予感
4月11日 タイトル変更
国民へのお披露目も滞りなく終え、自室までの長い道を歩いていた時、グレンの前にカレイラ州を任されている貴族、オーガスト伯爵が現れた。護衛なのか、兵士を二、三人引き連れている。鎧は無いが、引き締まった身体から相当の実力が見てとれる。しかし、グレンはその兵士に違和感を感じた。主である伯爵じゃなくこちらを探るように見てくる。
恐怖を感じ今日付けで護衛になったジョシュアの後ろに隠れる。
「これはこれは。グレン王女ではありませんか」
大袈裟な動きをつけて寄って来た伯爵は、明らかに待っていたのに、さも偶然であるかのように声をかけてきた。
オーガスト伯爵は見たところ50代。錆びたような赤色の髪に、同形色の口髭を生やしていて、目はくすんだ翠。
州を統治する貴族にしては品の無い目をした伯爵に、グレンは嫌な予感を覚える。
「何か御用ですか?」
ジョシュアが尋ねる。伯爵はジョシュアに冷めた視線を向けた後、グレンに笑いかけてくる。グレンは、その笑顔にどこか冷たい印象を受けた。
「いえいえ。何もございませんよ。偶然お会いしただけですから」
そして笑顔のまま、ねっとりとした絡み付くような言葉遣いで話しかけてくる。
「では、失礼します」
そのまま去っていくのをグレンは胸騒ぎを覚えながら、見送った。