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タクシー!
ひらひらと、舞い遊ぶ白い蝶が、手を伸べた鷹雪君の指先に留まった。鷹雪君は微笑を滲ませた。すると、蝶は煙のように掻き消えた。
「梅小路に行く」
「どこ、そこ」
「下京区……、八条のあたりか」
「へ? 何でまた」
土方君に大人しくしていろと言われたじゃないか。
「安倍、もとい土御門の現当主・土御門晴雄に逢う。わたりはついた。やはりここは、術の効きが良い」
さっきの蝶は、どうやら式神だったらしい。
「晴明神社が近いからかい」
「ああ。今はだいぶ、荒廃しているようだが」
「元に戻る術を聴くの?」
「そうだ。陰陽道の大家だ。役に立つ助言の一つや二つ、くれるだろう」
斎藤君は黙って私たちの会話を聴いている。
元から寡黙なほうだが、鷹雪君の話には、今は口出し無用と考えているようだった。
しかし。
「……歩いて行くの?」
「そうなるだろうな。まだ火は収まっていない。駕籠屋もほぼ機能していないだろうし」
一条から、八条まで。
重い日本刀を差して。暑い中。
タクシーでも呼びたい気分だ。