初顔合わせ
仕事から帰宅して、居間の向こうを見ると、妻と見知らぬ若者が座っている。
紫と橙と桃色と。
暮色が美しい春の黄昏。
妻と談笑している若者は、風変りな恰好をしている。
妻より彼のほうが先に私の気配に気づき、振り向くと笑顔を見せた。それは天真爛漫、純真無垢な子供が見せるような、曇り一つない笑顔だった。
「お邪魔しております」
「あら、貴方。お帰りなさい。こちら、沖田さん」
「沖田?」
「申し遅れました。僕は新撰組副長助勤筆頭、一番隊隊長・沖田総司藤原房良で、法名が賢光院、」
「待て、待て待てちょっと待て」
「はい」
成程、言われてみれば私の要望の通り、素直に待つ姿勢に入った彼は、あの有名な浅葱色と白のだんだら羽織を着ている。所謂、よく知られた新撰組の隊服である。そしてまた、沖田君(自称)のかんばせは、何と言うか。同性として癪に障る程、造作の整った白皙の美形であった。
にこやかな沖田君(自称)の笑みに、私は何だか不意に脱力してしまい、ソファーに座り込んだ。チョコレート色の布地が私の重力を受けて凹む。沖田君らしき若者がふわふわして私の前に回り込んだ。何でもこのあたりを漂っていたら良い匂いがして吸い寄せられたのだと言う。今晩の夕食は金目鯛の煮つけだと妻が言っていた。もし仮に、いや、もう認めるしかあるまい。
沖田君はしかし、飲食は出来まい。
私がそう言うと、沖田君と妻はにっこりと共犯者の笑みを浮かべた。