魔法少女会合
信じられないことだが。
今、私の目の前に魔法少女だという人たちが集っている。
「じゃあまず自己紹介しとこっか!」
最初に一声あげたのはラブリーな魔法のステッキを持った女の子だった。
「私は魔法の国からきたマジカルプリンセス!人間界には魔法の修行のためにやってきたの♪」
いきなり濃いのが来た!
なんでも彼女の国では16歳になると誰もが独り立ちのために人間界に修行へと出向くらしい。
「16歳で修行じゃと?ならばお主はまだ駆け出しの小娘ではないか。」
「小娘って、あなたの方がどう見ても若いじゃない。」
「わしの年は軽く一万年はこえておるわい。このひよっこが。」
全員がギョッとした顔で彼女を見た。
どう見ても5歳かそこらの幼女にしか見えないのに…これがロリババァなのか。
「そもそも、魔法はそのように気軽に扱う代物ではないぞ。」
「その通りですわ。魔法は魔との契約の名のもとにある神聖な力。代償も考えずに使うことは死を意味しますわよ。」
黒いゴスロリファッションの子がなんか怖い。
魔法少女というより、やばい意味で本格的な魔女っぽいんだけど大丈夫だろうか。
「うぅ。ごめんなさいぃ。」
「あら。どうしてあなたが謝罪をしていらっしゃるの?」
「だって私、魔法は失敗したり大事な時に魔力が尽きたりしてばっかりで。そのせいで何度皆が死にかけたりしたことか。」
彼女はファンタジーな世界から来たんだろうか。
話によれば誰もが軽い魔法なら使える世界から来たんだそうで、未熟な自分を嘆いていた。
「だから私、まだ見習いで。とてもじゃないけど皆さんに並ぶほどの者では。」
「そんなことない。あなた、いろんな魔法が使えるし、仲間もいる。」
「でも。」
「私も最初は魔法、うまく使えなかった。それに、炎の魔法しか使えない。」
「そ、そうなんですか。」
励ましのつもりなんだろうか。
「そのせいで、どれだけの村を燃やしたか。魔女なんて私ぐらいしかいなかった。恐れられて扱いも「もういいです!それ以上は言わなくてもいいですからっ本当にごめんなさい!」
着ている服装から嫌な予感はしてたけどまた恐ろしそうな話になっちゃったよ!
「い、今は私たちがいるから安心してね。仲間だよ!」
「ありがとう。」
マジカルプリンセスさんが炎使いさんを抱きしめると、保護欲でも沸いたのだろうかお菓子をまたいくつも出してあげている。
それはいいけど魔法で新しい服も出してあげてください。私も泣きそう。
「皆さんも大変なんですね。私の場合は妖精さんに頼まれて、なりゆきで魔法少女になっちゃったんですけど。」
「あら。あなたは普通の人間でしたの?それがどうして魔法少女に。」
「襲ってくる魔獣を倒すために仕方なく。もう大変でしたよ。躍らされたり脱がされたり、あんなことやこんなこと。」
何されたって!?
「本当は戦いたくないんですけど、他に戦える子が少ないんです。少女じゃなくっちゃ魔力高くないからみたいで。」
「まだ幼いのに戦わなければいけないだなんて。どこも大変だね。」
「そういうお主はどうなんじゃ。」
「僕は、その。こう見えて男ですから。」
は!?と、今度はその場の全員が声をあげた。
「僕は軍事的な実験でなぜかこの姿に。だから、魔法とは少し違うかもしれないね。」
「あらぁ。ところで、先ほどからの話からすると、まさかあなたも年配者ですの?」
「そうですけど、さすがに何年も生きてませんよ。おじさん、と呼ばれたことはありますが。」
ただの男じゃなくて、おじさん?魔法少女おじさん?
特徴は僕っ子で十分ですよ!
「国のために、あらゆる事件に立ち向かいました。女性も含めて、僕以外にも選ばれた方が何人かいたんだけどね。」
遠い目をしている。
もうやめよう!?暗くて重い話にするのは!
