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雨滴
気付けば私は庭にいた。濡れそぼっていた。
鷹雪君と妻が縁側に立ち、私を見ている。
「逝ったようだな」
「……本物の沖田君など知らない! 私にとっては彼こそが本物だった、本当の沖田総司だったんだ」
妻とお喋りして芽依子の玩具にされ、私と酒を酌み交わしてビールで白い髭を作る。
それが、私の中での正真正銘の沖田総司だった。
雨と涙が混じり合い、私の醜態を隠してくれる。鷹雪君は何も言わなかった。妻は駆け寄り、私にしがみついた。妻も泣いていた。沖田君ともう会えないことを悟ったのだろう。
「ありがとう」
妻の言葉の意味が、私には解らない。私もまた、妻に縋りついた。喪失の悲しみを、分かち合った。
これでまた二人ぼっちになる。私の心は、沖田君を失った痛みも伴い悄然とした。しばらくは酒も美味しく飲めないだろうと思った。
雨滴が痛かった。針のように。
次話で最終回です。
12時に投稿します。





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