20話 告白
柚が退院して数日が経った。今日は柚が久しぶりに予備校へ通ってくる。僕は嬉しくて、いつもよりも早く起きた。そして念入りにシャワーを浴びて、私服に着替える。コートを着て家を出て、電車に揺られて、予備校のある駅で降りる。そして、予備校までの道をゆっくりと歩く。
駅近くに花屋が開いていたので、そこで小さなフラワーボックスを買う。もちろん柚の快気祝いだ。
ずいぶん早く起きたつもりなのに、予備校に着いた時は、いつもと同じ時間になっていた。教室を開けると、俊輔と夏希は既にいつもの席に座っている。本当にこの2人は仲がいい。僕も自分がいつも座っている席に座る。
柚が白いコートを着て教室へ入ってきた。柚がゆっくりと歩いてくると夏希が飛び出して、柚に抱き着く。柚も夏希を抱きとめて、ギュッと抱きしめて2人で喜び合っている。そんな2人を見て、柚が元気になってよかったと心から思う。俊輔は笑って柚に手の平を見せる。柚は俊輔の手の平に自分の手の平を当てる。そして自分がいつも座っていた席に座る。僕はすかさず、フラワーボックスを机の上に置いた。
「柚、退院おめでとう。花屋が開いていたから、快気祝いに買ってきた。よかったら受け取ってほしい」
柚はフラワーボックスを見て笑顔になっているが、僕のほうを見ようとしない。恥ずかしいのだろう。小さな声で「ありがとう」と声が聞こえた。耳まで真っ赤だ。
小さなフラワーボックスを見て、夏希が「可愛い」と言っている。俊輔も「そこまで気が回らなかったな」とこぼしている。ちょっとは柚に心の中で僕の得点が上がったかもしれない。
僕が嬉しそうな顔をして、柚の横顔に見とれていると、思い切り足を踏まれた。
「フラワーボックスは嬉しいけど、毎回、私の横顔を見てニヤけるのはやめてよ。私の横顔に何がついてるの?」
うん、柚のきれいで可愛い横顔があるよ。僕はその横顔を見ているだけで心がドキドキする。退院してきたことがすごく嬉しい。今なら、足を踏まれた痛ささえ、柚の元気な証拠として嬉しくなる。
僕はコートのポケットから映画のチケットを柚の目の前に置く。
「いつでもいいから、帰りに映画でも見て帰ろうよ。柚の分のチケットを用意しておいた。僕からの誘いなんだけど、イヤでなかったら一緒に映画を見に行ってくれるかな?」
「誰もイヤなんて言ってないわよ。今日は瑛太お兄ちゃんも帰ってくるのが遅くなるし、今日でもいいわよ。一緒に行ってもいいわ」
やったー。まさか今日、映画を観て帰ることになるとは思わなかったけど、柚と一緒に映画を見に行けるぞ。
「圭太から映画を誘われたの。今日、圭太と一緒に行くんだけど、俊輔も夏希も一緒に行かない?」
俊輔が手を振る。夏希はニヤニヤ笑って、首を横に振る。
「せっかく、圭太が勇気を出して、柚を誘ったのに、俺達が一緒に行ったら、圭太からするとお邪魔じゃん。そんなこと俺達にはできないよ。2人で仲良く行って来いよ。圭太に美味しい夕飯でも奢ってもらえ」
柚が俊輔の言葉を聞いて、恥ずかしそうに体をもじもじさせて照れている。首まで赤く染まっている。相当に恥ずかしいのだろう。
「わかったわよ。圭太に高い夕飯をご馳走にでもなるわ。それでいいんでしょう」
俊輔はニヤニヤと笑っているけど、僕の財布の中身のことも考えてくれよ。柚も本気で言ってないと思うけどさ。
講師が教室へ入ってきた。僕達は雑談をやめて、テキストとノートを出して、講師のほうへ視線を向ける。講師はスクリーンを使って、テキストの解説していく。ホワイトボードに解説の内容を書いていく。そして要点をホワイトボードに書きなぐる。
僕たちは講師の解説に耳を傾けて、必死に講師の言葉を聞き取りし、ノートに講師の言葉を書いていく。そしてホワイトボードに書かれている要点を自分がわかりやすいように写していく。
必死に柚も講義についていっている。机の上に置かれているフラワーボックスが可愛い。あっという間に午前中の授業が終わった。
俊輔が僕と柚を見てニヤリと笑う。
