赤ん坊
うーん。
何か重要な雰囲気の夢を見た気がする。思い出そうとするとそれは紗が掛かったように霞み、遠くなるのだが、切実な心だけはリアルに残っている。どんな夢だったんだろう。そう言えば一時期はあの子の夢ばかりを見た。目覚めると悲しく、遣る瀬無くなった。最近はそれを見ることもなくなっていたのだが。
私は書斎でアルバムをめくる。
妻や芽依子が撮った沖田君の写真をプリントアウトしたものだ。そこには色んな沖田君がいる。女装した沖田君もいるんだけど、これってどうなんだろう。本人に自覚のない黒歴史だよな。
まあそれはそれとして。
アルバムを片付け、再び資料に目を遣る。
さんなんさんは元治二年二月二十三日に亡くなっている。享年三十三歳。沖田君程ではないが、若い。係累とか縁者とかいなかったのかな。沖田君のように好いた女性の一人くらい、いてもおかしくないと思うのだが。華々しい活躍をした新撰組の総長だから、モテただろうし。生真面目そうな印象があるから、無闇に女性と関係を持たなかったのかもしれない。そう言えば赤ん坊は無事に産まれたのだろうか。私はそこまで関知してない。する前に私は。
ん?
赤ん坊って何だ。
どうしてさんなんさんに赤ん坊がいる前提で、私はものを考えていたのだ。
縁もゆかりもない人なのに、おかしな話だ。
なぜか私の脳裏に鮮やかに、禿姿の女の子が浮かんで消えた。





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