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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
九話 さえずり響く前夜祭
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「さ、連れてきたぜ」

パイプ椅子に座り本を呼んでいたアルフレートに教官が声を掛ける。アルフレートが顔を上げると演習場に新しく現れた十体程の人形達。巨人人形では無くフロロ程の身長の小さい方だ。どれもこちらを見上げているがどうも態度がよろしくない。にやにやと笑っていたりふてくされていたり、良く言えば人間くさいかもしれない。

「……あんたが命を吹き込んだ分、ってやつか」

「俺の号令に駆けつけるのはこいつらだからなあ。……よくわかったな?」

リジアの話しだと最終の仕上げをした人間の特性を受け継ぎ命令をきくようだ、ということだった。アルフレートは「まあいいか」と呟く。

「よく聞け、人形達。これから私が声を授けてやる。どうだ、嬉しいかね?」

人形達にアルフレートが尋ねると、やっぱりにやにやと笑っていた。

「声を出せるようにしてどうするんだよ」

真っ当な教官の質問にアルフレートは鼻を鳴らした。

「手伝わせるんだよ、ゴーレム作りを」

そう言ってブロンズ像を床に置く。像がゴトリ、と音を立てると素早く呪文の詠唱を始めた。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!手伝わせる、ってそんなこと出来るのか!?」

「知るか」

詠唱の合間に言われた答えに教官は目を大きくする。い、いい加減だ。いい加減すぎる。大体、今アルフレートが唱えるのは古代語じゃないか。ということはこのブロンズ像は古代文明時代の宝物ということだ。

「マジかもしれねえ……」

教官は『美声を授ける』といううさんくさい像の能力を信じ始めていた。見た目も麗しいエルフの朗々たる呪文の詠唱が空気中のマナを震わせる。辺りに不思議な光の粒が集まり出すとアルフレートは身振りを大きくし始めた。

「うお!?」

巨大な光の波が演習場を飲み込む。目をくらませる突然の発光にラブレー教官はたじろぐと腕で目元を覆った。

「くっ……っつ!」

教官は瞼越しの光景が元の暗さになったことを確認すると、恐る恐る目を開いて行く。目の前には先程までと変わらずアルフレートと自分の分身達がいた。ほっと息をつく。

「ど、どうなった……?」

「どうもこうもねえよ、この薄のろ」

妙に甲高い声に教官、そしてアルフレートも目を大きくした。

「あ、喋れるぞ」

「本当だ」

「うはは!これで文句の一つも言い返せるようになったわけだ」

「やったぜ!」

次々に人形達が騒ぎ出し、演習場を駆け回る。

「な、な……」

「成る程、作り手の性格を受け継ぐ、ね」

アルフレートの言葉に教官は慌てて噛み付いた。

「どこが俺に似てるんだよ!ここまで口は悪くねえ!」

そう叫ぶとしん、と静まり返る辺りに教官は気まずさから振り上げた手はそのままに動きが止まる。ふ、と見下ろした視線の先に人形達がにやにやと笑う姿があった。

「……何叫んじゃってるんだか」

「空気読めないんだろ、研究ばっかの生活で」

「だから嫌われてるんだ、生徒にも同僚にも」

ぼそぼそと囁かれる人形の声は、妙に甲高いことを抜かせば自分の声質によく似ている。ラブレー教官は「よけい腹立つ」と舌打ちする。

「まずは成功というわけだ。次は実際にゴーレム作りを手伝えるのかやってみるか」

アルフレートが腰に手をあて呟くと、人形達はこくこく、と頷いた。

「はあ、じゃあ教えてやるからこっち来い」

覚悟を決めた教官も溜息をつくと用意されたゴーレムの元に手を伸ばす。

「……早く来いっつってんだろ、今から見本見せるぞ!」

そう人形達に怒鳴りつけると、彼らはひそひそと耳打ちし合い、にやにやと笑いながらラブレー教官を指差した。

「……くっ、かわいくねえ!」

「まあまあ、ここを超えれば後は楽だぞ?」

アルフレートの言葉に再び人形達はこくこくと頷いている。なぜだ、なぜこうも態度が違うんだ。ラブレー教官は「強い者に弱い」という自分の特性は理解出来ないままだった。

「問題はこいつらが魔力を持ってるか、ってことなんだよな」

教官は頭を掻いた。魔力を使う術が無ければゴーレム作りは出来ない。彼の研究の成果であるゴーレムの素を使おうともそれは同じだった。

「あんた意外と自分を信じてないんだな」

アルフレートが言い放つ言葉にラブレー教官は首を傾げる。その様子を横目にアルフレートは人形達に近寄り目線を合わせた。

「君達はあの男の細胞を受け継いだ優秀な子供だ。あの男だって曲がりなりにも魔術で飯を食ってるんだからな。必ずやれる」

アルフレートの言葉に人形達はこくこくと頷いている。教官は苦々しく思いつつも再び手本を見せる体勢へと移ることにした。

「呪文は簡単、それにコツみたいなものも無い。きちんと呪文を唱えれば出来ることなんだ。……人間ならな」

教官は手に持った土の塊を掲げつつ呪文を唱えていく。アルフレートは初めて聞く術法に興味深気に聞き入っていた。

「さあ、やってみろ」

ゴーレムの素である土の塊を手渡すと、ラブレー教官は人形達に命令する。人形の一体が甲高い声で呪文を唱え出すと、他の人形達もつられて詠唱に入る。

「ラ・ウォー」

最後の力ある言葉が紡ぎ出されると、途端に土の塊が発光しだした。

「お、おお……」

アルフレートと教官は同時に呟く。むくむくと膨らむゴーレムの素に教官は実験の成功を確信した。人形と同じ数の土のゴーレムが並ぶ。ゴーレム達はびしっと敬礼すると既に出来上がっていたゴーレムの列へと加わっていった。