「残りの午後の授業は俺と夏希でノートを取っておいてやるから、明日にでも写せよ。お前達は今から映画にでも行ってこい。夜、映画が終わった頃には、寒くなっているはずだから、病み上がりの柚にはキツイだろう。2人で今から授業を抜け出して行け」
僕と柚は顔を見合わせる。確かに柚の体のことを考えたら、今から映画を見に行ったほうがいいだろう。柚の顔が段々とピンク色に染まる。そして俯いてモジモジとさせている。映画に今から行ってもいいと思っているのだろう。ここは僕から誘うほうがいいだろう。
「柚、俊輔のいう通りだよ。俊輔達に後は任せて、僕たちは映画を観に行こう」
「別に早く2人っきりになりたいわけじゃないから。私は映画を観に行きたいだけよ」
柚はそう言いながら鞄の中へテキスト、ノート、筆箱を片付けていく。僕も急いで机の上を片付ける。そして、2人で教室を出でる。後ろを振り向くと俊輔と夏希が大きく手を振っている。恥ずかしいから小さく手を振った。
予備校から出た僕と柚は2人で並んで繁華街のほうへ向かう。僕の肩と柚の肩がぶつかるほど近くを歩く。時々、手が触れ合う。僕は思い切って、柚の小指に自分の小指を絡ませた。柚に太ももを蹴飛ばされたけど、柚から小指を離すことはなかった。
3回目の小指つなぎだ。僕の心はドキドキと早鐘が鳴る。すごく嬉しい。横をチラリと見ると、柚が耳まで真っ赤にしている。2人で映画館がいっぱい入っている。シアタービルへ入る。
「どれを見ようか?洋画、邦画、アニメ、何でもあるよ。柚の好きな映画を観よう。柚に選んでほしい」
柚は上映中の映画が放送されているモニターの前で複雑な顔をして悩んでいる。その可愛らしい姿を見て、僕は今日こそ、柚に告白しようと心に決めた。映画が終わったら告白しよう。
「この映画にしない?タイトルはちょっと変だけど。孤児院で育った男子と女子が、偶然に同じ高校へ入学して、付き合う恋愛物語。私、恋愛物語好きだから。これでいいかも」
えっと、タイトルは「金髪美少女ビッチは純情ビッチ、俺に恋して一途に変わる!?」小さい文字で、この作品は当初、過激な描写が多かったため、配給会社よりストップがかかり、内容を大幅に変更され、過激なシーンをなくした作品ですと書かれている。柚はたぶん、この部分を読んでいないんだろうな。大幅に変更されているなら、問題ないだろう。
僕たちはエスカレーターを3階まで登って、カウンターでチケットを出すと、カウンターのお姉さんが「どの席にお座りになりますか」と聞いてくる。柚が何も言わずに劇場の中央部分の席を指す。カウンターのお姉さんが席を登録してくれる。そして座席チケットを渡してくれた。開演まで後20分ほどだ。
「圭太、私、お腹が少し空いたからポップコーンとコーラが飲みたい。後、ケ〇タ〇キーのフライドチキンも食べたい」
僕もお腹が空いていた所だ。2人でケ〇タ〇キーのコーナーに行って、オリジナルチキンボックスを2つ持ち帰りで頼む。そしてポップコーンのコーナーでポップコーンを頼んで、僕達は場内へ入って、指定されている席に座る。
映画が始まった。孤児院で男の子と女の子の別れのシーンから映画が始まった。ぐっとくるオープニングだと思った。次の瞬間に交通事故の場面、信号に立ち止まっている美少女ヒロインに事故車が滑っていく。ヒロインを助けて、美少女とお友達になりたいことだけを考えて、危険の中へ走りこんでいく主人公。この主人公、頭が痛い。
しかし主人公の活躍により、ヒロインは助けられ、家があるマンションまで送り届けられることになるが、その間、主人公はヒロインの胸の感触ばかりに意識を集中させ、おんぶしている手でヒロインの太ももを触ってニヤケている。こんな主人公で大丈夫か。柚を見ると真剣な顔をして、映画に入りこんでいる。
すぐに主人公とヒロインは付き合うようになったが、そのイチャイチャぶりが凄すぎる。僕ではこんなことは、恥ずかしくてできないよ。ヒロインが孤児院からの里子だと、ヒロインの母親から主人公は聞かされる。ヒロインの母親は正義の人ではあったが、愛の人ではなかった。母親と娘の間には大きな溝ができていた。ヒロインのためにヒロインの母親と言い争い、ヒロインと主人公の2人は主人公の家で同棲することに。