「私と、同じ?」
「おっと、すまない。僕の話はこれぐらいにしておこうか。」
さすが年配者といったところか、炎使いさんの呟きで空気を呼んでやめてくれた。
せめてもっと早く気づいて欲しかったが、彼も彼なりに自分のことを誰かに話したかったのだろう。
「それならば、本題に入るとするかの。」
そうしてやっと、全員が一人に注目する。
誰かって?
全ての元凶である私の兄である。
数時間前に、なんでも願いを聞いてやると言うヘンテコな生物が現れた。
よくは知らないが、兄がその生物に恩を着せるようなことをしたらしい。
その結果。
『全世界のありとあらゆる魔法少女に会いたい!』と兄が願ったせいでこんなことになってしまったのだ。
「あの駄目兄め。ダニめ。」
部屋をグッズやら本やらで埋め尽くすほどの、大の魔法少女好きであることは知っていた。
だけどこんな馬鹿なことをやらかすだなんて。
速攻で彼女たちと一緒にボコった末に、今は気絶したまま縄で締め上げている。
その時「ありがとうございます!」と聞こえた気がしたが幻聴だと思い込むことにした。
「で、どうしたら彼女たちを元の世界に戻せるんですか。」
ついでに縛りあげたヘンテコ生物に向かって聞いてみた。
「そ、それはですね。会いたいってだけの願いですし叶えたらすぐにでも返すことはできるんですよ。」
「じゃあ戻して。」
「でも、こちらとしても願いの代償をもらわないことには。」
「代償?」
ちっ。この世界では代償がいるのか。
「でないと、完全に願いが叶ったことにもなりませんし。」
「なんで?」
「『全世界の魔法少女』ですからね。もちろん連れてくるのが可能な各世界から一人づつ選んだのでこの人数なのですが。」
ふむふむ。
「この世界にいた魔法少女はとうの昔にいなくなってしまったのですが、つい先ほど契約までは完了しておりまして。」
ん?
「それってもしかして。」
「あなた様です。」
「んなああああああ!?」
どうして!なんで勝手にそうなっちゃたの!
訴えるようにヘンテコ野郎につかみかかった。
「だ。だってあなたのような魔力の強い少女は本当に幾年ぶりかで!」
「でも私は魔法少女になるだなんて一言も言ってないよ!?」
「なにせまだ未成年ですから。家族の誰かの了承を得ることになっておりましてね!?」
本人放置で変なところで気を回すな!
「取り消して、今すぐ!」
「実行してしまったんで無理ですぅ!」
うんそうだろうねフザケルナ。
「な、なんだかすごく気の強い子なのね。」
「あの態度、なかなかのものじゃな。わしは気に入ったぞ。」
「私もですわ。これも何かの運命。あなたも魔法少女になってしまっては?」
「そんな軽々しく言わないでください!」
さっきまでの話を聞いてその気になれるか!
「とにかく、落ち着いて話し合いましょう。もしかしたら何か事情があるのかもですし。」
「そのとおり!こちらにも事情があって。」
「長年いなくても平気だったのに?どんな願いも叶えられたのに?」
「すいません。興味本位でした。」
嘘の一つも許さないという気迫が通じたのか、正直に答えてきた。
これまで魔法少女になれる子がいなかったからって、とんでもない理由で魔力の無駄遣いしたものね!
「だけど、私が変身しないと皆が帰れないんだよね。」
「無理しないで。あなた、私と違う。あなたは選ぶ権利、ある。」
「うんうん。私たちのことは、気にしないで。」
「二人のいう通りだよ。もしかしたら、他に方法があるかもしれないし。」
「そうよ!なんてったって私たち、魔法少女だもの☆」
なんだかんだで、全員が味方になってくれたことにホッとする。
まぁ帰れなくても困らない人もいれば、帰らない方がいい人もいるんだもんな。
とりあえずの話し合いもすんだところで、張本人の兄をたたき起こした。
「で、どうして勝手に私を魔法少女にしちゃったの。」
「どうしてって。お前、魔法少女になりたいって言ってただろ?それで空を飛んだり猫とおしゃべりしたりするんだーって。だから、良いかなと。」
「…それは、幼稚園の頃の話だぁああああ!!」
七夕の短冊にまで書いた黒歴史を思い出しながら、私が兄貴を再び眠りにつかせたところで会合は終了したのだった。