インスタントラーメン
家に帰った私を出迎えたのは、妻ではなく沖田君だった。
それもなぜかフリルつきのエプロンを、羽織の上から着ている。いつもは妻が使っているものだ。
「お帰りなさい」
「……ただいま」
「奥方は、婦人会の寄合とやらがあるそうで」
ああ、そう言えば言っていたな、そんなこと。だからと言ってそれが沖田君のエプロン姿に帰結する理由が解らないが。
沖田君が私の疑問を察したように言う。
「奥方がこれを着て料理をするようにと」
うん、遊んでるな。どうせ写メでも撮ったんだろう。芽依子のスマートフォンにはばっちり沖田君が写っていた。これも一種の心霊写真かと思いながら、私は科学技術に感心したものだ。
「先にお食べになりますか、お風呂にされますか」
新婚さんごっこか。とりあえず私は、この状態の沖田君を一人にするのは心配だったので、風呂はあとにすることとした。それにしても妻も、作り置きのおかずくらい用意しておいてくれれば良かったのに。完璧に状況を楽しんでるだろう。
「因みに何を作る積りなんだい」
沖田君の白皙の美貌が、すわ池田屋に討ち入りとばかりにきりりと引き締まる。
「いんすたんとらーめん、なるものです」
結果として沖田君は羽織の袖を燃やしそうになったり、卵を殻と共に盛大に鍋の中に投入しようとしたりの迷走した活躍振りを披露してくれた。フォローする私は、醤油ラーメンらしき物が出来上がった時には疲労困憊だった。
これだけは、と武士の情けか妻がタッパーに詰めておいてくれた茹でた小松菜をラーメンに入れると、一応はそれなりに見栄えがする一品となった。私は沖田君のエプロンを脱がせて(泣く子も黙る沖田総司がいつまでもこんなのを着ていてはいけない)、テーブルに向い合せに着くとビールとラーメンに舌鼓を打った。余り大したことは喋らなかったが、たまには男二人で食べるのも良いもんだと思った。私に早く息子が出来ていたら、こんな感じだったのかもしれない。
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