表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/136

愚痴と背徳

 総長、と呼ばれて振り向く。またかと思う。池田屋の件以来、近藤さんの増長が隊士たちの目に余るようになり、時折、私の元に相談に来る。私は形ばかりの総長。単なる飾りに過ぎないと言うのに。沖田君を見舞うついで、つい、そんな愚痴をこぼしたら、沖田君は笑って人柄でしょう、と言った。白皙の、透き通るような笑顔が、彼の病を否応なく物語るようで、私は胸が苦しくなった。

 私の知らぬ間に、永倉君、原田君、斎藤君、島田君と葛山(かつらやま)武八郎ら六人が、会津候(松平容保)に近藤さんの非行を訴え出たそうだ。何とも大胆な真似をする。

 会津候の斡旋で、六名と近藤さんの和解は成ったそうだが、後に近藤さんは彼らに対して厳しい報復人事に出た。

 以前の近藤さんであれば、違ったのではないか。

 華々しい栄達は、人をより悪く変えてしまいもするのだろうか。


 近藤さんや土方君に関する苦情は、なぜか病身である私や沖田君に寄せられた。

 私たち相手であれば、気安く接することが出来るのだろうか。

 いずれにせよ、今後の新撰組が気懸かりでならない。




 メイク落としって大変なんだな。

 化粧を洗顔して落とす沖田君にタオルを差し出しながら、私はしみじみと同情した。うっかり沖田君が目をごしごし擦ったら、マスカラが、飛び散った墨汁みたいになって、私は「うーあー」と叫んでしまった。端整な顔立ちが台無しである。芽依子が沖田君の女装写真をツイッターに載せると言うので、そこは断固と厳しく禁止しておいた。


 可哀そうじゃないか!


 そんなこんながあった夜、いつものように書斎に籠り、私は資料を読んでいた。書かれてある人物像は、資料によって微妙に違いがあり、興味深い。例えば槍の名手として知られる谷三十郎は、横柄な人物として描かれがちだが、一方で、家柄が良く、刀槍に優れ、親切とする資料もある。

 余り人柄としてぶれないのはさんなんさんや沖田君だろうか。

 剣の達人で、両人とも、どこかしらおっとりした風情があるように感じられる。

 多分、部下から慕われてたんじゃないかな。


 さんなんさんはどうして切腹したんだろうなあ。

 現代人の感覚では、お腹を切るという行為自体が、ちょっと理解し難い。

 だって痛いじゃないか。

 痛いのって、嫌じゃないか。

 美味しい物も食べられなくなる。


 そして私は真夜中のアンドーナツという背徳の味を味わいながら、緑茶を飲んだ。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