副会長 暗躍(中)
会長からヒロインを無事に家へ護送したと連絡があり、夕食がてらレストランで合流しました。
緑羽を逃がすための方策を練ろうとしたのですが。
「難しいかもしれない」
会長は渋い顔でうなります。
「またゲームの設定ですか?クリスマスが終われば好きにしても良いのではなかったですか?もう嫌です。続編なんかがあっても私たちに関わらなければ黙っていてくださいね!」
この一年、何度も鬱陶しい思いをさせられてきた『ゲームの設定』というものに苛立ちながら聞き返すと、違うと言われました。
「ヒロインの部屋の様子や言動、攻略方法からの推測だが。現在、一番気に入られているのがおそらく緑羽だ」
「それは…厄介ですね」
「あぁ。まぁ、あいつは一番人付き合いがうまい。人に気を使いながら生きているからな。男友達からの人気が一番高いのも緑羽だろう。風紀のやつらも身内の面倒見はいいが、一度敵対した者でも最終的に受け入れる程の懐の深さはないしな」
まぁ、あいつの場合は敵視し続けるだけの覇気がないだけとも言えるがな。
誉めすぎたと思ったのか、最後に余計なことを言う会長。本人が目の前にいないときくらい、素直になればいいのに。
にしても。
「本命を別に用意するのですか…面倒ですが仕方ありませんね。風紀の中から見繕いましょう。脳筋な委員長か、ロマンチストな美術家、実は繊細なバンドのギタリストあたりですか?その条件だと心優しい不良や女装の宝飾デザイナーは落第ですよね」
「あぁ、社会人組は言い寄られるだけで社会的立場が悪くなるからな。ただまぁ、風紀は攻略2軍と呼ばれていただけあって、どれもあと少しの魅力に欠けるんだよな」
「放置しても人生に関わるほどのイベントは起きなかったくらいですしね。ですがそんなもの、二月くらいの間なら埋めて差し上げますよ。躍り手へのサービスです」
「そうするか。ならば騙しやすいのは、ギタリストだな。任されているうちの系列会社から間にいくつか挟んで、ラブソングでも作らせるか。真剣に曲作りする姿を間近で見させて、デビュー直前の悩みや感動を共有していた頃を思い出させれば一時的にでも気はひけるだろう。その間に緑羽を抜けさせよう」
「上手くいくといいんですが」
「あいにくここは現実だからな。ゲームのように上手くはいかなくとも、まぁそのときは仕方ないと諦めるだけだ。ゲーム期間が終わればもう人が死ぬような騒ぎは起こらないだろう」
そうして私と会長は、裏からギタリストのサポートをしてヒロインとの仲を応援することにしました。