22話 2人で登校
朝少し早く起きて、柚のマンションまで歩いていく。柚が赤のコートを着てマフラーを巻いて待っている。頬がピンク色に染まっている。寒そうにしている姿がとても可愛い。僕を見つけて口を尖らせた顔をする。まだ待ち合わせの時間から10分前だというのにマンションの玄関先で待ってくれている。
「ごめん、遅れたかな?」
「そんことないけど、寒かった」
「そうだよな。待たせてゴメン。行こう」
僕と柚は駅までゆっくりと歩く。僕が柚の手を握ろうとすると避けられた。そして僕の小指に自分の小指を絡めてくる。2人で小指を結んで一緒に歩く。小指だけのつながりだけど、柚とつながっていることが嬉しい。僕が嬉しそうに柚の横顔を見ると顔を赤くして俯いている。まだ恥ずかしいだろう。
僕の横顔をチラチラと見ている。僕は嬉しくて柚のきれいで可愛い横顔に見惚れてしまう。柚が僕の脚の太ももの裏を蹴る。
「あんまりジロジロ見ないでよ。恥ずかしいでしょ」
「だって、これから毎日、柚と一緒に予備校に通えるかと思うと嬉しくって、ついつい柚の横顔を見ちゃうんだよ」
柚の横顔はきれいで可愛い。頬がほんのりピンク色になっているのも、すごく可愛い。唇と尖らせて拗ねている姿も可愛い。全てが可愛く見える。
「さっきからチラチラ見てるけど、私に何か言いたいことでもあるの?」
「可愛い。好きだ」
「バカ」
また、僕の太ももに蹴りが入った。柚が恥ずかしい時の癖なんだろう。ちゃんと手加減してくれてるし、柚って優しいな。
2人で小指を繋いで駅まで歩く。駅に着いて改札口を通って、2人でホームに出る。まだサラリーマンの多くが電車を待っている。僕達はサラリーマンの流れに巻き込まれるように電車に乗り込む。柚を電車の反対側のドアにもたれさせる。僕は両手を伸ばして、柚がリラックスできるだけのスペースを空ける。柚がホッ安堵の息を吐く。それを見て僕も安心する。
後ろからサラリーマン達が圧力をかけてくるが、柚を巻き込むつもりはない。僕が柚を守るんだ。
「圭太、無理してるんじゃないの?」
「そんなことないよ。柚は気にせずに、ゆっくりしてなよ。電車の中はまだ温かいし、今のうちにゆっくりしていてよ」
何も言わずに柚が僕の足を軽く踏む。
「圭太のくせに格好つけすぎ」
柚は俯いて顔を僕に見せてくれない。たぶん恥ずかしがっているのだろう。小さな声で「ありがとう」と聞こえた。
電車が横揺れする。僕はサラリーマンに背中を押されて、1歩柚に近づいてしまう。手で踏ん張って何とか、柚に抱き着かないようにスペースを開ける。僕の心はドキドキする。柚の体から爽やかで優しくて甘い香りがする。
柚が僕の耳元で「無理しなくてもいいんだよ」と声をかけてくれる。とても甘い声。その声を聞いただけで、僕は頑張ることができる。柚のために僕は頑張る。
僕達が降りる駅に着いた。柚側の扉が開く。僕は素早く柚の体を抱き寄せて、サラリーマンが流れ出す出口から、柚を助け出した。すると思いっきり足を踏まれた。サラリーマンを躱すのに集中していて、無意識に柚を抱きしめていたことに気づく。柚が赤い顔で俯いている。
「いきなり抱きつかないで。ビックリするじゃない」
「ごめん。ごめん。柚をサラリーマンの流れから守るのに必死だったから気づかなかったよ。今度から気を付ける」
柚は何も言わずに僕の小指に小指を絡めてくる。2人で改札を出て、予備校まで向かう。僕も柚もゆっくりと予備校へ向かう。途中にコンビニがある。お腹が空いている時などは時々、利用している。
「柚、コンビニに寄るかい。僕は買いたいものはないんだけど、柚が寄りたいなら一緒に入ろう」
「私も今日は買いたいものはないかな。今日は寄らなくていい」
2人でコンビニの前を通ると柊梢と橘梓の2人がコンビニの中から僕達2人を睨んでいた。あの2人のことは無視して行こう。