「……す、すげえ」

ラブレー教官はあらためて目の前の光景に感嘆の声を漏らすとアルフレートの手を取る。

「すげえよ、あんた!天才だ!」

「おい、それは褒めてるのか?『そんなこと』は『知っている』。他の言葉を使うんだな」

冷たく言い放つアルフレートに教官は「エルフってこんなんだったか……?」と呟いた。

「ま、いいや。これで一件落着、と」

踵を返すラブレー教官にアルフレートは声を掛ける。

「帰るのか?」

「おうよ、久々にまともな飯食えるようになったからな。……おい、お前達、ちゃんと残りの分もやっとけよ!そうしないと後でひでえからな!」

演習場の扉に手を掛けながら指差す教官に、人形達はひそひそと耳打ちし合うとにやにや笑った。

「……おい!変な事考えるなよ!明日来てみて、進んでなかったら俺にも考えがあるからな!」

ふん、と鼻をならすラブレー教官に、やっぱり人形達はにやにやと笑うのだった。



「予想外に真面目なんだな」

アルフレートは教官が去って行った演習場内、黙々と作業を開始した人形達に声をかけた。

「……俺は実はあの教官が仕上げた個体じゃない」

人形の一体が答えた甲高い返事にアルフレートは頷いた。

「気が付いていた」

「やっぱそうか、あんた色々分かってそうだもんな」

人形はにやにやと笑うと真顔に戻る。

「俺はリジアが『仕上げた』個体だ」

「俺はカーチャの分だ」

「学園長が俺達に学園を警護する役目を与えた時点で、俺達は人間の命令なら聞くようになっているんだ」

「人間っていってもあんたみたいなエルフでも、だぞ?」

口々に言う人形達にアルフレートは大きく頷く。人形達は満足そうに笑った。

「でもな、誰の命令でも聞くようになったことで弊害も生まれたんだ」

「誰の命令でも聞くけど、聞きたくない奴もいるってことに気が付いたんだ」

「ほう」

アルフレートは面白い話しだ、とばかりに顔を上げた。

「学園の部外者が勝手に侵入した場合は、もちろんその犯人の言うことなんかは聞かないように命令されてるけど、そうじゃなくてこの学園の人間だとしても、俺達が勝手に『聞きたくねえな』と思うこともあるようになってきたんだ」

「『あそこ掃除しとけ』とか、ああめんどくせえな、と思うけど、でもやってやるか、って思える人間と、誰がやるか!って人間がいるんだ」

「ラブレー教官はどうなんだ?彼は『聞きたくない』人間の方かね?」

アルフレートが尋ねると人形達は顔を見合わせた。

「……聞きたくない方、かな。でもあいつのお陰で俺達が存在してる、っていうのも分かってるよ」

「それが余計しゃくに触るけどな。あいつ、命令の仕方がむかつくんだよ」

「また俺達に『似てる』のがムカムカするし、気持ち悪いんだよな」

なんだかあべこべな答えにアルフレートは吹き出しそうになった。それを堪えると再び彼らに質問する。

「しかし今、君たちは彼の命令を聞いているな。それはなぜだ?」

人形達はまた顔を見合わせた。

「……皆が困るから、だよ。リジアやカーチャ、学園長みたいに『命令を聞きたい人』が困るからだ」

「体育祭が出来ないと困るだろ?」

「別にやりたくないみたいだったけど、でももし出来なかったらリジアは気にするだろ?」

「俺達を作った日にやった失敗を、自分のせいだと思ってるからな」

人形達の答えにアルフレートは目を大きくする。そしてにやりと笑った。

「そういう考えを『人間らしい』というんだ」

人の話しを聞き、拒否をし、そして連鎖する人間関係を予想し、配慮する。予想以上の考え方に感嘆すると共に、アルフレートは思う。

「……学園長があいつの研究レポートを破壊してよかったな……。明らかにあいつのキャパシティを超えた出来だ」

「何?」

「いや、何でも無い」

アルフレートは首を振ると、働く手を休めない人形達を見回した。

「その像、すごいね」

「何でそんなもの持ち歩いてるんだ?」

人形達がアルフレートに聞いてくるが、アルフレートは黙っていた。

「……聞かない方が良かった?」

「悪いな」

「……いや、いいんだ」

アルフレートはそう言いながら苦笑した。へんな状況だな、と。

「お願いがあるんだけど」

「他の奴らにも声を与えてやれないかな」

「無理ならいいんだ」

変にもじもじする人形達はもはやラブレー教官の影は無いように見える。リジア達の影響が入っているせいかもしれない。アルフレートはゆっくりと立ち上がった。

「珍しい現象を見られたお礼だ。やってやる。……それに、作業を終えるには働き手が多いにこした事はないだろう?」

アルフレートの返事に人形達は手を叩いて喜び一通りはしゃいだ後、アルフレートに向かって揃って頭を下げた。

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