魂の一部
鷹雪君の呪言を、悪魔や外道を祓うものと認識していた訳ではない。ましてやそれが斎藤君に有効なのかどうかも、その時の私には解らなかった。
ただ無我夢中だった。
「止めろっ」
斎藤君を背に庇う形で、両手を広げて割って入る。鷹雪君の怜悧な面立ちに険が宿る。加えて、僅かに懇願めいた色合いもあった。
斎藤君は構えた白刃で私を傷つけないよう、刀を退いている。
「言っただろう。あんたが反発すれば、俺の術の効力も落ちると。そいつは俺を殺そうとしたんだぞ」
「斎藤君は君を殺さない。君が、彼に、彼らに手出しさえしなければ」
つつう、と私のこめかみから顎にかけて汗が滴った。
「そうだよな? 斎藤君」
斎藤君の返事はない。漲る殺気こそ消えてはいるものの。私は口約束だけでも良いから、彼に何か穏便な返答をして欲しかった。しかし。
「保障は出来ません」
「俺もだ」
「――――」
この石頭同士め、と私は些か腹が立った。土方君でもこれより柔軟なんじゃないか?
「だが、今日は退散するよ。魔界偈を中和した、あんたに免じて」
牡丹灯籠を持ち、立ち去ろうとする鷹雪君の背に、私は声を掛けた。
「私の、魂の一部なんだよ。彼らは。鷹雪君。君にだってそんな存在はいるだろう」
鷹雪君の純白の背中は停止したが、返事はなかった。再び歩みを進め、斎藤君と私は、水のせせらぐ音がする闇に取り残された。だが、そう思う間もなく、闇は遠ざかった。





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