コンビニに入るのをやめて良かった。あの2人に絡まれても気分が悪いだけだ。今日は気分良くいたい。
予備校の前の自販機で温かいコーヒーと紅茶を買って、柚に紅茶を渡す。柚は温かい紅茶を頬に当てて、気持ちよさそうな顔をしている。僕もコーヒーを首筋に当てる。おお、温かい。
2人で指を繋いで、予備校へ入る。そして教室のドアを開けると、いつもの席に俊輔と夏希が座っている。夏希が大きく手を振っている。僕と柚がいつもの席に近づいていくと、夏希が柚に抱き着いてくる。柚も夏希を抱きしめる。俊輔が僕の肩に手を置く。
「夏希から聞いたぞ。昨日、柚に告白したらしいな。OKもらえたらしいじゃん。良かったな。お前達2人はお似合いだと思ってたんだ。応援して良かったぜ。これからも柚を頼むな」
「昨日、柚から連絡もらったんだよ。本当は柚ったら、すっごく喜んでたんだから。圭太、柚に告白した後、嬉し泣きしてたんだってね」
夏希が僕に話しかける。柚、そんなところまで夏希に話したのか。嬉し泣きしたことは隠しておいてほしかった。
「柚と圭太はお似合いだと思う。恥ずかしがり屋で照れ屋の柚に、温厚で優しい圭太。すごく2人のバランスが取れててベストカップルだと私は思うな。柚もそう思うでしょ」
「私に話を振らないでよ。恥ずかしい。夏希の意地悪」
柚と夏希は抱き合いながら、言い合いを始めた。それを見て笑っている俊輔。僕も笑っておこう。
「圭太は笑うな」
柚が僕に一言をいう。なぜ俊輔はよくて、僕はいけないんだ。柚は恥ずかしくなると僕に八つ当たりする癖があること知っている僕は、いつもの無表情で自分の席に座った。
柚も遅れて席に着く。柚の顔が赤く染まり「もう恥ずかしいよ」と嘆いている。俊輔と夏希はニヤニヤが止まらない。
そんな僕達の席に柊梢と橘梓がやってきた。
「朝から2人で予備校に来るなんて、仲が良いね。あんた達、2人、付き合ってなかったはずだけど?」
「私達を見て、コンビニへ入って来ないなんて、すごく気分悪いんですけどー!」
僕は席を立って、2人の前に出る。
「柚とは最近、付き合い始めた。お前達に関係ないけど、一応、報告するよ。2度と柚に手を出すな。近づくな。それと今日はコンビニに寄る予定はなかった。たまたま目が合っただけだ。変な因縁をふっかけてくんな」
柊梢と橘梓の2人は僕を睨みつける。僕は無表情で2人を見つめる。2人は「フン」と鼻を鳴らして、自分達の席へ帰っていった。
俊輔がニヤニヤと笑う。夏希がサムズアップしている。
「圭太も彼氏になった途端に、やる気になってるじゃん。その調子で柚を守ってくれよ。柚、圭太が守ってくれてよかったな」
僕が席に戻ると柚が僕をチラチラと見ている。そして僕の小指に自分の小指を絡ませてきた。僕も柚の小指を握る。柚なりの愛情表現だと思うと、すごく嬉しい。あの2人に感謝したいぐらいだ。
昨日の夜に柚と2人ファミレスで、今日の授業の予習はしてきているから大丈夫だ。
柚もテキスト、ノート、筆箱を用意して、既に今日の予習を始めている。その横顔は頬がピンク色をしていて、とてもきれいで可愛い。今日は特にキラキラして見える。柚が彼女だと思うと僕の心は今でもドキドキする。
足を蹴られた。また柚の横顔に見惚れていたようだ。
僕はすぐに授業の用意を机の上に並べる。柚が僕の前に付箋を貼ってきた。付箋には「今日のお昼は買いに行かなくていい。作ってきた」と書かれている。
柚が僕のために手作りのお弁当を作ってくれたらしい。僕はすごく嬉しくて席を立ちそうになった。どんな味でも構わない。柚の手料理なら全て完食するぞ。
付箋を見てニヤニヤと笑っていると。思いっきり足を踏まれた。柚の横顔を見ると、柚は俯いて照れて、顔を真っ赤に染めていた。そんな柚がとても可愛くて愛しい。




