パーティ当日
4月11日 話統合 タイトル変更
パーティー当日。
グレンは、ノースリーブのかわいらしい白いワンピースを着ていた。胸元には3段のフリルの上にピンクの花が綺麗にならび、スカートの裾にもかわいらしい刺繍がほどこされている。ウエストは王家と宰相一族にのみ許されている、黒のリボンを巻き、後ろでリボン結びにしてある。
護衛にはパーティーの主役だからかアレクがついている。
「イーガ第一騎士隊隊長。視察はどうでしたか?」
「オリヴィア伯爵。ええ、話をしたいのはやまやまなんですが、今は護衛任務中なもので」
「アレク。いいよ。わたし、ユーリにいさまとおはなししているから」
グレンの言葉に一瞬アレクは黙り込むが、すぐにユーリの護衛についていたジョシュアをこちらに呼んだ。ジョシュアは側にいたケンの護衛についている、リヒトに目で合図をしてからかけてきた。
「ジョシュア。済まないが少しの間、グレンお嬢様を頼む」
声に出さず、深くジョシュアは頷きグレンを促してユーリたちがいる方へ歩き出した。
ユーリたちの元へたどり着き、アレクの方を見ると軽く微笑まれ、それからオリヴィア伯爵に向き直り話し始めた。
「グレン。どうしたの?」
「アレク、おはなしちゅうだから、にいさまにあいにきた」
「もう、なんてかわいいんだ」
グレンの言葉にユーリが抱きしめてくる。3歳児では苦しいくらいの力に目でケンに助けを求めた。
「はいはい。ユーリ。グレンが苦しそうだよ?」
ケンの言葉に力が緩められ抱きしめられていた腕の中から脱出する。
「ケンにいさま、ありがとう」
「どういたしまして」
感謝の言葉に優しく微笑まれてグレンもつられて笑った。
パーティーが始まってそろそろ2時間。会場隅にある振り子時計が8時を指すから間違いない。
アレクがこちらをちらちら見ていたので、かわいそうだからアレクを拾って、子供達は退散しようというところで、ユーリが言い出した。
「テラスで、空をみようよ」
「はぁっ?」
ケンが不思議そうな声を出す。それを見てユーリが説明しだす。
いつものベッドに入る時間では、空も見れない。普段は、別に見なくてもいいけど、今日はフリュール流星群の日だし、グレンの誕生日だから、見せてあげたい。
「ということらしいよ?」
ユーリの支離滅裂な言葉をケンが綺麗にまとめてくれた。
フリュール流星群は、年に4回起こる流星群の一つで、西のアスティア大陸の空いっぱいに流れる流星群だ。
本で読んだだけの流星が見られると聞いてグレンは、ワクワクが止まらなくなり、リヒトとジョシュアを見上げる。
「その目で見ないでください。わかりました、わかりましたから」
「少しの間だけですよ?」
優しい返事に浮かれるグレンは、ユーリに抱き上げられテラスへと向かった。
それは、ほんの一瞬のことだった。
貴族と話していたアレク、テラスの直前で伯爵妃に話し掛けられたリヒト、転びそうなメイドをとっさに助けたジョシュア、それぞれの意識がグレン達から離れたほんの瞬間。
テラスから中へ冷たい風が吹き込み、全身黒ずくめの集団が、グレン達を連れ去った。
黒ずくめの男達に小脇に抱えられ、グレンは困惑していた。視界に映るのは、地面と草、木だけ。さっきまでの位置から、ここが、城の裏手にある森だとわかった。
小脇に抱えられ動かない身体からどうにか首を動かして、周りを見る。前にはユーリを抱えた男。横には、ケンを抱えた男。
暗い森の中、微かな月明かりだけでさくさくと進む男達にグレンは恐怖を覚えた。
統率のとれた行動、エントランスでグレン達をさらった動きや暗闇でも動ける身体能力。これは、明らかに訓練された者の動きだ。
どうしようか、思案しているとケンと目があった。口の動きで何かを伝えている。
“だいじょうぶ”
その言葉にグレンは柔らかく微笑んだ。