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白の騎士団8

次の日、騎士団は慌ただしい状態にあった。

レオナードが報告を受けたのは正午をすこし過ぎたころだった。


「カルカットに敵兵が集結しています!!」


レオナードは溜息を吐いた。

いよいよと言うわけか。


「戦争の準備か。規模は?」


「8万です」


「8万だと……?」


それはあまりにも少ない。黒軍は何を考えている?

カルカットから出て白国領を攻めるには数が少なすぎる。

何か策があると見るべきか。いや、小細工は既にあったが。


レオナードは思案した。

しかし、上手く考えはまとまらない。


「騎士団を招集せよ」


「はっ」




◇◇◇◇◇



集合した騎士を見てレオナードは不満そうな顔をした。


「全員ではないな」


12人いる騎士の内、集まったのは、

3位ロイ、4位ルーフェン、8位、9位、10位、11位だけである。

一位のデュランや謹慎中の十二位の騎士エクリアは仕方ないにしても、5、6、7の上位騎士が不在とは何事だ?


「まず、5位のワイズは黄国の監視の為に、西に、6位のオドヌフィスも赤軍へ牽制の為、北西に残りました。7位イノセンも同様に緑軍の牽制の為、北東に残りました」


「むっ、そうか」


ワイズとオドヌフィスは評議会の反戦派に近い騎士だ。

連中はレオナードの音頭取りでは動く気もないのかもしれないが。


(まったく、我らの内部で割れている場合か?)


たった10年。それだけの平和で白国は平和呆けしている。黒国が我らを見くびっても仕方ない。

しかし、8万か。


「ミスティ。どうみる?」


「中途半端な気もするけど、牽制のつもりなら大きく動きすぎ」


ルーフェンは困った顔でミスティに問うた。


「つまり?」


「黒軍はいよいよ本気で来たと見るべきよ」


ミスティの言葉にルーフェンは首を振った。


「いや、でも、そういう策かもしれない」


「そう?8万って今の黒軍の規模から見ると牽制としてただ動かすだけにしては大きすぎる。牽制の意図だけなら、もっと少ない数のはずよ」


黒軍の総数は12万程度と見られている。

8万は総動員にかなり近い数だ。


四方が山に囲まれている国家故に白国以外の外敵もいない彼らだが12万全てを動員した作戦を組むことは考えづらい。


「だが、無謀だ」


ルーフェンは呟いた。

その感想はもっともだった。

しかし、そのルーフェンの言葉には第3位の騎士ロイが否定的な言葉を発した。


「勝算はさて置き、これだけの数を動かして緊張を煽ったということは単なる局地戦ではなく、それなりに戦果を見込んでの行動だろう」


「戦をせずとも利になれば、兵を動かす理由になります」


「ほう、では現状、緊張を煽って利になるのはどんな場合だい?」


「たとえば、緊張が強まれば、軍部の発言力が増します」


ロイは目を見開いた後で苦笑を浮かべた。


「今のさすがに失言だろ。もともと黒国は異常な程、軍部一辺倒な国だ。それでは利を得るのはまるで我々みたいではないか?」


軍をただ動かすだけでは、もともと得る利が黒の方に無い。

それは無いはずだ。


「黒国内でパワーバランスの変化があった可能性は?」


「あのオスカーが政治の愚で兵を動かすと?それほど易い相手ならよかったものを」


結論から言ってオスカーはたった8万程度の兵で戦争を始める気らしい。


「別動の部隊がいる可能性は?」


「オスカーが10年もカルカットに留まったのは留まらざるを得なかったのは、あの天然の関が守るのに易く攻めるに難しいからだ」


周囲に天嶮が連なるカルカットは大軍の配置が難しく、其処から攻め込むにはカルカットを通すしかない。

白と黒は互いの国を霊峰に仕切られて来た。

カルカットを通せば、大軍が正面からぶつかる戦いになり、少数の黒軍には不利になる。


「あのオスカーが10年掛けたのだ。つまり霊峰を越える術は無い」


「やはり黒軍は8万」


「そうなる」


重々しくレオナードは結論付けた。


しかし、オスカーは何か手を打っているだろう。

さて、彼の天才はどう動くだろうか。



◇◇◇◇◇




「ミスティお姉さま」


「ん?」


会議が終わり、ミスティが会議室を出ると声を掛けられた。

十二位の騎士エクリアだ。


「貴方、謹慎中でしょ?」


「神剣は取り上げられていますが稽古は許可されています」


正直なところ、例の一件でエクリアはよくやった方である。

それでも謹慎処分が下ったのはシリル姫に対する現王の溺愛故だろう。


シリル姫が危険な状況に陥ったのは事実でそれの責任は騎士団が取るべきものである。


それを個人で被ってしまったのだから申し訳なく思っている。


「私は戦争には連れて行って貰えないのですね?」


「ええ、貴方の謹慎が明けるのを待つ事はないわ」


エクリアはミスティを師匠として敬愛していた。

実際、エクリアはミスティが育てたに等しい。

ミスティが新兵の頃から素人同然だったエクリアに剣術を教え込んだのだ。

エクリアには天賦の才があったのだろう。

わずか数年であっさりと達人の域にまで達した。


まだミスティの剣術の方が上だがそれもいつまで続くか。


師匠の立場で弟子に追いつかれるのはあまり気分の良いものでもない。

もっとも、ミスティも剣の技はエクレールという凄腕の冒険者に学んだだけなのでそんなに拘るようなものでもないのだが。


「御武運を」


「ありがとう」


頷いてミスティは後輩から離れ、歩き出した。

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