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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
九話 さえずり響く前夜祭
29/39

3

声が与えられた喜びに浸る人形達、その数の多さからグラウンドは蜂の大群かと思うような音の波で包まれていた。

「皆喜んでるな」

「そりゃあそうだろ」

「話したくてしょうがなかったからな」

アルフレートの隣で話しているのは始めに声を与えてやった数体だ。そのうち口を閉ざすと、意味ありげにこちらを見ている。

「……やっぱりアレもやるのか?」

そう言ってアルフレートが指差すのは異質な一体。リジア作成の巨大な人形だ。

「そりゃあ、ねえ……」

「あいつだけ声出ないままじゃ可哀想だろ」

人形らしからぬ慈悲の心にアルフレートは思わず舌打ちする。しょうがない、取りかかってしまったのは自分なのだ。そう自分を鼓舞するとアルフレートは立ち上がった。

「おい、そこのでかいの、こっちに来い」

アルフレートが腕を組みつつ見上げると、巨人人形は窓を拭く手を止めて自らの顔を指差した。小首を傾げる姿は「俺のことっすか?」と言っているように見える。

「そうだ、お前だ。お前も声が欲しいだろう?」

そう問うと巨人人形は何度も首を縦に振った。

傍らに寄って来た彼を座らせるとグラウンドがずうん、と揺れる。アルフレートはブロンズ像を置くと呪文を唱え出した。呪文を口にしながらアルフレートは思う。こいつはどういう声なのだろう。普通の人形達が甲高い声なのは声帯の大きさからだろうが、こいつはこのでかさだ。やはり野太い声なのだろうか。想像し吹き出しそうになるが何とか堪える。気が付くと小さな人形達も固唾を飲んで見守っているようだ。

なんだ?何がそんなに心配なんだ?そんな疑問が頭によぎった時、呪文が完成した。溢れる光。アルフレートは目を細めた。

「……どうだ?」

静まった光が集まっていった先、巨人人形のきょとんとした顔を見ながらアルフレートは問いかける。周りの人形達の「ごくり」と喉を鳴らす音が聞こえた。

「……あ、あー、あ〜」

喉元を擦りつつ、声を確かめるように話し出すその声は予想に反して大分高い。小さい人形達よりは低めだが、その甲高い声をゆっくりさせたような不自然な声だ。

「……リジアは?」

巨人人形の言葉にアルフレートは「は?」と問い返す。

「リジアは?リジアはどこ?」

「な、なんだ、初っ端がそれか?」

アルフレートは顔をしかめる。巨人人形は辺りをきょろきょろと見回し不安げな顔だ。そのうち大きく顔を歪ませる。

「……リジアは?いないの?いない……うお〜ん」

びりびり!と音の圧が体を押してくる。アルフレート、人形達も思わず足を踏ん張る。巨人人形がしゃくり上げる度に校舎の窓が揺れるのが分かった。涙が頬を伝っている様子はまるで子供だ。

「な、な、なんだ!?」

「こいつ何時もリジアを探してたからなあ」

「今日は休みだ、って言い聞かせても分かんないみてえだし」

「やっぱりこうなったかあ」

口々に言う人形にアルフレートは詰め寄る。

「なんで分かっていたんだ!?」

「俺達は声を出せなくても、何となく意思の疎通は出来るんだよ」

「……なぜそれを先に言わなかった?」

それが分かっていたらこんな面倒な奴には声を与えていなかった。……だろうか?面白がってやっていた気はしないでもない。

アルフレートは何事か、と校舎を飛び出してくる教官達の姿を見ながら「失敗したな、私にしては珍しく」と呟いていた。



「おはよう、リジア」

窓から覗く巨大な顔を前にリジアが頬を引き攣らせていた。

「お、おはよう」

話しは聞いていたので覚悟はしていたものの、やはりびびっているらしい。しかし自分を慕ってくれるのは嬉しいのか、笑顔で調子などを尋ねている。

「しっかしすごいことやったわね、アルフレート」

リジアは窓から離れるとアルフレートに振り返り尋ねる。

「……まあな」

仲間はバンダレンの町から頂いたお宝を知らないのだ。入手経緯を説明するとうるさいかもしれない。アルフレートは曖昧に言っておくことに留めることにする。そうすれば「何かよくわかんないすごい術を使った」で済む。

「おはよー」

ミーティングルームに入ってきたヘクターが挨拶を終えると、窓から見える顔に目を丸くしている。

「な、なんか今しゃべってなかった?」

ヘクターが窓を指差し尋ねてくるのでアルフレートは頷いた。

「……俺、こいつ嫌い」

巨人人形がヘクターを指差した。

「あら、珍しく嫌われちゃったじゃない」

ローザが言うとリジアが巨人人形を窘める。

「こら!そんなこと言ったら駄目じゃない」

「だってリジアはこいつのことす……」

「だあああああ!!何わけわかんないこと言い出すの!」

リジアが大声で止めると巨人人形はしゅん、とうなだれた。

「いっちょ前に嫉妬するわけか」

アルフレートが呟くとまた新しい顔がミーティングルームに入ってきた。イルヴァとフロロである。

「おはようございまーす」

「うはよー、体育祭のゴーレム、間に合ったらしいね」

フロロが言うとローザが反応した。

「あら、ラブレー教官がんばったんじゃない」

「いやいやそれがさ……」

「だらあああ!こうらああああああ!!エルフっ!エルフの野郎はどこだあ!?」

フロロの声をかき消すような怒鳴り声が廊下から響いてくる。全員が顔を見合わせた時、部屋の扉が開け放たれた。

「……いた!おいぃいい!どういうことだよお!」

アルフレートに詰め寄る血走った目はラブレー教官のものだ。

「朝から血圧高いな。血管切れるぞ」

「高くもなるわ!おい!ゴーレム作りと人形の成果!あんたのお陰ってどういうことだよ!!」

「私がやったんじゃないか」

アルフレートがしれっと答えると教官は更に近づき縋り付いてくる。

「……だからって学園長にわざわざ報告するのか!?お陰で教官室がぱあだ!」

それを聞いて「ああ……」と呟いたのはローザだった。

「そういや言ってたわね。今度なんかあったら個人教官室取り上げる、って。それが一番堪えるようだから」

ローザが言っているのは学園長の言葉だろう。

「そうなんだよ、俺、教官室が無くなるのが一番くるっていう……って何言わす!?」

「うるさい人ねえ……」

ローザが教官に顔をしかめる。部屋に響く教官の怒鳴り声。自分達6人にいかに迷惑を掛けられたかの呪いの言葉を吐き終わると、今度は涙声に変わった。すると、再び部屋の扉が開け放たれる。入ってきたのは数体の人形達。

「さあ帰るぞ」

「迷惑かけたな」

「大人しくしろよ!」

彼らはラブレー教官を持ち上げるとそのまま部屋を出て行く。廊下から教官の悲鳴が遠ざかるのが聞こえた。

「まーた良いところはアルに取られたってわけか」

フロロが隣りにくるとアルフレートに囁いた。アルフレートは大きく頷く。

「当然だろう。私こそ主人公にふさわしいのだから、ふふっ」

部屋に響くアルフレートの不気味な笑い声に、仲間は揃って顔をしかめるのだった。



fin

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