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沖田君と卓球

近所の体育館の、とりわけ人がいない時間帯を見計らって、私は妻と沖田君と卓球場にやってきた。寂れた体育館で休日でも閑散としている。出入りの際、私はチケットを二人分、買った。沖田君は当然のように素通りである。ここなら彼と遊戯を楽しめるだろうと、まあ、私の苦肉の策だった。

 私はこれでも学生時代、卓球部で、社会人になってからも知人の卓球グループに入り、大会に出るなどしていた。

 沖田君は羽織袴だし、最初は要領が掴めず、空振りなどしていたが、その内どんどん私と打ち合うようになってきた。サーブに凄まじい回転が掛かっているだと?

 いつの間にか私は本気で沖田君と打ち合っていた。

 驚くべきことに幕末の剣豪は、卓球の上達振りまで並みではなかった。

 しかしこの光景、妻以外の傍目から見たら奇妙だろう。

 私は透明人間相手に必死でラケットを振るっているのだ。沖田君は教えた訳でもないのに当たり前のようにシェイクハンドで、投げ上げサーブまで繰り出す始末である。

 だんだら羽織の眩しいことよ。脱げば良いのにとは言えない。羽織は最早、私に対する彼のハンデと化していた。


 本当に何なの、君。


 少しは良いところを見せよう、沖田君と普通の友人同士のように交流しようとした私の目論見が音を立てて崩れてゆく。

 この間、妻は退屈そうに、一人で素振りの練習をしていた。妻も卓球を齧っていて、時々、私が練習相手になるのだ。


 結局、沖田君に良いところを見せるどころか、お株を奪われたような状態で、且つぐったりと疲労して、私は涼しい顔の沖田君と、練習相手を余りしてもらえなかったことでご機嫌斜めの妻と共に帰路に就いた。


 夕食は焼き肉だった。汗を掻いたあとはこれに限る。

 フランス西海岸、ブルターニュ地方に塩田のあるゲランドの塩、もしくはポン酢を掛けた大根おろしに熱々の牛肉をつけて頬張る。肉汁が口の中に溢れてこれぞ幸せという気分になる。私の不興は呆気なくどこかに行った。ビールをぐびぐび飲み、ぷはー、と一息吐くと、そんな私を楽しそうに沖田君が見ていた。




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