くるくる
時代は巡る。
くるくると風車のように。
「山南君」
八木家の庭に立つ私に呼び掛けたのは、芹沢さんだった。
浪士組の中にいた彼は、近藤さんと同じく清河八郎と袂を別ち、京に残った。
鉄扇を肩にぴたぴたと当てながら、口角を吊り上げている。
「何でしょう」
時は残暑。夏の気配がまだ色濃い時節だった。芹沢さんの乱行振りには、私も近藤さんたちも頭を痛めていた。力士たちとの衝突では私もまた、力士を殺めた。それも逃げる力士を背後から。今でもそのことを強く悔やんでいる。
「今夜、島原に行くのだが、貴公もどうだね」
「いえ、私は」
芹沢さんはお梅という昵懇の女がいながら、妓楼に行くのか。
「近藤に就くより、私に就いたが御身の為だぞ」
「ご忠告、痛み入ります」
私が慇懃に言うと、芹沢さんは鼻をふんと鳴らして、来た道を戻った。
八木家は広く、私は庭の一隅でぼんやり樹々の緑を眺めていたのだ。
芹沢さんは私を懐柔して取り込みたいのだろう。力で無理を押し通そうとする。そんなやり方は私の好むところではない。
八木家の母屋と離れの間に設けられた文武館から、気合いの入った声や竹刀、木刀で打ち合う音が聴こえてくる。
芹沢さんを殺す。
近藤さんは、そう言った。
ふと見れば烏が屋根の上から私を見下ろしている。小首を傾げる様は人間のようで、愛嬌がある。
「また繰り返すのか?」
不意にそんな声が降ってきて、私は左右を見回したが、誰もいない。見上げれば烏がいるだけ。まさか烏が喋った訳ではあるまい。私は微苦笑して、かぶりを振った。
ご感想など頂けますと、大変励みになります。





バイオレット、バイオレット、シークレット。連載中です。