表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/51

18話 柚とコンビニ

 柚が一般病棟に変わってから、毎日のように巽総合医療病院の柚の病室へ通っている。喫茶店のマスターからも許可を得ているので、毎日通っている。柚はだんだん元気になって、もういつでも退院しても良い状態のように見える。



 今日も巽総合医療病院の柚の病室へ顔を出すと、柚が僕が来たことに気づいて、ベッドから顔をこちらに向けて、少し睨んでいる。



「なんでいつも来るのは圭太ばかりなのよ。夏希と俊輔はどうしたのよ。圭太の顔ばっかり飽きた」



 悲しい言われようだ。確かに飽きる顔をしているのかもしれないけど、自分ではわからない。



「夏希は、昨日、顔出したでしょって言ってた。また気が向いたら、顔を出すわだって」



 俊輔には2人で仲良く、もっと親密になってろと言われたけど、そんなことを言えば、柚がへそを曲げるに決まっているから。これは黙っておこう。



 俊輔も夏希も柚のことは心配しているが、一般病棟へ移ったことで、ずいぶんと安心しているようだ。あの2人は中学校の時からの友達だから、柚の症状についても詳しい。もう安心しても良いと思っているに違いない。



 昨日も面会時間ぎりぎりまで、ジェンガをして4人で遊んで、楽しく病室で過ごした。だから今日は俊輔も夏希も来ていない。今日は勉強をしろという意味だと思うんだけど、それを素直にいうと柚が頬を膨らませるに決まっている。これも黙っておこう。



「圭太と2人だけでジェンガをしても楽しくないし。圭太はすぐに負けちゃうから相手にならないし」



 その件については言いたいことがある。僕は決してジェンガが弱いほうではない。柚の病室でジェンガをする時、柚をベッドに寝かせて、ベッドをの背を高くして、食事用の回転式テーブルの上でジェンガをするんだけど、いつも僕の番になると、柚が意地悪をして、ベッドの上で体を動かすから、ジェンガの棒を抜くのが難しくなる。結局、最後には僕が倒してしまって、負けることになるんだけど。僕の時だけ、柚が体を少し動かすのはズルいと思う。



 柚の顔を見るとムフっとした笑顔をして、僕を見ている。柚め、絶対に知っていて、僕の時にベッドを揺らしていたに違いない。そのせいで、昨日は何回も罰ゲームでコンビニまでジュースを買いに行かされた。



「今日は天気がいいから、少し歩きたい。圭太、連れて行って」



 柚はベッドを降りて、病院着の上にカーディガンを羽織って病室を出る。僕は急いで柚の隣を歩く。一般病棟に移ってから、柚は上機嫌が続いている。よほどICUが嫌だったのだろう。



 僕も瑛太さんと一緒にICUの中に入っただけだけど、緊急入院している患者さんばかりで、24時間、患者さん達の苦しむ声やうめき声が聞こえる。全員が緊急入院の患者さんなので、全員が苦しそうだ。いろいろな患者さん達がいる。それに医師や看護婦達の言葉のやり取りも、24時間ずっと聞こえている。ICUと今いる一般病棟の個室とでは、全く環境が違うぐらい、一般病棟の個室のほうが静かで過ごしやすい。柚が上機嫌になる気持ちも理解できる。



 ナースセンターの看護婦さんに、すこし病院内を歩いてくることを伝え、2人でエレベーターに乗って1階まで降りる。1階は外来受診、受付カウンター、会計、薬室などがある。夕方になっているのに、まだ多くの患者さんが残っていて、看護婦達も忙しく仕事をしている。



 地下1階にもコンビニがあるんだけど、柚はあまり、そのコンビニは使いたがらない。小さいからだ。病院の近くにあるコンビニのほうが大きく品揃えも多いため、そちらを頻繁に利用している。何も言わずに柚は病院から出ていく。僕も多分、コンビニに行くんだろうなと思っていたから、何も言わない。



 外の風がキツクなっている。きちんとカーディガンを着込んでいても、病院着では寒いだろうと思う。僕は自分が着ていたコートを脱いで、柚の体の上にかける。柚はイヤそうな顔をして僕を睨んだけど、僕と一緒なのに、風邪をひかすことなんてできない。柚もわかっているのだろう、頬を膨らませてプイと前を向いた。



