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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
八話 盗賊の育て方
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1

「……というわけで、このクラスからもお手伝いを出すことになりました、っと。適当に二、三人ぐらい決めて、係に決まった人は放課後残ってねー」

どこか薄暗い教室内、やる気の無い声で生徒に呼び掛けるのは、シーフクラスを受け持つシャイエ教官だ。投げナイフや暗器の扱いを専門にする女性教官である。それに応える生徒もやる気が無い。盗賊が集まるこのクラスには単なる興味本意で学園に集まった者ばかりだ。ちょっとした情報収集にも都合が良い為に在籍しているが、学園の生徒が楽しむようなお祭りにはあまり興味をそそられない。

窓際の席で足を机に放り出し腕を組むフロロもそれは同じことで、今教官の話した「体育祭」なる行事にもあまりわくわくとした感情は湧いてこなかった。リーダーがそんな調子なら仲間も同じこと。同じモロロ族の三人、カロロとニウロ、パウロも教官の話しなどおかまい無しにおしゃべりを続ける。

他の生徒も似たようなものだ。協調性など皆無といっていいメンバーの集まりでの係決めは、話し合いなど意味を持たない。シャイエ教官もそのあたりは充分心得ているので、自分の好き勝手な指名に変更することにした。

「どーいーつーにーしーよーうーかーな、っと」

生徒の頭を指差しながら教官が呟いていると、

がたん!

一人の生徒が勢いよく立ち上がり、手をまっすぐ伸ばした。

「私にやらせて下さい!」

プラチナブロンドを綺麗に短く整えた女生徒に、シャイエ教官は笑顔のまま眉を上げる。真っ直ぐで真面目だが少々問題のあるヴェラ。正直気乗りのしない立候補者だが、他を探すのも面倒ではある。

「ま、いっか」

シャイエ教官はそう言って頷いた。

「でも一人じゃ厳しいかなー?他にやりたい人ー?」

教官の言葉に皆、一斉に目を反らす。ただでさえ面倒な仕事に、ヴェラという要素まで加わってはやりたい理由を探す方が難しい。教室内のぴりぴりとした空気にフロロはふっ、と笑いを漏らす。ヴェラの不人気振りも大したものだ。入学当初はちやほやとする者も多かったというのに。フロロがニヤニヤと人間達を見ていた時だった。

「フロロさんが良いと思います」

真っ直ぐとこちらを指差すヴェラに、フロロは椅子から転げ落ちそうになった。モロロ族の仲間も驚いてフロロとヴェラを交互に見る。

「な、なんでだよ!」

フロロが噛み付くと他の仲間からも「なんでだー」「なんでー?」と騒ぎ立てる声が上がった。ヴェラはゴニョゴニョと口を動かしている。

「い、一番器用ですし、何でも出来るからです!」

明らかに適当な理由付けにフロロはイライラするが、周りの生徒からもそれを後押しする声が上がり始めた。

「そうだなあ、仕事は罠設置みたいだし、フロロが一番良いんじゃない?」

「カロロ達も参加してやれよ」

好き勝手な言い分にシャイエ教官がパンパン、と手を叩き止めに入った。

「はいはい、お前らはやりたくないからって人に押し付けない!」

教官の言い方にてっきり任を外れると思ったが、フロロは続く教官の言葉にがっかりする。

「でもヴェラの人選も悪くないわね。というわけでおチビちゃん達、よろしく」

フロロは反論しようとしたが、窓の外にちらりと写った景色に口を止めた。グラウンドの向こう、第二演習場の方角だ。金色の見慣れた頭が動いている。リジアだ。隣にもう一人少女がいるが、それは誰なのか判らない。

「……まあやってもいいかな」

リジアが何か行動している。面白そうだ。フロロは視線は窓の外のまま、にやりと笑い呟いた。



プラティニ学園の体育祭は「体育」と名付けているものの、他の教育機関で催されるものとは毛色が違っている。徒競走や玉転がしといった代表的なものが無い代わりに取り行われるのが『狩り』である。学園の教官が造りあげた傀儡を片っ端から狩っていき、倒した数で勝敗が決まる。学年対抗戦にしているせいか最上級生である六期生が主役になるイベントになっていて、下級生には余り評判はよろしくない。それが何故ダラダラと毎年開催されているのかというと、一番楽しみにしているのがこのプラティニ学園の学園長であるからに他ならない。

