格闘
目が赤い。
沖田君の双眸が、ルビーのように赤く光っている。硝子カップが滑り落ちる音。
抜刀の一撃を、辛うじて私は避けた。
妻が遠く、安全圏にいることを確認して、追撃を避ける。テーブルや壁に刀傷が入る。それを嘆く余裕もない。私はアイスクリームを食べる為に出されていた匙を沖田君の目元に投げつけた。すかさず足払いを掛けると、沖田君の体勢が崩れた。
これが影の暴走か。
私は沖田君が体勢を崩した隙に、彼の脇差を抜き取っていた。
抜刀して、斬りかかる彼を迎え撃つ。間合いが短い私のほうが、明らかに不利だが今はこれしか抗する術がない。恐ろしい程の膂力で沖田君が私の刃を圧倒してくる。このままでは脇差ごと斬られる。
擦り流すのもやっとだった。私は庭に続く硝子戸を開け、外に出た。
沖田君が追ってくる。これで良い。妻に害が及ぶ危険性を少しでも減らしておきたい。二人共、すぐに濡れ鼠になった。雨が白刃を遮らない。剣戟の音が響く。相手が沖田君でなければ、もっと加減した戦い方が出来た。けれど。しかしそんな甘い理屈が通用するような局面でもなくなってきていると、私にも解った。斬る気で行かねば、こちらが斬られる。まだだ。まだ、死ねない。
まだ死ねないと、嘗ても思った。
紗々女が懐妊したと聴いて。土方君に詫びられて。
生きて行かねばと、そう思ったのだ。
今の私には妻がいる。私が死ねば妻はどうなる。
沖田君――――――――。