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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
十話 討伐!アウラウネ
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2

「そろそろ着くぜ」 先頭にいるデイビスからの声が響いてきたのはお腹の空き始めた時だった。街道を逸れた向こうに緑覆い繁る景色が広がる。こんもりと帽子を冠せられたように見えるのは巨木『マウニ』の姿。ウェリスペルト近郊に広がるテオニスの森である。

「着いたはいいけど腹減ったな」

ディノの言葉にほっとする。このまますぐに捜索が始まってしまうものかと思ったのだ。実はお腹の空き具合もさることながら、すでに足がだるくなり始めていたりする。普段はインドア派だもの、しょうがない。ロレンツも同じような感じらしくしきりに腰を伸ばす仕草を見せている。

「じゃあ、すぐ向こうにある河原で休憩にするか」

デイビスの提案に嬉しくなるが、ふと疑問に思う。休憩はいいけどご飯どうするんだろ?この辺りは建物どころか民家も見当たらないし、もちろん皆、武器以外は手ぶらに見えるけど。しかし、

「はあ、飯だ飯だ」

なんて声も聞こえてくるではないか。首を傾げるわたしだったが、すぐに彼らの逞しさを見せつけられることになった。



「はー、きもちー」

わたしは川の中に足を突っ込み息をつく。腰掛けた丸い石も冷たくて気持ちがいい。夏場は雨が少ないからなのか流れも穏やかだ。泳げるほど大きな川じゃないけど、子供が遊ぶにはちょうど良さそう。

「はい、出来たよ」

ヘクターがわたしに即席の釣り竿を渡してくる。

「ありがとう」

わたしは「無理!」と言って付けて貰った釣り餌を見ないように受け取った。

わたしが馴れない竿を不器用に振った時、後ろから「ウサギ、獲ってきたぜ」という会話が聞こえてくる。うう、ちょっと振り返って見れないかも。

「いつもこんな感じなの?」

わたしが聞くとヘクターは「んー」と少し考える。

「場所にもよるけど、まあこんな感じかな」

「手慣れてるもんね」

わたしはすでに二匹の魚を釣り上げているヘクターに感心の声を掛けた。比べてこっちは水中に餌を提供するのみになっている。

「あ」

ぐいっと竿が引かれる感覚にわたしは慌てて腕を持ち上げる。が、

「……またダメだった」

はあ、と溜息をつく。そんなわたしを見てヘクターがにこにこと次の釣り餌を準備し始めた。その彼の横からディノが笑顔を向けてくる。

「俺の分、食わしてやるから大丈夫!」

釣りが得意らしく、すでに何度も魚を釣り上げているのだ。嬉しいし有り難いけど、わたしも一回ぐらいは釣りたいなあ……。

しかし残念ながら時間切れとなったまま、食事の席に着くことになってしまった。

くつろぐ戦士達が円になって火を囲んでいる。座るのに手頃な石が並んでいるのも皆が準備したのだろうか。赤々と燃える焚火に、その周りにはサラが何かの肉が刺さった串をかざしている。やって来たわたしを見て、

「どうだったー?」

と尋ねてきた。わたしは無言で首を振る。あらら、という顔になるサラの向こうから嫌味な声が投げられた。

「何の役にも立たねえな」

へっ、と小ばかにするのはアントン。奴の絡みにも大分耐性がついてきたわたしは大きく胸を張る。

「あのね、その燃えてる火は誰がやってやったと思ってるの?」

「俺だろ」

ロレンツの突っ込みに大きく頷くと、わたしはびしりと彼の黒いローブを指差した。

「そう!ソーサラーの力がやったのよ!すなわち『わたし達』のお陰でしょうが!」

わたしの無茶苦茶な理論にロレンツはだんまりを決め込み、サラはぱちぱちと拍手する。こういうのは自信満々に言い切った者勝ちだ。

「はあ!?何訳わかんねーこ……」

目を吊り上げるアントンの頭をデイビスが殴りつけ、座るよう指示した。わたしも素知らぬ顔で石の上に座り込む。

「さてと、食いながらでいいから聞いてくれ。この後森に侵入するが、とりあえず二人組で六方向からばらばらに侵入、中心部のマウニの巨木を目指すように進んでくれ」

デイビスはそう言うとサラ、わたし、ロレンツを指差していく。

「サラは俺と、リジアはヘクターと、ロレンツはディノで良いよな」

名前を挙げられたわたし達は一斉に頷いた。

「他は適当に二人組になってくれ。目標が見付かった場合はすぐに合図を出すこと。だから『クラッカー』の魔晶石持ってる奴と組むようにしてもらった方が良いな」

デイビスが言う『クラッカー』の魔晶石は空砲を撃ち鳴らすことが出来る。今回のような広範囲の野外活動の時によく使われるものだ。もしわたしとヘクターがアウラウネを発見したら、代わりに何を唱えようかなー、なんて事を考えていった。



お腹を満たしてくれた残骸や火の周りを片付けつつ各自、組みになった二人で話している中、

「何で俺がこいつとなんだよ!」

アントンが一人露骨に嫌な顔をして荒々しい声を上げる。彼の指差すのは赤みがかった茶髪に大きな目をした女戦士エルナ——問題の彼女である。

先程デイビスが明らかに適当な様子でさっさと組みを決めていったのだが、すっかり『事情』を忘れていたらしくアントンとエルナを組ませたのだ。言った瞬間の皆の凍りようは凄まじく、デイビス自身もそれで思い出したらしかったが変に撤回する方が拗れると考えたのだろう。そのまま何も無かったように振る舞っていた。

「何言ってんだよ……、お前『クラッカー』持ってないんだろ?エルナはきちんと用意してあるんだから逆に感謝してやれよ」

デイビスが『また始まった』と言わんばかりに溜息つきつつアントンを諌める。その隣り、当のエルナは指名された先程もアントンが騒ぐ今も、大きな目をあまり動かすことなく無表情だ。イルヴァのように生まれつき表情筋が少ないタイプなのか、それとも殻に閉じこもっているのかはわたしには分からない。

「鈍くせえから嫌なんだよ、こいつ。辛気くせえし」

アントンが腕組みしつつ吐き捨てた言葉にわたしはむっとする。そこまで言わなくても良いじゃないの。っていうか周りの雰囲気が悪くなるのが分かんないのかな、こいつ。

「あんただって人様に文句付けられるような人格してないんだから良いじゃないの」

思わず言い放ったわたしの言葉にサラがぎょっとする。

「な、何だと!?」

顔が赤くなるアントンにわたしはまずいかな、と思いつつ止まらない。

「だーかーら!男のくせに文句が多いの!……いや男とか関係ないわね。とにかくあんたは自分のことは棚に上げて文句が多い!」

わたしがびしり、とアントンに人差し指を突き付ける後ろで、

「こいつも気だけは強いよな。苦労してない?」

ロレンツがヘクターに余計な事を言っている。わたしは急いで振り返りロレンツを睨んだ。

「可愛くねえ奴だな!」

アントンが叫ぶとデイビスがその彼の頭を殴りつける。ようやく大人しくなった。ふとエルナを見ると初めて見せる驚きの顔でわたしをまじまじと見ていた。が、わたしは何となく恥ずかしくなり目を逸らしてしまった。

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