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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
七話 呼ばざる者、応える者
21/39

6

「よく分かりましたよ」

わたしの話しを聞き終えた学園長は深く頷くと紅茶を口に運んだ。場所は学園の応接室。お偉いさんが来た時などに使う部屋だからか、やたら豪華な内装だ。フカフカのソファーにもたれていると疲れからか眠くなってしまう。メンバーはわたしとヘクター、メザリオ教官、ラブレー教官、そして学園長。……とカーチャ。

そんな端っこにいるんだもん!忘れそうにもなるよ!

「間違いないな?」

メザリオ教官がラブレー教官に尋ねる。

「は、はい」

ラブレー教官はしおらしく答えた。そりゃそうだろう。わたしが話した説明は我ながら事実だけの脚色無しだったし。勿論「わたしが」巨人人形を作り上げたことも話した。変に隠したりしない方がラブレー教官の反論を防げるだろうから、有りのままだけを話したつもりだ。

「管理が甘い教官の責任ですね。あなたは気にしなくてよろしい」

学園長はそうはっきり言うと、ニッコリと微笑む。か、神や。神がおる……。

メザリオ教官が大きな溜息をついた。てっきりわたしの暴走を咎めるのかと思ったら意外な話しをする。

「この前の騒ぎで自分の……いや生物の細胞を使う実験は止めるように言っただろう。しかもリジア・ファウラーの特殊体質を知っていて作業を止めなかったのは、教職者として考えられない」

グラウンドでの学園長の話しにもあったな。気になったわたしは遠慮なく聞いてみる。

「2回目、ってことですか?」

「注意を受けたのが、だな。普段から何の研究をしているかなんていちいち詮索はしない」

メザリオ教官はそう言うとラブレー教官の頭を叩いた。詮索しない、というのは一定の信用を持っていることが前提だ。それを裏切った罪は重いと思います!

「自分の爪を媒体、とか言ってたな、前回は。幸い制御の出来ない出来損ない、というだけで力は無かったし、騒ぎが起きたのも放課後遅かったから被害は少なかったが」

「で、でも前回はすぐに危険に気が付いて、自分で処分しましたよ?それに危険を冒さずに研究において何の進歩があるんです!?」

ラブレー教官は早口に捲し立てる。

「前回もあなたはそうやって反論しましたね。なぜ私が禁止したかわかりますか?」

淡々とした学園長の言葉にラブレー教官は暫く口を閉ざすと、首を振った。それは学園長の言葉が分からないというよりは、自分が周りに理解されない、という仕草に見えた。

「あなたが生徒に物を教える立場だからです。真理を追求するだけの研究に没頭したいならそれはそれでいい。でもそれなら教官という職を辞めてもらいたい。……生き物の細胞というのは未知の部分が大き過ぎる。今回のような大きなトラブルを起こす可能性が大きいんですよ」

学園長の話しは流石は神職の人間といったところで、ラブレー教官も反論は無くなった。が、すぐに顔を上げる。

「『研究を続けるなら教官を辞めてもらいたい』ってことは、クビにはならないんですか!?」

言葉を良いようにしか受け取らないやつだな、とわたしは呆れそうになったが、学園長はにっこり頷いた。ええ!いいの!?ラブレー教官以外が眉間に皺寄せ、ラブレー教官が満面の笑みになったところで学園長は口を開く。

「職務は全うしないとね。……来週の体育祭までに、使用するゴーレムを一人で揃えたら、ということにしましょう。こちらの事情だけで体育祭を中止にしたら、生徒が可哀想です」