まああのおっさんがやりたいならしょうがない。フロロは学園長の顔を思い出し納得する。

「さあて、と。ちゃちゃっと終わらせちゃうわよー」

シャイエ教官が大きな箱を抱えながら、フロロ達が待たされていた廊下へやって来た。

「何が入ってるの?」

「良いもの?」

「食べ物?」

シャイエ教官は足に絡み付くモロロ族達を適当にあしらうと、ボスン、と音を立てて箱を床に置いた。

「アラームなんかのトラップを適当に持って来たから、学園中に設置してちょうだい」

フロロは教官が持って来た箱を覗いて見る。

「煙幕弾に鉄線のスネアにトラバサミか。結構えぐいな」

ふと手に当たった爆発物にフロロは顔をしかめる。生徒が怪我をする心配は無いのだろうか。

「大丈夫でしょ、皆頑丈だし」

教官の言葉には愛があるのか無いのか、いまいち掴めない。フロロの横から箱を覗き見ながらヴェラが首を傾げる。

「でも私達が罠設置するなら、私達二人は罠の場所も種類も把握してることになりますよね?不公平にはならないんですか?」

いかにも真面目な生徒の質問にシャイエ教官は苦笑した。

「別にいいでしょ、このぐらい。手伝ってくれるんだし。役得ってやつよ」

それに、と教官は付け加える。

「ソーサラークラスの生徒も傀儡作りを手伝ってるらしいから、その子達だって有利にはなるわよね」

「だってさ」

「見に行きたいな」

「面白そう」

カロロ達が口々に言うのを教官が手で制す。

「こっちが終ったらね。これだけじゃなくてまだまだあるのよー。それを来週までにやっつけちゃわなきゃいけないんだし」

シャイエ教官はのほほんと言うと立ち上がった。

「じゃあ私はグラウンドの方に落とし穴作りに行かなきゃいけないから、こっちはよろしくー」

教官がそう言って立ち去ると、ヴェラはゆっくりとフロロ達に向き直る。

「勝負しませんか!?」

びしり、とフロロに指を突き付けながらヴェラは言い放った。

「……勝負だって」

パウロがひそひそとフロロに耳打ちしてくる。フロロはひょいと肩を竦めると「こんなことだと思った」と呟いた。

「この前のクエストで私が足を引っ張ったのは事実です。でもあなたの言葉に私は自尊心を傷つけられました!」

「……この前、って?」

ニウロがカロロに小声で尋ねた。

「このあいだまでフロロが出掛けてたアレだろ?音楽祭がどうのって……」

「ああ、この姉ちゃんが聞き込みもまともに出来なかったってやつか」

パウロの言葉にヴェラは頬を引き攣らせる。

「と、とにかく!私の中であなたを越えなくてはこの先、前に進めない気がするんです!」

『気がする』とはまた随分曖昧な言い分だな、とフロロは頬を掻いた。カロロが面白そうだ、とニヤニヤしつつヴェラをからかう。

「そんなこと言ってもさあ、姉ちゃんじゃフロロには適いっこないよ。フロロは僕達の中でも器用なんだぞ?」

「あれだろ?フロロに『盗賊向いてない』なんて言われちゃったからムキになってるんだ」

パウロもからかいの輪に加わった。

「そういやそんな事言ったっけ」

当のフロロが言うとヴェラは顔を赤くする。

「い、言いましたよ!ひどいと思わないんですか!?」

「酷いも何も、本当のことじゃん」

フロロはあっさり答えた。ヴェラは言葉をつまらせる。

「なんで酷いんだ?」

「人間の中じゃ、本当の事でも相手が傷つくから言っちゃいけないんだって」

「なんだよ、変なの」

わーわー騒ぐモロロ族にヴェラが「うるさい!」と怒鳴る声。フロロは耳を塞いだ。

「別にいいけどさ、勝負したって。どっちが多く罠の設置が出来るか、でいいの?」

フロロの質問にヴェラは落ち着きを取り戻すと大きく頷く。

「そうですね。この箱が空になるまで、が勝負です。三人には判定員になってもらいましょう」

指差されたカロロ達は顔を見合わせた後、くすくすと笑った。

「僕達、何もしなくていいんだね」

「ラッキーだね」

「おい、グラウンド行こうぜ!」

駆け出す三人のモロロ族に再びヴェラが怒鳴る。

「人の話し聞いてください!」

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