お洗濯
沖田君が洗濯物を畳むのを手伝っている。
妻の隣にちょこなんと正座して、しかつめらしい顔で。
恐らく彼には馴染みのないであろう洋服を、妻の教えに頷きながら、健気に畳んでいる。
しかし私のトランクスまでそう律儀に畳むことはないのだよ、沖田君。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
「お帰りなさい」
妻は自分の下着はしっかりキープして沖田君には触らせていない。そこは譲れないところなのだろう。幾つになっても女は乙女。
沖田君も何となくそれと察する様子で、妻のブラジャーなどからは視線を逸らしている。
私は妙に気まずく、咳払いをして共同作業を行う彼らに話し掛けた。
「祭りの準備が進んでいるな」
「ああ、姫宮神社の」
「うん」
「祭りですか」
「沖田君も見たりしたかい」
沖田君は私のシャツを掴む手を止め、きょとりと小首を傾げた。
「献額した憶えならありますが」
「見学」
「献額。額を奉納することです」
「ああ、確か日野の八坂神社(当時は牛頭天王社)に」
「そうそう。十七の時でした。近藤周助先生や日野の門人たちと一緒に」
献額、奉額は天然理心流のみならず、諸流派がこぞって行ったらしい。
武運長久を祈る意味合いの他、一門の勢力誇示、他流派へのデモンストレーションでもある。寧ろ、そちらの目的のほうが強かったのではあるまいか。
「沖田君、今度はお洗濯を一緒にやりましょう」
どうやら妻は沖田君に家事を仕込み、自身の安楽を図る積りらしい。沖田君は素直にこくりと頷いている。やれやれ。沖田君がいずれは料理なども手伝わされる羽目になるのだろうかと思ったが、インスタントラーメンの惨事を思い出し、私はそれはあるまいと首を振った。
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