5
学園の校舎最上階、屋上のフェンスからヴェラ、モロロ族の五人はグラウンドを眺めていた。夜の学園のグラウンドは見慣れないからか、違う空間にも感じる。ふわりふわりと漂う『ライト』の光が祭りの会場を思い起こさせる幻想的な世界。
「リジアさんの責任は問われないみたいですね、あの様子だと。良かった」
袋だたきにあうラブレー教官の姿を見つけ、ヴェラはほっと息をつく。
「俺達はつまんなかったぞ、今回」
ニウロが口を尖らすとカロロもそれに乗っかる。
「なー?ぼけっとグラウンド見てただけだもん」
「でもちょっと面白かったよ。リジアが巨人に乗っかって悪の親玉みたいになってたもん」
パウロはそう言うとケラケラと笑った。学園長の言葉を思い出しながらボンヤリとしていたフロロも、思わず笑ってしまった。
「で、姉ちゃんの方は今日は良い勉強になったかい?」
カロロが聞くとヴェラはふっ、と目を伏せる。
「なりすぎる程でした……。盗賊の役割、適性、嫌って程分かった気がします。これも全てフロロさんのおかげです」
淡々と言いながらも気持ちが篭った言葉にフロロは頬を掻いた。正直、大した事はしていないのだが今それを言うと妙にキザな台詞になってしまう。返答を困っているとヴェラが続ける。
「でも思ったことがあるんです」
「何なに?」
パウロがヴェラとフロロの顔を見比べた。フロロは肩を竦める。
「『良い盗賊』とは、ってことです。聞き込みの仕方、潜伏、鍵開け、それに情報を嗅ぎ分ける能力。……フロロさんと行動して思ったんです。あなたたちモロロ族の先天的な能力に比べて、私は力無さ過ぎる」
フロロ達四人は顔を見合わせた。確かに耳の良さ一つとってもモロロ族と人間のそれでは違いがはっきりしている。経験では埋められない差かもしれない。それ故にフロロはどう答えるべきか分からなくなってしまった。それでも場の雰囲気からか口を開く。
「いや、『盗賊向いてない』なんて言った俺が言うのもなんだけど……」
「だから私決めたんです」
フロロの声を遮りヴェラが言った言葉に思わず声を引っ込める。ヴェラは仁王立ちすると胸を張った。
「自分の盗賊像を追い求めることにしました!私らしさを考えるのが一番だと思うんです!」
「あー……で、それは何なの?」
フロロが聞くとヴェラは右手の人差し指をびしっ、と立てる。
「『正義の盗賊』です!かっこいいでしょ!」
モロロ族の四人は答えられない。黙ってキラキラとしたヴェラの瞳を眺めるしかなかった。漸く口を開いたフロロが再び尋ねる。
「……どういうものなの?それは」
「まだ分かんないです!これから考えます!」
盗賊の仕事を悪だというのは乱暴だと思うが、確かに聞き込みや鍵開けなど真っ当な仕事とは言い難い部分もある。そういう影の部分があることは確かだが、ヴェラが言う『正義』とは何なのか、彼女の性格を考えると想像したくない。
「そう、良いんじゃないかな……」
「でしょ!?でしょ!?ありがとうございます!」
フロロにお墨付きを貰ったことでヴェラは大きく胸を張った。
「……だめじゃん、フロロ。全然教育出来てない」
「めんどくさいから『良いじゃん』って言っただろ」
「なんだ?正義の盗賊って……」
口々に小声で囁く仲間にフロロは手を振る。
「もういいよ……、面倒くさい」
仁王立ちして空を眺めるヴェラの瞳に映るのは明日への希望、といったところか。夜になって冷えた風が首を撫でるのが心地良い。モロロ族達は月明かりに照らされて浮き上がるヴェラのシルエットを黙って見つめていた。
fin