モテたい二人
「ようこそ、下町演芸場までお集まりいただき、ありがとうございます」
「こんな中途半端な時間に来るっちゅうことは、他に用事が無かったってことやろか?」
「失礼なことを言いなさんな。わざわざ、安くもない電車賃と入場料を払って、ここまで足を運んでくださったんです」
「誰が出るんだろうなぁと思って、期待に胸を弾ませながら待ってたら、コレか」
「私の顔を指さしな。団栗の背比べやないの」
「吾輩の辞書に、ブスという字は無い!」
「いつからナポレオンになったんやら。ホンマ、一升瓶みたいな顔して」
「どんな顔やねん。言うとくけど、私にだって、恋をした時期があるんやからね?」
「フナみたいな締まりのない身体で、コイかいな」
「そっちの鯉とちゃう。そんな生臭いもんやなくて、もっと甘酸っぱいもんや。これでも、若いときは、ものっすごいスリムでベッピンやったんやから」
「時の流れは残酷やね。お中元に、お歳暮に」
「二の腕を持って言いな。ハムとちゃう」
「まぁ、興味はないけど聞いたるから、その恋の話をしてごらん」
「はい。――あれは、私が十六の時でした。下駄箱を開けると、一通のラブレターが入っていたのです」
「おぉ。下駄箱にラブレターを入れる時代の話か」
「茶々を入れんといて。――手紙にあった公園に行くと、とてもハンサムな先輩が待っていたのです」
「ハムサンドの間違いと違うか?」
「ちゃう。――はじめは、素敵な先輩と私ではつり合わないと、お断りしました。でも、熱烈なモーションにおされ、いつしか惹かれていきました。そう。そのとき私は、はじめて恋というものを知ったのです」
「まさか、そのあと二十年以上、次の恋が来ないとも知らないで」
「いらんことを言いな。――それから二年間は、夢のようでした。寝ても覚めても、常に彼のことが頭を離れなかったのです。今でも、瞼を閉じれば、その当時のことをアリアリと思い返すことが出来ます」
「いっぺん病院で、お脳の先生に診てもろたほうがエエやろか。ほんで、なんで別れてしまったん?」
「余計な心配せんといて。――愛が冷めたのは、彼が新しい恋に向かってしまったから。あぁ、先輩。やっぱり、若い子が良いのね」
「なるほど。後輩に取られたわけか」
「わかってくれたんやね。――そして私は、海に行き、砂浜に流木で先輩への愛を綴りました。そして、そのまま波打ち際に佇み、海水でスッカリ文字が消えるころには、気持ちの整理がつきました。そして、ある決意をしたのです」
「なにを決めたん?」
「よし。将来、これを漫才のネタにしてやろうと」
「ええ加減にしなさい」
「「どうも、ありがとうございました」」