同棲シーンのなんと甘い生活。2人は学校よりも仲良しでイチャイチャは止まらない。柚の横顔を見ると顔を真っ赤にしているが、一生懸命スクリーンに見入っている。ヒロインの父親と母親は離婚してしまう。母親は去り際に、主人公と同じ孤児院にヒロインも一緒にいて、一緒に遊んでいたことを明かす。ヒロインも頷いている。
母親が離婚したことで、父親の元へ戻るヒロイン。明かりを失ったように項垂れる主人公。ヒロインは父親を説得して、主人公の元に戻ってきた。それから、今まで以上のイチャイチャラブラブが始まる。この映画イチャラブが多すぎないか。
主人公の父親と母親が海外赴任から一時休暇で日本へ戻ってきた。主人公とヒロインの同棲を怒るのかと思ったら、大歓迎している。そして母親はヒロインを連れてペアリングまで買いに行く。父親は高級ホテルの宿泊券とレストランのチケットを、主人公にクリスマスプレゼントして海外へ帰っていった。
クリスマスイブに2人は高級ホテルでディナーを食べて、エレベーターの中でキスをして部屋の中へ入っていく。この主人公2人、確か高校2年生ですよね。僕達より若いのに。高級ホテルで1泊。なんて羨ましい。
最後は自分達が生まれ育った、孤児院へ婚約したことを伝えに行き、孤児院のシスターと院長先生に報告した帰り道でENDとなった。エンドロールが終わると、2人が同じ大学に通っている姿が数分間だけ写しだされていた。大学結婚したらしい会話がされている。
映画を観終わって、僕はこれを観て良かったのか、複雑な気持ちになったけど、最後はハッピーエンドで大学結婚しているのだから良かったなと思った。これで表現の自粛がされていたのだから、はじめはどれだけイチャラブがすごかったのか少し観たくなった。
柚は孤児院の孤児2人が偶然に同じ高校に入学して、付き合って、孤児院へ挨拶に行くシーンが良かったと涙ぐんでいる。大学結婚も良かったと言っている。
柚が満足してくれたなら、良かった。僕としては映画館の暗がりの中で自然と、柚と手を繋ぎたかったんだけど、そういう映画の雰囲気ではなかった。
エンドロールが終わり、最後のシーンも終わり、館内の明かりが灯る。そして人々は立ち上がっていった。今、僕と柚の周りには誰もいない。僕は心を決めて、柚の手を引っ張る。柚が僕へ振りかえる。
「柚、いきなりだけど、僕と正式に付き合ってください。お願いします」
柚は僕の顔を茫然と見て、何も言わない。ただ段々と顔を赤くして俯いてしまう。柚はすごく小さな声で、聞き取るのがやっとの声で「いいよ」とだけ答えてくれた。
すごく小さな声だったので聴き間違えたかと思って、「もう一度、お願いします」と頼んだら、思いっきり足を蹴られた。
「こんな恥ずかしいこと2度と言えるわけないでしょ、圭太のバカ。いいよって言ったの。これでわかった。バカ圭太」
僕は嬉しくて涙が溢れてくる。そのまま頬を濡らして泣いてしまった。柚がそんな僕を見てオロオロとしている。
「ヤダ。圭太、そんなに泣かないでよ。皆が見てるじゃない。私が変なことしたみたいじゃない。私、いいよって言ったんだから、泣かないでよ」
「これは嬉し涙だよ。フラれると思ってたから。本当に嬉しくて。柚、本当にありがとう。これから、柚を守っていくね」
僕はそう言って柚を抱きしめた。柚が足を蹴飛ばした。しかし僕の腕の中で小さく「うん」という返事が微かに聞こえた。ありがとう、柚。柚をずっと抱きしめていた。柚が何回も足を蹴る。今だけは放したくない。僕の心は幸せでいっぱいだ。
第1章友達編が終わりました。次回から第2章恋人編になります。
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圭太と柚と付き合いました。圭太の恋がやっと実りました。
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