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 今のままでは壬生浪士組は芹沢さんに牛耳られ、片腕たる平山五郎の台頭も脅威である。

 芹沢さんがいる限り、近藤さんたちは上に立てない。加えて、芹沢さんの乱行だ。

 壬生浪士組は島原の角屋で酒宴に興じた。


 私は陰鬱な気分だった。


 宴会を中座した芹沢さんが、平山五郎、平間重助と共に壬生に帰った。土方君と沖田君も同行し、土方君は八木家での芹沢さんたちとの飲み直しに参加している。

 朝から雨が降っている。

 私は雨音に耳を澄ませながら、来たるべき時に備えていた。

 沖田君は、芹沢さんは自分が斬ると言った。彼の腕前からすれば妥当だろう。


 雨が降る。

 早くも芹沢さんたちの弔いに空が泣いているのか。


 芹沢さんの飲み直しにはお梅や、平山の馴染みである吉栄(桔梗屋の遊女)、平間の馴染みである糸里(輪違屋の遊女)も加わり、芹沢さんたちは泥酔の様を呈した。土方君の狙い通りである。

 芹沢とお梅は中庭に面した十畳間で床に就き、部屋の中央に屏風を立て掛けただけの状態で、平山と吉栄が休んだ。平間と糸里は玄関脇の四畳半で寝ている。


「土方君。やはりやるのかね」

「やる。この局面を越えねば、先がない」


 土方君の答えは明瞭だった。


 蒸し暑い夜が、私の陰鬱に拍車を掛ける。


「先々の憂いを、一つずつ払っていく」


 そう言う土方君は、はるか未来を見据えているようだ。彼には何が視えているのだろう。


「さんなんさん。あんたもむざとは死なせない」


 土方君の言葉の意味を、私は捉え損ねた。

 また繰り返すのかと言った声を思い出す。


 刺客は総勢四名。

 私と原田君、沖田君と土方君である。


 近藤さんをこの件からなるべく遠ざけておこうという土方君の意図を感じる。

 大将格には血生臭さから無縁にしておきたいのだ。


 夜も更けた頃、私は原田君と共に、平山五郎を襲撃した。

 刀が一閃すると、平山五郎の胴と首が離れた。ころり、と転がる首。

 押し寄せるような血臭。


 それから私は物言わぬ躯となった芹沢さんとお梅と見た。二人共、裸で、無残な有り様だった。

 押し黙る私に、土方君が告げる。


「正しい道筋を通っている。問題はこれから先だ」


 人を殺したあととも思えぬ冷徹な声を紡ぐ。

 これから先、時代の潮流にどう乗るか。

 どう乗り切るか。新撰組の悲惨を防ぐ為には――――。


 私の記憶が一瞬、飛んだ。今、何か埒外なことを考えていたように思う。


「あんたにも、生きていてもらわなきゃ困るんだよ。さんなんさん」


 土方君は、神妙な声で言った。

 雨が降り続いている。

 血を洗い流してはくれまいか。

 私がこの先も汚すであろう手につく鮮血を、洗い流してはくれまいか。

 


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