「え、それは……、今回の分も1年がかりだったんですが……」

頬をひくつかせながらラブレー教官が呟くが、学園長は笑顔のままだ。

「それは特殊な媒体、などということをやったからでしょう?普通のゴーレムなら百や二百、軽い軽い」

「えっと、せめて授業数を減らしてもらえませんかね?」

「そんなもん、生徒に説明できん」

ばっさり切ったのはメザリオ教官。ラブレー教官はがっくりと肩を落とすとわたしを見る。

「手伝ってくれたりは……」

「ない」

わたしの即答に教官は再び肩を落とした。



「納得いかない部分も多かったわねー」

わたしは頭の後ろで腕を組み、背中を反らした。お咎め無しとはいえ、やっぱりわたしもやっちゃったことについてはモヤモヤがある。隣りでカーチャも頷いている。

「結局、ラブレー教官も許してもらえたわけだしね」

カーチャの呆れた声にわたしも頷きつつ、ふと思う。何だかんだいっても、ラブレー教官って教職は辞めたくなかったのかな。それが彼を人としての理性を保つ人間に留めているのかもしれない。

「演習場、どうするつもりなんだろう」

グラウンドを歩きながらわたしは破壊された演習場の方へ目をやる。暗くてよく見えないが、人形達も今はあそこで処分を待っている。

「……あの学園長のことだから、人形にも寛大だと思うよ」

ヘクターの言葉にわたしは頬を掻いた。考えていることがわかったらしい。

「じゃあ、私はこっちだから」

裏門を潜ったところでカーチャが通りを指差す。家が近いのかわたしとヘクターと違って徒歩のようだ。わたしはバス停のベンチに腰を下ろしながらカーチャに手を振った。

「気をつけてね」

「うん、また明日ね」

カーチャも手を振り返す。また少し距離が近づいた気もする。カーチャはわたしの隣りにいるヘクターにも手を振るべきか迷ったのだろう。目線が泳いでいる。わたしがどうフォローすべきか、と思った時だった。

「あのー」

ヘクターが目線は微妙に外しながらカーチャに尋ねる。な、なんだ、何を聞く気なんだ。予定外の出来事にわたしとカーチャに緊張が走る。わたしとカーチャの雰囲気が緊張に包まれる中、ヘクターの声が通りに響いた。

「前に何処かで会ったこと無い?気のせいだったらごめん」

おお!とわたしは感嘆する。す、すごい。漸く記憶の彼方から引っ張ってきたか!?わたしはカーチャが驚きに目を見開く姿を見た。嬉しいはずだが、例の発作が起きるのではないかとひやりとする。

「はひょれふはにょにれ!?」

意味不明な叫びにぎょっとするわたしとヘクター。ばっ!とカーチャが顔を押さえる。そしてそのまま背中を向けると走り去ってしまう。

「……ああ、やっぱり怒っちゃったのかな?馴れ馴れしかった?」

ヘクターが気まずそうに頭を掻いた。

「さ、さあ……」

わたしは曖昧に返事をしながら、目線を泳がせる。通りに描かれた赤い点々は、きっと暗がりで気のせいだと見ないようにした。



眩しい日差しが入る廊下を抜けると、今日も陰気な空気たっぷりのソーサラークラスの教室が見えてくる。

「おはよ」

まだ少し眠い目をこじ開けながら教室のドアを開け、始めに目が合ったキーラに手を上げる。

「おはよう。今日も一緒に来たの?」

うふふ、と髪を揺らしながら応えるキーラ。朝から色っぽいですね。キーラがわたしの腕を取り、

「うらやましいわ」

と心のこもっていない声で囁いた。

「自分だってクリスは?相手にしてもらえなくて可哀想じゃん」

わたしが言うとキーラは肩を竦める。

「相手にする理由が無いもの」

「おはよー」

少し眠そうな顔でセリスがわたしにもたれかかってきた。

「おはよ、重い!」

わたしはセリスの背中を押す。「あー、既に帰りたいわ」というぼやきに呆れながら自分で立たせる。そこへ後ろから声がかかる。

「おはよう」

「うわあ!びっくりした、おはよ」

わたしの反応に苦笑いのカーチャ。でもどこか嬉しそうだ。

わたしは窓際の自分の席に行くと重い鞄を置く。そして窓を開け、顔を出した。暖かいローラスの風が頬を撫でる。朝の眩しい日差しがすっ、と曇った。

「おはよ」

窓の外、わたしの声に反応して大きな影と小さな影がいくつも動く。学園警護の任務を担った巨人人形、そして何十というラブレー教官のミニチュア達が、わたしを見て手を振った。



fin

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