 外気は風が強く、病室内よりも寒いため、柚の頬のピンク色が濃くなっている。



 コンビニに入ると風が入ってこないため、それだけでも温かい。柚はコンビニの小さいカゴを手に持って、お菓子コーナーを見て回っているが、今日は俊輔達がいないから、ポテチ類は買わなさそうだ。一口チョコを選んでカゴに入れている。そして温かい飲み物コーナーでは温かいミルクティをカゴに入れた。僕はコーヒーを取った。



 パンコーナーに回って、ウインナーパンとメンチカツパンを手に取ると、横から柚が手を伸ばしてきて、僕が持っているウインナーパンを取って、カゴの中へ入れる。僕もウインナーパンが欲しかった。最後の1つだったのに。仕方がないのでカレーパンを取る。



 週刊誌のコーナーへ行ったので、週刊誌を持って、読もうかなと考えていると、柚が横から「そんなに胸が大きい女の子が好きなんだ。さっきからずっとガン見しているけど、このスケベ」と言われて、脛をけられた。



 しまった、この週刊誌の表紙にはグラビアアイドルが水着姿で映っていた。そんなつもりは全くなかったんだよ。柚と一緒にコンビニに来ているのに立ち読みはダメだよなって考えていただけだから。



 週刊誌を雑誌コーナーに戻して、柚の後ろ姿に語りかけるけど、柚はエスパーじゃないから、僕のことを勘違いしているに違いない。失敗した。



 レジに並ぼうとすると、柚がにっこりと笑って、自分が持っていたカゴを渡してくる。最近ではこのパターンが多くなっているような気がする。



「さっきの雑誌をガン見していたこと黙っておいてあげるから、よろしくね」



 柚の顔を見ると可愛くにっこりと笑っている。これでは僕の奢りは確定だな。項垂れてレジへ並んで精算をしてもらう。袋は僕の袋と柚の袋に分けてもらう。玄関口の近くに柚が立っていたので、柚に袋を渡すとにっこりと頷いて、コンビニを出る。僕はその後ろへ進む。



 コンビニを出て、病院まで歩く。風が強く、柚に着せているコートの裾がなびく。病院の中へ入ると、柚がコートを脱いで僕に返してくれた。僕は急いでコートを着る。



「圭太のコート。圭太の匂いでいっぱい。きちんと洗濯してる?まだ圭太の匂いがする」



 ショックだった。せっかく外は寒いだろうと思ってコートを貸したのに、返ってきた一言がそれですか。僕は自分の腕をクンクンと嗅ぐけど、それほど何も匂わない。この間、クリーニングへ出したばかりだから大丈夫なはずなんだけど。家に帰ったら花楓にも確かめてもらおう。



 エレベーターで5階へ登る。ナースセンターへ戻ってきたことを伝えると、その時に居た看護婦のお姉さんがにっこりと笑う。



「柚ちゃん、いつも彼氏に来てもらって嬉しいわね。若いっていいわね。私なんて20歳になるといきなりモテなくなったから、今から彼氏を捕まえておかないといけないわよ」



 柚の顔がピクピクしている。



「圭太は彼氏じゃありません。すごく仲いい友達だけど、まだそんな仲じゃありません」


「あら、そうなの。お似合いだから、つい彼氏だと思っちゃった。勘違いしてごめんなさいね」



 勘違いしたままでも良かったのに、そんなことを考えていると、柚に足を思いっきり踏みつけられた。柚の顔を見ると耳まで真っ赤に染まっている。恥ずかしかったのだろう。



 柚は足早に自分の部屋へと戻っていく。僕もすぐ後ろを歩いていく。部屋に入って、ドアを閉めて、カーディガンをロッカーにかけると、柚はベッドに潜り込んで、嬉しそうにコンビニの袋を開けて、一口チョコを頬張った。すごく美味しそうな顔をして食べている。



 僕はコンビニの袋からメンチカツパンを取り出して、パンに噛りついた。



「もう、毎日、圭太がお見舞いに来るから、看護婦さんに彼氏に間違われたじゃない。すごく恥ずかしかったんだからね」



 それは僕も恥ずかしいけど、少し嬉しい。柚は僕の顔をじーっと見て、ため息をついて、少し諦めたような顔になった。何を諦めたんだろう。すごく気になる。



「私は圭太のことなんて何とも思ってないからね」



 念を押す柚は顔を真っ赤に染めて、僕から顔を逸らしていた。柚が僕のことを気にしてくれていることは、わかっているから、それだけでも嬉しい。顔を赤くしている柚もきれいでとても可愛い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