を見てにっこりと笑う。
「柚は洋服はどれでも本当にうまく着こなすから、その服もすごく似合うと思うよ」
柚はにっこりと嬉しそうに笑って、僕の足を踏みつけた。「適当なことをいうな」と目が語っている。
夏希と柚は試着室へ入ると、試着を始めた。試着室のドアが開かれて、2人が姿を現す。夏希も柚もすごく洋服が似合っている。本当に洋服選びが上手いな。僕なんていつも花楓に洋服を買ってきてもらっているのに、そのことは柚には内緒だけど、バレたらすごく恥ずかしい。
俊輔も僕も夏希と柚に向けて、にっこりと笑って拍手する。柚はと夏希はにこにこと笑って、試着室のドアを閉めた。試着室から出てきた2人は、とても洋服が気に入ったようで、レジに並んで精算をする。2人は嬉しそうに紙袋を持ってくる。俊輔は夏希の紙袋を、僕は柚の紙袋を持ってあげる。
4人で洋服店を出てモールの通路に出る。そして通路にあるソファに夏希と柚が腰をかける。ずいぶんと疲れたようだ。あれだけの店を巡ったのだから疲れても仕方ないだろう。2人は満足した顔でソファに座っている。
「俺、トイレに行きたくなったから、トイレにいってくるわ」
「僕もトイレに行きたくなったから、俊輔と一緒に行ってくる」
僕と俊輔は通路の端にあるトイレに向かって歩いていく。後ろを振り返ると夏希が手を振っている。柚は少し心細そうだ。早く帰ってきてあげたい。
トイレに入って用を済ませた僕と俊輔は、手を洗って、すぐにトイレを出て夏希と柚の待っているソファまで歩いていくと、夏希と柚が立ち上がって、チャラ男2人に言い争いをしている。どうもナンパされて、断っているのにチャラ男が去ってくれなかったようだ。
僕と俊輔が夏希と柚の前に立つと、チャラ男は「チッ、男付きか」と声を漏らした。それでも鋭い眼光を僕達に向ける。俊輔も目を細めて眼光を強くする。
「お前達には悪いけど、この2人は俺達2人を待っていただけなんだ。ナンパなら別の女を狙ってくれ」
チャラ男2人がニヤニヤ笑う。
「そういうわけにいくか。こんな可愛い女子2人、探してもそうそう見つかんねーだろう。ここはお前達を殴り飛ばして、奪い取るほうが楽でしょ」
確かにどこから見ても僕は弱い。しかし俊輔は細身に見えるが、細マッチョだ。たぶん、怒らせると相当に怖いと思うんだけどな。
チャラ男2が指をクイクイと動かす。「お前達、俺達について来いよ。ぶっ飛ばしてやるからよ。それとも今ここでやり合うか。お前達もせっかくのデート中に警備員に捕まるのはイヤだろう」
チャラ男2人はゆっくりと僕達を見ながら歩いていく。俊輔は夏希の頭をなでて「少し行ってくるわ」という。夏希は「今回は圭太も連れていくんだから、気を付けてよ。私たちも警備員を見つけたら、俊輔達を探すから」という。柚は黙って僕にしがみついた。怖いのだろう。僕は柚の髪を梳いて、「すぐに戻ってくるよ」と声をかける。俊輔と僕は紙袋を預けて、チャラ男が立っている通路へ歩き出す。
チャラ男2人が進んでいく方向へ、僕と俊輔も歩いていくとモールの裏手の小さな玄関に辿り着いた。そこからモールの外へ出る。するとモールの裏手側に出てきた。こちら側は繁華街の大きな通路と反対側の小さな路地だ。誰も人がいない。ビルとビルの小さな隙間の路地には誰もいないし、人通りもない。
チャラ男達は細い路地を少し進んで立ち止まるとくるりと体を僕達の方へ向ける。そして眼光鋭く僕達を睨みつける。
「ここまで付いて来たくらいだから、お前達もやる気なんだろう。勝ったら女をもらっていくからな」
「誰が、お前達に渡すか。柚も夏希も人の所有物じゃない」
俊輔はニヤリと笑って唇を舐めている。
チャラ男の1人が俊輔に殴りかかる。俊輔は余裕で躱して、チャラ男の顔面に拳を叩き込む。チャラ男は3歩ほど顔を手で覆って、後退る。
もう1人のチャラ男が僕に殴りかかってくる、拳を避けたら、鳩尾に蹴りを食らった。僕はウっと唸って、腹を両手で抑える。面白そうに笑うチャラ男だったが、髪の毛を俊輔に捕まれて、僕から引き離されると、俊輔はチャラ男の顔面に肘打ちを3発入れる。チャラ男の顔面から鼻血が噴き出す。そして3歩ほど後退って、体制を崩して尻餅を着いた。
はじめに顔面を殴られていたチャラ男が俊輔に殴りかかってくる。俊輔は左手でガードをして拳を躱すと、チャラ男の鳩尾に前蹴りを突き入れる。チャラ男は何も言わずに体制を崩して、膝立ちになる。そこへ俊輔が、頭めがけて回し蹴りを叩き込む。チャラ男はその場から吹っ飛び、そのままの状態で倒れた。
俊輔から肘打ちをもらったチャラ男も戦意を喪失している。しかし俊輔はそのチャラ男の髪の毛をつかんで、鳩尾に膝蹴りを突き刺す。チャラ男が両膝をついて、四つん這いになった所へわき腹に回し蹴りを叩き込んだ。
勝負は俊輔の圧勝だ。僕は鳩尾を蹴られて蹲っていただけで、何もしていない。男としては情けないけど、僕は喧嘩は強くない。俊輔に「ありがとう」と呟くと、俊輔はニヤリと笑ってサムズアップをする。僕もサムズアップをして立ち上がる。
モールの裏玄関から柚と夏希が警備員を連れてやってきた。警備員は倒れているチャラ男達と、僕達を見て慌てて近寄ってくる。既に事情を夏希と柚が話してくれているらしく、チャラ男2人だけを警備員は捕まえて、警備室へ連行していった。
夏希と俊輔は嬉しそうな顔でハイタッチをしている。柚は僕の胸に飛び込んできて「私のためでも、あんまりムチャはしないでよ。圭太は俊輔みたいに喧嘩、強くないんだから」と小言を言われた。それでも柚が怒ってくれるのが嬉しい。柚も僕をギュッと抱きしめる。僕は柚を両手で抱きしめた。




