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正しさ
視線を感じて見上げると、桜の枝に烏が留まっている。
いつかの烏だろうか。私たちを観察するような視線だ。見つめ返していると、その内、飛び去って行った。
積年の願いは叶うと言った。
同時に、沖田君は消えるだろうと。
その言葉に、強く反発する私がいる。沖田君が消えるなど、あって良い筈がない。彼はこれから先も、この縁側で、私や妻と喋り、食べ、時を過ごすのだ。正真正銘の沖田総司が誰であろうと構わない。今、目の前にいる沖田君が大事なのだ。沖田総司は愚かではない。愚かなどではないのだ。
「沖田君」
「はい」
「クリスマスと正月、一緒に過ごそうね」
まるで恋人に言うような約束を、私は取りつけようとする。沖田君は、目を少し見開いて首肯した。
「はい」
その言葉は私を思い遣った気休めかもしれない。しかし私には有り難い配慮だった。斎藤君、口の端に生クリームがついてるよ。
土方君含め、彼らを愛おしいと思う。
鷹雪君に調伏などさせる積りはない。
私のこれからの人生に、欠かせない存在が既に亡き人であることが間違っていると言うのなら、私はその間違いを貫こう。